転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します

真理亜

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「そんなツレないこと言わないで欲しいな。僕はベアトリーチェ嬢とも仲良くしたいんだ。前に友人としてなら構わないって言ってたよね?」

 今度はそう来たか。やっぱり私との婚約を諦める気は無いってことだな。だったらハッキリ言っておこう。

 私はやおら前髪を掻き上げた。当然ながら額の傷が顕になる。もうとっくに抜糸して完治してはいるが、醜い傷痕はクッキリと残っている。

 その場に居た全員の息を呑む気配が伝わって来た。特に初めて見たラインハルトの動揺は、繋ぎ合った手の震えから直に伝わって来た。

 あ、そう言えばラインハルトにはこの傷のことをちゃんと伝えてなかったな。後でしっかり説明しておこう。

「王子様、よおくご覧下さい。この傷は普段、こうやって前髪で隠していられますが、ちょっと強い風が吹いたら忽ち顕になってしまいます。そんな傷物令嬢が王子様の側に居たら世間はどう思うでしょうか?」

「そ、それは...」

「間違いなくこう思うことでしょう」

『あの令嬢は傷を負ったことを王子様のせいにして、責任を取れと迫って無理矢理一緒に居るんだ。なんて強かな女なんだろう』

「そ、そんなことは...」

「無いと言い切れますか?」

「......」

 ついにアレクサンドル王子は黙り込んでしまった。

「王子様、私も私の家族もそのような扱いを受けることはとても許容できません。ですのでどうかご配慮頂けますよう何卒お願い申し上げます」

 そう言って私は深々と頭を下げた。

「あ、頭を上げてくれ! ベアトリーチェ嬢、済まなかった...僕が浅慮だったようだ...」

 頭を下げていてもアレクサンドル王子の慌てようが伝わって来た。

「ご理解頂けたようでなによりでございます」

 私はまだ頭を下げたままそう続けた。

「ベアトリーチェ嬢、頼むからいい加減頭を上げてくれよ...」

「申し訳ございません...このような公の場で傷痕を晒したことが恥ずかしくて頭を上げられません...」

 そんなこと微塵も思っちゃいないが。私は心の中でペロッと舌を出しながら演技を続けた。こうしておけばアレクサンドル王子は、居た堪れなくなってさっさと帰ってくれるんじゃないかな? と画策してたりする。

「そ、そうか...それはその...色々と申し訳なかった...今日の所はこれで帰ることにするよ...バレンタイン公爵、今日は時間を取ってくれてありがとう。今後のことはまた連絡させて貰うよ」 

 良し! 上手く行った! 

 私は頭を下げたまま心の中でガッツポーズしていたのだった。
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