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プロローグ(一章まるごと読み飛ばしOK非エロエピソード)

人違い?

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神戸かんど・・・怜子りょうこ・・・」

 何やらうつろな表情の少女はたどたどしく、小さな声で答えた。

「「「「「!?」」」」」

「カンド・リョーコ?
 それがそなたの名前か?」

 ファウストが再び問いかけると少女は小さくうなずいた。

「な、名前が違うでは無いか!!」
「そんなまさか!?」
「別人ではありませんか!?」

 狼狽うろたえる重鎮たちに対し、やはり狼狽ろうばいを隠し切れないマリスが動揺を鎮めようと呼びかける。

「お待ちください!
 なにぶん、古き時代の記録ゆえ、名前が誤って伝わっている可能性もあります」

「そうです!
 まだ別人と決まったわけではありません」

 マリスに続いて御用商人のシャーロックが言うとイェッタハンは冷静さを取り戻した。

「い・・・いかにも!
 我々が伝え聞いている名前の方が間違っている可能性もあります。
 まずは静粛に!
 そして確かめましょう」

 イェッタハンの呼びかけに重鎮たちはひとまず落ち着いた。

「ホントに大丈夫だろうな?」
「今更別人でしたでは困りますぞ・・・」

 アンタレスとゾーンが口々に言いつつ、一同は再び少女の方へ注目する。
 場が静まるのを見届けたファウストは再び少女に話しかけた。

「お前の名前はカンド・リョーコだな?
 では、お前は宇宙狼を知っているか?」

「宇宙・・・狼・・・なん・・・ですか、それ?」

「「「「「!」」」」」

 一同は驚きつつも無言を保つ。

「では、宇宙戦艦『死の影号』や『理想郷号』は知っているか?」

「わか・・・りません・・・」

「では、カピタン・アルバトールという人物は知っているか?」

「かぴたん・・・そんな・・・名前の・・・人・・・は・・・知り・・・ません」

「カピタンは名前じゃなくて称号じゃ。
 キャプテンとか船長とか・・・
 そうじゃ!キャプテン・アルバトールか、それかアルバトール船長ならどうじゃ?」

「アルバトール・・・知りません・・・船乗りの・・知り合いも・・・いません」

 驚愕と失望がその場の空気を支配した。

「やはり別人!」
「なんということだ!!」
「そんな馬鹿な!」
「いったいどうして!?」

 ざわめく重鎮たちを今度はファウストが鎮めようと口を開いた。

「お静かに!
 まだ目覚めたばかりで記憶が混乱している事も考えられます。
 今しばらくお待ちください」

「皆の者静まれ!」

 ファウストの呼びかけにもかかわらず落ち着きを取り戻さない重鎮たちを、今度はトゥリ王太子が沈めた。さすがに王国の重鎮である彼らは、王太子の言葉には反応せざるを得ない。

「ファウスト博士の申される通りだ。
 マリス司教や内務尚書が申した通り、我らの聞いている伝説の方が間違っていることも考えられる。
 ファウスト博士、まずは彼女の事を訊こう。
 差しさわりの無いところから、少しずつ、順にだ」

「かしこまりました」

 ファウストはトゥリに感謝しつつそう応じると、少女に向き直って質問を続けた。

「ではお前の事を尋ねる。
 お前の歳はいくつかな?」

「じゅう・・・はち・・・」

 少女が答えるや否やアンタレスが顔をしかめた。

「やはり違うようだな。」

「ケイ・ユーキは16だったはず」

 アンタレスの発言を受けるようにゾーンがそう指摘するとマリスが静かに反論した。

「いえ、16歳の時の話しか伝わっていないだけです。
 17歳以降の彼女がどうなったのかは伝わっていません」

「左様、18歳で致命傷を負い、『聖骸の乙女』になったのかもしれません」

 マリスの指摘にイェッタハンが同意を示すと、ゼーダも続けた。

「そもそも、ケイ・ユーキが16歳で活躍したという話自体が間違っている可能性もあります」

(歳などどうでもよいではないか、ゴチャゴチャとうるさい奴らめ)

 ファウストは多少いらつきつつも表面上は落ち着き払って話を続けた。

「では、お前の身分を訊いても良いか?」

「がく・・・せい・・・」

「学生か?」

「いえ・・・そつ・・・ぎょう・・・した」

 少女の回答にアンタレスがいよいよガッカリした様子で鼻を鳴らす。

「どうやら別人は確定だな」

「うむ、ケイ・ユーキに学業を積む余裕は無かったはずだ」

 やはりゾーンがアンタレスの言葉に同意を示す。それを無視してファウストは質問を続ける。

「卒業したのか?
 それからどうした?」

「卒業・・・式・・・終わって・・・家に帰る・・途中・・・の・・・踏切で・・・」

(イェッタハン、『ふみきり』とは大陸にある鉄道のやつか?)
(おそらくそうでしょう、殿下。)

「地面に・・・黄色い・・・あれは・・・バナナ・・の・・・皮?」

 少女は次第に苦悶の表情を浮かべ、両手で頭を抱え始める。

(『ばなな』とは何のことだ、イェッタハン?)
(おそれながら、寡聞かぶんにして存じません、殿下。)
(たしか、いにしえの果物です。
 大降下だいこうかの際に失われた農作物の目録に、そのような名があったと記憶しております。)
(さすがマリス司教、ありがとうございます)

「お静かに!」

 ゴチャゴチャうるさい外野に釘をさしたファウストは質問を続けた。

「で、地面にバナナの皮があったのじゃな?
 それからどうした?」

「足元に・・・バナナ・・の・・・皮・・・
 地面と・・・空が・・・入れ替わって・・・
 空が・・・光って・・・警報が・・・鳴って・・・電車が・・・うううっ・・・頭が、痛い!」

 少女は頭を抱えて苦しみ出した。

「どうやら、今はこれ以上は無理なようです」
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