冷凍睡眠から目覚めたら不死身のセクサロイドにされていた件（アルファポリス版）

プロローグ（一章まるごと読み飛ばしOK非エロエピソード）

第四次勇者計画

　　まだ朝の清浄な空気に満たされた玉座ぎょくざの間には王国の重鎮たちが居並び、主君たる国王を待っていた。

　定例の御前会議ごぜんかいぎの筈だが、本来各部門の尚書しょうしょたちだけが参加するはずのこの場に見慣れぬ顔が同席している。
　やがて後宮こうきゅうへ続く扉を開けて衛兵が入ってくると声高らかに王太子おうたいしの入室を告げた。

「アルバトール王家王太子トゥリ殿下、御入来ごにゅうら～い！」

　一同が正面を向いて姿勢を正すと、開け放たれた扉の向こうから一人の青年が姿を現し、厳かに玉座の隣へと進むとそこで直立する。
　続いて王陛下の御入来かと思いきや、衛兵はそのまま王太子が入ってきた扉を閉めてしまった。

「王太子殿下、畏おそれながら御時間となりましたので御前会議を始めたく存じますが、本日国王陛下は御成おなりではございませんか？」

　御前会議の議事進行を担う王国内務尚書ないむしょうしょイェッタハンからの問いにトゥリは何事か答えようとしたが、下座しもざに控える見慣れる顔を見て一旦言い留まった。そして溜め息一つ小さく着いてから改めて口を開く。

「王陛下は故ゆえあって欠席する」

「困りましたなぁ。
　本日の議題は王陛下御自身が中心となって進められていた計画についてです。」

「・・・理由は後で話す。
　別件として本日の議題としたい。
　先にそちらの案件を進めよ」

「しかし・・・」

　イェッタハンがごねると王国軍務尚書ぐんむしょうしょアンタレスが口を挟む。

「内務尚書閣下、王陛下のご都合が悪いとなれば致し方ないではないか。
　王太子殿下が名代を御勤めになられるというのだ。
　始められれば良かろう」

「左様さよう、トゥリ王太子殿下にあらせられては、過去にも王陛下の代わりに御前会議を御出席あそばされた御実績があらせられる。

　出席者の顔ぶれが変則的なのは気になりますが、本日の議題は何ですかな？」

　アンタレスに続き王国財務尚書ざいむしょうしょのゾーンにまでそのように促され、イェッタハンは渋々ながらも議事を進める事とした。

「わかりました。それでは御前会議を始めます。
　本日は第四次勇者計画について重大な御報告がございます」

　その言葉に一同は驚きを隠せなかった。

「第四次勇者計画ですと！？」

「勇者計画とは・・・！
　連合征討軍に軍勢を派遣しない代わりに、少数精鋭の部隊を編成し派遣する計画でしたな？」

　そのざわめきを抑え込むようにイェッタハンは声を高くする。

「いかにも！
　王陛下より密命を受け、臣しんが水面下で計画を進行しておりました」

「過去３度の失敗を経て、同種の計画は凍結されたのではなかったか？」

「だいたい、教皇庁の同意が得られまい？！」

　なおも動揺静まらぬ王国重鎮らに対し、イェッタハンはあえて落ち着きを払って言い切った。

「過去の教訓を踏まえ、王陛下御自ら考案された対策を反映してございます。」

「では、教皇庁も関わっておられるのか？」

　ゾーンのこの疑問には列席していた聖職者が答える。

「おそれながら！
　本計画は王陛下の御提案と、教皇猊下げいかの勅命ちょくめいによるものでございます。」

「失礼ですが、そこもとはどちら様かな？」

　見知らぬ聖職者の身元をゾーンが問いただすと、イェッタハンが替わって答えた。

「御紹介が遅れました。
　彼は教皇庁から派遣された特務官で本計画を担当するマリス司教です」

「本計画への協力のため、王都アーカヂ教会に赴任しました。
　以後、よろしくお願いいたします」

　イェッタハンの紹介を受け、マリス司教は恭しくお辞儀をする。

「第四次勇者計画の存在自体が初耳だし驚きだ。
　しかし、『重大な報告』というからにはこれだけではないのであろう？」

　玉座の隣にたつトゥリ王太子がイェッタハンに下問する。イェッタハンは玉座に向き直って答申した。

「御明察の通りでございます、王太子殿下！！
　第四次勇者計画の核心たる『勇者』の復活が、昨夜見事成功をおさめましてございます！」

　おお！と一同がざわめく。それがおさまらぬうちにイェッタハンは続けた。

「まずは此度こたびの勇者復活の実務を担いました、かの高名な錬金術師れんきんじゅつし、ファウスト博士を御紹介申し上げます」

　イェッタハンが振り返りながらそう言うと、末席に座っていた男が進み出た。

「御紹介に預かりましたファウストと申します」

「あれが有名な錬金術師の・・・！？」

「齢よわいは３００歳を超えていると聞くが、普通に見えるな」

　重鎮たちがヒソヒソと小声で批評する中、イェッタハンは待ちきれない様子で促した。

「博士！
　早速ですが、お披露目願いますかな？」

　ファウストはハハッと答えると振り返り、謁見の間の入口に向かって合図を送る。

　それを見た衛兵が頷いて戸を開くと、そこには全身をフードで覆った人が立っていた。

「これが吾輩わがはいが復活せしめましたる『聖骸せいがいの乙女おとめ』にございます」