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「リーチェ様ぁ~!」

 マルガリータが私の部屋にやって来たのは、ちょうど仮病メイクを洗い流して濡れた髪を乾かしていた時だった。

「マルガ? どうしたの? そんなに慌てて?」

 私はわざとすっ惚けて見せた。

「わ、私、知らなくて...」

「なにを?」

「り、リーチェがご病気だってことを...」

「あぁ、そのこと。知らなくて当然よ。言ってなかったんだから」

「そ、それはそうなんですけど...で、でも...」

「なんであなたに黙ってたかってこと?」

「は、はい...」

「言う必要がないと思ったからよ。実際この通り病気はほぼ治っているし、あなたに余計な心配を掛けたくなかったからね」

「そうだったんですね...」

 私としてはこのように誤魔化すしかないと思ったので、病気であることを隠していたのはマルガリータのためだということにした。

 実際は病気なんかじゃなくて単なる乗り物酔いなんだけどね...まぁ、そこら辺はご愛嬌ってことで...

「良かったです...今はお元気になられたんですね...安心しました...」

「ありがとう」

「それにしても王子様がわざわざお見舞いにいらっしゃるなんて! リーチェ様はやっぱり凄い方なんですね!」

「凄くなんかないわよ。私の実家が公爵家だっていうだけ。単なる社交辞令みたいなもんなんだから」

 そう、私としてはあくまでも貴族間の付き合いの範疇であるとして押し通そうとした。実際の所はそんな程度で収まるような話じゃないんだが、マルガリータには私とアレクサンドル王子が特別な関係であると思って欲しくなかったのだ。

「そんなことよりもどうだった? 初めて目にした本物の王子様の印象は?」

 そう問い掛けてみたら、途端にマルガリータの頬が赤く染まった。

「その...とっても素敵なお方でした...私のような平民にも優しく接して下さいましたし...」

 アレクサンドル王子って見た目だけはキラキラ王子様風だからね。中身はともかくとして。

 でもマルガリータのこの反応を見るに、どうやら掴みはオッケーみたいだな。

「惚れちゃった?」

「ほ、惚れっ!? そ、そんな畏れ多いこと...」

「あら? 王立学園に入学したら同じクラスになるかも知れないのよ? だからそんなに畏まらなくても良いのよ?」

「そ、そんなこと言われましても~...」

 マルガリータが照れ照れになってしまった。脈ありとし見て間違いなかろう。小説のストーリーからは少し外れることになってしまうが、私はこれはこれで良いかも知れないと思い始めていた。
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