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「お父様、ちょっとよろしいでしょうか?」

 その日、私は父親の執務室を訪れていた。

「あぁ、構わないよ。どうしたんだい?」

「アレクサンドル王子殿下に関することをお聞きしたいんですが、確か以前こうおっしゃってましたよね?『評判が悪いことで有名だ』と? あれって具体的にはどんな風に『評判が悪い』っていう話になっているんでしょうか?」

「そうだな...まずは腹違いの兄であるジークフリート王子殿下と比べて頭の出来が弱い。剣術の腕も到底及ばない。という点が挙げられるな」

「フムフム...」

 この辺りは小説のストーリー通りだね。

「それに加えて努力することを嫌がる。勉強も鍛練もサボりがちで兄との差は広がるばかり。オマケに性格もおっとりし過ぎていて覇気というものが感じられない。他にもあったかも知れないが概ねこんなところかな?」

「なるほど...」

「リーチェ、急にこんなことを聞いてくるなんてなにかあったのかい?」

「実はですね...」

 私はここ最近気付いた違和感に関して父親に話して聞かせた。

「...つまり、アレクサンドル王子殿下は猫を被っているんじゃないか? そう言いたい訳なのかい?」

「えぇ、私はそう思っています。実際、例の数学の問題をマルガリータに解かせてみたところ、あの天才ですら多少は手こずっていました。それをほとんど一瞬で解いてみせたんですからね」

「...なるほど...」

「そして剣術の腕前に関してなんですが、死角からの攻撃に対して迅速な対応をしてみせた点は、素人目からしても相当な腕なんじゃないかと思いました」

「...確かに...リーチェ、君が言いたいことは良く分かった。だがなんのために? どうして猫を被る必要が?」

「お父様、そこなんですよ...私がお聞きしたいのはまさにその点なんです...」

「フウム...」

 私達は二人して考え込んでしまった。

「お父様、ちなみになんですがジークフリート王子殿下ってどのようなお方なんですか? 私はお会いしたことがないので人となりを良く知らないんですが?」

「そうだな...こちらも一言で表現するなら『性格が悪い』ってことになるかな」

「えっ!? そうなんですか!?」

 私はかなり意外だった。

「あぁ、確かに弟と比べたら頭の出来は良いし剣術の腕前も高いんだが、それを鼻に掛けて他者を見下したりする言動が目立つと良く聞く」

「そうなんですね...」

 小説の中では性格までは描写されてなかったからなぁ...勝手に人格者なんじゃないかと思い込んでたよ。
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