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「...バレンタイン卿の気持ちは良く分かった...僕としても今の兄上に思うところがないと言えばウソになる...ただ...」

 アレクサンドル王子は苦渋の色を滲ませながらそう言うと、

「出来れば争い事は避けたいと?」

 すかさず父親がその思いを代弁した。

「...情けないと思われるだろうが...卿の言う通りだ...どうも僕は昔から人となにかを争う事が苦手でね...そんな僕に王の座は相応しくないと思っているんだ...僕には荷が重過ぎると思うんだよ...」

「殿下、争い事が苦手である=王の資格無しなんてことはありませんよ? そりゃ確かに時には人と争うことも必要となって来るかも知れませんが、そういうものはこれから経験を積めば自ずと身に付いて来るものだと思いますし。それよりも重要となって来るのは、争い事に首を突っ込むべきかそれとも静観するべきか、そこら辺を見極める能力だと思います。なんでもかんでも争い事に首を突っ込んでいたら、体がいくつあっても足りませんからね」

「...なるほど...」

 父親の言葉に、アレクサンドル王子はなにか感じるところがあるようだった。

「それと今はまだ荷が重いと感じていらっしゃるようですが、だったら荷物を分け合えばよろしい。不肖この私めも荷物を背負わせていただく所存です。ご自分一人で全て背負うのではなく、適材適所に応じた人材を登用するということも、王にとって必要な能力の一つになると思いますよ?」

「...良く分かった...ありがとう...」

 今、アレクサンドル王子は目を閉じている。父親の言葉を噛み締めているようにも見える。

 ややあってゆっくりと目を開けた。

「...バレンタイン卿、今すぐという訳にはいかないが...自分の中で気持ちの整理を付けてから前向きに検討してみようと思う...今日のところはこの辺りで勘弁して貰えないだろうか?」

 父親が私の方をチラッと見たので、私は軽く頷いてみせた。

「分かりました。確かにちょっと性急過ぎたかも知れませんな。まずはご自分と良く向き合ってみてください」

「...あぁ、そうさせて貰うよ...貴重なご意見感謝する...」

「どういたしまして。それじゃリーチェ、帰ろうか?」

「はい」

「あ、外まで送るよ...」

「いえいえ、お構いなく」

 王子様にお見送りなんてさせる訳にはいかないからね。

「いや、僕がそうしたいんだ...」

 そこまで言われちゃ仕方ない。私達は揃って思い入れのあるこの部屋を後にした。
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