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「リーチェ、ちなみに今日アレクサンドル王子殿下は?」

「今日は珍しくいらっしゃってませんね」

 ここのところは毎日のように来てたんだけどね。

「リータはまだ教育中かい?」

「はい、お母様はさすがに物覚えが良いって感心してました。もうそろそろ座学の方は終わるみたいですね」

「フム...」

「お父様? 如何しました?」

 父親はなにやら考え込んでいる。

「リーチェ、僕とちょっとお出掛けしないか?」

「お出掛け? どこにですか?」

「王宮だ」

 私は息を呑んだ。


◇◇◇

 
 初めて訪れた王宮は、一言で言えば豪華絢爛そのものだった。前世のテレビで観たノイシュヴァンシュタイン城に良く似た白亜のお城は、まさにお伽噺の中に出て来そうな幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 外観に圧倒されながら中に入ると、これまた所狭しと並べられた見るからに高そうな調度品の数々や、壁に施された見事なレリーフ、回廊を彩る厳かな天井画などなど、とにかく圧倒されっ放しの私だった。

「リーチェ、こっちだよ?」

 父親に声を掛けられて我に返った私は、慌てて父親の後を追った。

「お父様、そろそろ教えてくださいよ? 私を王宮に連れて来たのは一体なんのためなんですか?」

「付いてくれば分かるよ?」

 またそれか...なにを企んでいるのか知らないが、さっきから父親はずっとこんな調子だ。

 やがて父親はとある一室の前で立ち止まった。

「リーチェ、覚えているかい? ここは例のあの日、お茶会が開かれた部屋なんだよ?」

「あっ...」

 言われて思い出した。そうだ。私ここに来たことあったわ。王宮に来るの初めてじゃなかったわ。全てが始まったあの日、確かにこの部屋でお茶会があったわ。

 なんとも言えない感慨に浸りながら、私は父親に続いて部屋の中に入った。

「殿下、お忙しい中お時間を割いていただきまして大変申し訳ございません」

「いやいや、気にしないで。全然構わないよ。それで話って?」

 中ではアレクサンドル王子が待っていた。いきなりの展開に私は一瞬面食らった。

「はい、娘が、リーチェが殿下にどうしてもお聞きしたいことがあるとのことでございまして」

 なるほど! そういう魂胆か! この謂わば『はじまりの部屋』でなら、本音を余すところなくさらけ出すかも知れないと! そう目論んだ訳か! やるじゃねぇか! 父よ!

「僕に? 一体なにかな?」

 ここまでお膳立てして貰ったのなら、私としても期待に応えるしかない。私は一つ息を吐いてから、改めてアレクサンドル王子に向き直った。
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