上 下
53 / 316

53

しおりを挟む
「ではエドワード。まず最初に、別館を管理しているハインツを呼び出してちょうだい。別館の今後のあり方も含めて話があると伝えてちょうだいな?」

「畏まりました」

「次にラインハルト。今日は町の一等地を巡って、良さそうな物件をチョイスしてみてちょうだい」

「分かりました。条件とかはありますか?」

「条件としてはまず閑静な住宅街であること。次に大通りには面してなくてもいいけど、交通の便が良い所であること。そして最後に気品が感じられる建物であること。例えば白亜の豪邸とかね。その辺りはあなたの感性に任せるわ」

「難しそうですが頑張ってみます...」

「そんなに気負わなくていいから。もっと楽に構えなさい」

 私はラインハルトの頭をそっと撫でて穏やかにそう言った。

「分かりました」

 私はエドワードとラインハルト達がそれぞれ出て行った後、すっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。


◇◇◇


 しばらくすると、エドワードがハインツを連れてやって来た。

「ハインツ、良く来てくれたわね。忙しいところ申し訳なかったわ」

 これはもちろん皮肉を含んでいる。祖父母が不在でなおかつ、泊まり客の一人も居ない別館が忙しい訳がない。

「いえ、お構い無く。それでお話というのは?」

「単刀直入に言うわ。この本館と別館を引き払います」

「はっ!? い、今なんと!?」

 既に聞いているエドワードは平然としているが、寝耳に水だったハインツはビックリしている。まぁ無理もないが。

「聞こえなかった? 無理無駄を省く上で、金食い虫であるこの屋敷と別館を引き払うって言ったのよ」

「そ、それはまた...なんとも急なお話で...」

「急ぐ必要があるのよ。領民の不満が爆発する前にやらないとね」

「し、しかし...先代様がなんとおっしゃるか...間違いなく反対されると思われますが...」

「先代がごちゃごちゃ言って来ても無視していいわ」

「し、しかし...」

「いいこと? 私の意志は現当主であるお父様の意志でもあると思いなさい。隠居して遊び呆けている先代には口を挟む権利は無いわ。そこんとこしっかり理解しておきなさい。私は我がバレンタイン公爵家の正統後継者となる予定の者なんだから」

 本当はラインハルトが正統後継者になる予定なんだけどね。でも今の時点では、まだ私にも可能性があるからウソは吐いていない。

「...畏まりました...それで屋敷を引き払った後、我々はどこで生活するのでしょうか?」

「町の一等地に引っ越す予定よ。今、物件を当たってるわ。そしてこの屋敷と別館の今後の使用法なんだけど」

 私はそこでいったんタメを作ってから、

「劇場にしようと思ってるのよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零
恋愛
 私は、ある日思い出した。  ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。 「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」  その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。  思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。  だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!  略奪愛ダメ絶対。  そんなことをしたら国が滅ぶのよ。  バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。  悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。 ※他サイト様にも掲載中です。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)
恋愛
侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは7歳の誕生日が近づく頃、 前世の記憶を思い出し自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付く。 このまま進むと国外追放が待っている…! 焦るビアンカだが前世の自分は限界集落と称される離島で自給自足に近い生活をしていた事を思い出し、 「別に国外追放されても自給自足できるんじゃない?どうせなら自然豊かな南国に追放して貰おう!」 と目を輝かせる。 南国に追放されたい令嬢とそれを見守る溺愛執事のお話。 ※小説家になろう様でも公開中です。 ※ネタバレが苦手な方は最新話まで読んだのちに感想欄をご覧になる事をおススメしております。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...