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「あ、そうだった。うっかり聞くのを忘れるところだったわ。ラインハルト、あなたはどう感じている?」

「どうとは?」

 飲み慣れないブラックコーヒーをちびちびと飲みながら、ラインハルトはそう聞き返してきた。

「マルガリータが貴族になるっていう点に関してよ。あなたは特に反対とかしない?」

 私の話を黙って聞いていたから、その点に関して異論はないものと思っているんだけど。それでもまぁ、一応は念のためにね。

 もっとも、例えラインハルトが反対だとか言ったとしても、それを聞く気は更々ない訳なんだけどね。あくまでも意思確認しておこうと思ったってだけで、既に決定事項であることは揺らがないから。

 ただやっぱり、心情的にはなにか思うところがあるんじゃないかって気にはなったんだ。いきなり立場が変わる訳だからね。今後の接し方とか含めて、気になる点があれば教えて欲しいと思った。

「僕は賛成しますよ。マルガリータならきっと立派な貴族になれるでしょうし」

「そう、それは良かったわ」

 私はホッと胸を撫で下ろした。

「実は僕も、マルガリータはいつまでも平民のままじゃいられないだろうなってことは薄々感じていましたからね」

「まぁ確かに。そう思って当然っちゃ当然よね」

 なにせ王子様のお気に入りなんだ。いずれは婚約、結婚って段階を踏むようになるんだとしたら、どこかのタイミングで王族のお相手に相応しい地位を手に入れる必要に迫られる。

 そう、ついさっきシンシアにも言ったが、要はそのタイミングが遅いか早いかだけの違いなんだ。そして往々にして、こういった場合は早く動いておくに越したことはないものだ。

 じゃないと、あの王妃はなにを仕出かすか分かったもんじゃない。なにせ小説のストーリーだと、マルガリータは何度も王妃に命を狙われる破目になるんだから。

 更にそれに加えて、悪役令嬢から悪魔令嬢へとジョブチェンジしたベアトリーチェ(つまり転生前の私)からも命を狙われる破目になるんだから。

 いやぁ、メインヒロインってのは本当に大変な立ち位置だよねぇ。つくづく私は悪役令嬢に転生して良かったと思うよ。

 ともあれ、私が悪役令嬢ならぬ悪魔令嬢にクラスアップすることは金輪際無いんだから、残る障害は王妃の存在ただ一つとなる訳だ。

 ここが正念場だな。私はコーヒーを飲み干した後、

「ラインハルト、悪いんだけど外出する前にマルガリータをここに呼んでくれない?」

「はい、分かりました」

 ラインハルトの背を見送りながら、私はマルガリータのために甘いお菓子を用意した。重い話をすることになるので、せめてもの緩衝材としてね。
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