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「ヒッヒッフー...ヒッヒッフー...すいません、取り乱しました...」

「お、落ち着いた?」

「えぇ、お陰様で...」

「だ、だったらその短剣をさっさと仕舞って! 仕舞って!」

 私はそんな物騒なものを目の前にして気が気じゃなかった...シンシアって怖い...怖過ぎるよ...なんでそんなすぐに覚悟完了したような顔になんのさ...

「あ、失礼致しました」

 そしてまたどこへともなく姿を消す短剣。手品か!? シンシアは手品師なのか!?

「フゥ...思いっきり喉が渇いちゃったじゃないのよ...シンシア、コーヒーお代わり」

「はい、ただいま」

「...だからコーヒーだって言ってんでしょうが...なんでお茶なのよ...ってか、このやり取り何度目?」

「コーヒーは何杯も飲むと胃を痛めますから」

「それは空きっ腹の時の話でしょ?」

 目の前にはお茶請けのスコーンがあるじゃねぇかよ。

「だったら『夜眠れなくなったら困りますから』にしておきます」

「ハァ...もういいわよ...」

 私は色々と諦めてお茶を口に運んだ。

「ところでお嬢様...その...お嬢様は本当にそれでよろしいのですか?」

「なにがよ?」

「ですから...政略結婚の駒として扱われることに関してです」

「あぁ、そのことね。う~ん...そうねぇ...完全に納得はしてないけど、こればっかりはしょうがないかなぁって感じかなぁ...」

「そうですか...」

「それにね? 子供の時分から...って、今でもまだ十分子供って言える年齢ではあるけど...要はもっと幼い頃から、領地改革やら資産運用やら好き放題やらせて貰っていたじゃない? もうそろそろいいかなって思ってるんだ。やりたいことは大体やって来たような気がするし、我が家の財政も領地の財政も立て直すことが出来たしね」

 私は初めて自分の考えを誰かに吐露したような気がする。思えば額に傷を負い、前世の記憶を取り戻した辺りの頃、傷物の自分は一生結婚できないと思って自立する働く女性を目指していたものだった。

 アレクサンドル王子の件もあったので、尚更結婚というものに臆病になっていたというのもある。多少無理してでも自立しなきゃなと思っていた。

 そこからは前世の知識をフル活用しつつ、こっちの世界に合わせてアレンジしながら遮二無二突き進んで来た訳だが、気が付けばいつの間にやら傷痕は消え、アレクサンドル王子もマルガリータに押し付けられそうな感じになっている。

 だったらもう、無理することないんじゃないか? 普通の貴族令嬢に戻って普通に結婚してもいいんじゃないのか?

 私はそんな風に思い始めていたのだった。
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