転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します

真理亜

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 アンドリューの荷物はボストンバッグ一つに収まるくらい少なかった。

 荷物を抱えたアンドリューを玄関で見送る。重そうだったので馬車を用意してあげた。

「お兄ちゃん! しっかり働くのよ!」

 マルガリータがビシッと人差し指を立ててアンドリューに言い聞かせる。

「あ、あぁ、分かってるよ...」

「リーチェ様の顔に泥を塗るような真似をしたら許さないからね!」

「き、肝に銘じます...」

 どうやら兄より妹の方が立場は上らしいな。

「アンドリュー、私からも一言。今すぐでなくてもいいから、お父さんとは仲直りしておきなさい。真っ当な職に就いたと知れば、少しはお父さんの溜飲も下がるでしょうから」

 恐らくだが、アンドリュー達のお父さんが反対した理由は、家を継ぐ継がないという話の前に、親として役者という不安定な職業そのものに拒否反応を示していたのではないかと思ったのだ。

 だから安定した職に就ければ、仲直りすることも可能になるのではないだろうか? 血の繋がった親子なんだから仲良くして欲しいと切に願う。

「は、はい...」

「マルガ、あなたも協力してあげて?」

「分かりました! お任せ下さい!」

 こうしてアンドリューは我が家を後にした。


◇◇◇

 
「お嬢様...その...」

 執務室に戻ると、エドワードが申し訳無さそうに手紙を持って立っていた。それだけで私はピンと来た。

「ハァ...またなの...」

「はい...」

 私は手紙を受け取って読み始めた。やっぱりアレクサンドル王子がお見舞いにやって来るという知らせだった。

 ちなみにマルガリータと邂逅したあの日から、アレクサンドル王子は更に頻繁にお見舞いに来るようになった。

 二、三ヶ月に一回というハイペースだ。どんだけマルガリータに会いたいんだか...

「今度は三日後か...シンシア」

「畏まりました」

 もうこれだけで意思疎通できるのだから楽なもんだ。

「ラインハルトもよろしくね?」

「分かりました。マルガリータに伝えておきます」

 お見舞いに来ると言いながら、アレクサンドル王子が私の寝室に顔を出す時間は次第に短くなっている。その分をマルガリータとの逢瀬に充てているからだ。

 目的が完全にマルガリータ目当てなのは誰の目から見ても明らかだ。マルガリータも満更ではない様子なので、私としては万々歳と言った所なのだが、仮病メイクを施すのが面倒で仕方ない。

 それにそろそろ王都に戻る準備を始める必要がある。つまり少しずつ病状が回復して来ていることを見せておかないと、いきなり元気になってしまっては不自然に見えてしまうだろう。

 そこら辺のさじ加減が難しい所だ。
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