転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します

真理亜

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「あぁ、ベアトリーチェ嬢! 可哀想に...」

 アレクサンドル王子は私の額に貼ってある絆創膏を見て、悲しそうに顔を歪めた。

「その傷は僕の婚約者選定のお茶会で、将棋倒しに巻き込まれた時に負った傷だよね?」

「えっ!? えぇ、そうですけど...」

「本当に申し訳ない...あろうことかご令嬢の顔に傷を付けてしまうなんて...」

「いえいえ、王子様に謝って貰うことじゃありませんから」

「いやいや、僕の責任だよ...だから責任を取らせて欲しい。ベアトリーチェ嬢、僕の婚約者になってくれないだろうか?」

 なるほど...そう来たか...これが小説の持つ強制力とやらなのかも知れないな...どうあっても私を死亡エンドに導きたいらしい...

 ふ・ざ・け・ん・な・! 

 そんな理不尽な運命受け入れて堪るか! そっちがそう来るなら私は徹底的に抗ってやる!

「いえ、結構です。お断りします」

「えっ!? ど、どうしてだい!? 君は僕の婚約者になりたかったから、あのお茶会に参加していたんだろう!?」

 まさか断られるなんて露ほども思っていなかったのか、アレクサンドル王子はビックリして目を丸くしながらそう言った。

「えぇ、確かにそうですが、この通り傷物になってしまいましたので」

「いやだから、その責任を取って」

「アレクサンドル王子殿下は責任感のみで婚約者を選ぶおつもりですか?」

 不敬に当たるかも知れないとは思ったが、気付けば私はアレクサンドル王子の言葉を遮っていた。

「えっ!? い、いや、そんなつもりはないが...」

「では私のことが好きだから婚約を結びたいと?」

「そ、それはその...お、お互い会ったばかりだし、そ、そう言った思いはこれから育んで行けたらいいかなと...」

 途端にアレクサンドル王子がしどろもどろになった。

「ハァ...」

 私はもう不敬に当たるとかどうでもいいやと思って、大きなため息を一つ吐いた。

「アレクサンドル王子殿下、正直におっしゃって下さいな? 王妃陛下に命じられたから来られたんでしょう? 私と婚約を結んで来いと。我がバレンタイン公爵家の支持を取り付けて来いと」

「......」

 アレクサンドル王子が沈黙してしまった。やっぱりね。そんなことだろうと思ったよ。

 小説の舞台であるフィンウェイ王家には王子が二人居る。この第二王子のアレクサンドルと第一王子であるジークフリートだ。アレクサンドルは正妃の子だが、ジークフリートは側妃の子だ。

 現国王と現正妃の間には中々子が出来なかった。そこで後継者を残すため仕方なく側妃を娶ることにした。幸い側妃はすぐに懐妊し男の子を産んだ。待望の後継者の誕生に王宮はお祝いムードに包まれた。

 焦ったのは現正妃で、このままだと正妃の座を側妃に奪われるかも知れない。より一層現国王に迫った結果、側妃から一年遅れでやっと懐妊した。

 それが今目の前に居るアレクサンドル王子だ。
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