廃人だけどモテモテ勇者なオレ参上プラスアルファ

ザノ・夕ナ

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邂逅から始まった愛・恋・仕事

ツボの深さ

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「食べ物を粗末にするなよ」
「だよな。アワビ大切にしないと」
「俺は食べ物じゃなくても大切にした。もう誰からも奇人扱い同然だ」
「ようするに、ゴミとか採っていたんだろ」
「ああ。ゴミ屋敷の住人だ」
「オレもだ。屋敷っていうほどデカい家ではないけどな」
「廃人は似るんだろうな、割と」
「でもさ、ゴミ屋敷住んでるの何人も見たことあるが、あれは、共感できないっていうか、べつに精神的には苦しんでいないやつだ、ってなんか思うわ、ホームレスのにも」
「ニセモノってことだろ。オレたちはホンモノ、廃人マスター」
「ニセモノ……だろうな、そういう表現もできる」
「それにしても、オレはまえいたところでムロイとは話したことはない関係だった。こんな馴れ馴れしくていかったか?」
「その程度のことで悪いだなんてそんなことはない。ホンモノどうしにそんな気遣いは不要なはずだ」
「だよな。それにしても、オレはもといたところで毎日引っ越したい気持ちでいっぱいだった。嫌なんだ。そもそも、オレを騒音で苦しめたりしたやつは、オレの近所では新入り。オレはずっとあそこで暮らしていた。きたない家だったけど、あの新入りが近所に来るまえまでは、割と平和だった。そして、その新入りのほかにも恨んでくる騒音嫌がらせ野郎もいたから、オレは一日中ずっと気が抜けなかったんだ。新入りこそ引っ越せよって気分だった。でもうちのジジイもジジイでありとあらゆる音をうるさくたてようとするから、夜もねれないし、不快だったよ」
「それ、俺もなんだ」
「奇遇だ」
「きっと、騒音のそいつが佐藤の家から出て、屯する場所が俺の家の前。あいつ、絶対ニートだ」
「オレの家の前から頻繁に出発してムロイんちの前に行っていたと……。そうだ、レイノ、あいつら、どうにかできなかったのか?」
「私もあいつらは嫌いでしたが、処分するというまでの力は発揮できずにいたんですよね……」
「あいつらじゃ絶対落とせない、こんな美人にまで不快にさせやがって、チクショウ。あいつの嫁、見たけどめちゃくちゃ不細工だぞ。もしかしてあの嫁ごときでゲットして調子のってるのか、だからってあの嫌がらせはねーよ」
「でもこっちならあんなやつらもういないだろ、ラッキーだ」
「な。でもあいつらはまだ異世界あこがれもいだけずあの世界で愉しくやってるよ」
「……ああ。それさ、思うんだ。そのくせ、あいつらって、その大好きな、あいつらにとっては愉しい世界を、壊しているのにな、矛盾しすぎだ」
「テキトーに子どもつくって、虐待とかな。よく赤ん坊が泣き叫んでる声聞こえたよ」
「あいつらって、絶対小学生以下の、年齢だけの大人だよ。なのに酒とか飲んでな。タバコも吸って」
「ああ、ほんとだ。でもいいさ、そんなチクショウってなることも忘れて、豪遊だ!」
「だな!」
 オレたちは、レストランに向かう。
「食い終わったらバンガローに泊まろう」
「いいな、バンガロー。異世界バンガローには浪漫を感じる」
「だろ、まえいたところのはなんかな、しっくりこねーわ」
「でもさ、ムロイって、ホモなら、男、つくらねえのか?」
「そもそも、俺は佐藤の家来だ。だから、勝手に男つくるのも不躾ってものだろ」
「いや、そんな拘束はしないよ」
「まあ、気分だな」
 レストランに着いた。
 焼肉専門店だ。でも屠殺ではない。
 この世界の肉は、ただ肉であり、屠殺ではない。
「テキ屋っていうんだっけ?」
「違うよ。テキ屋はステーキのテキではない」
「あのジジイ……。うちのジジイがテキ屋はステーキ屋のことだって。得意気にいうから……」
「でもビーフステーキの略がビフテキだよね」
「自信満々そうだけど、それも違うよ。ビフテキはビフテックからきてるって」
「……まぎらわしいっ」
「だよな。コミケにしろ。コミマでいいのにな」
「検索してみよう。いや、検索してもこっちはネットとかできないのか? そもそもパソコンもケータイ電話も持ってきてないが」
 メニューにビフテックの文字があったのでそれを注文しようと思う。
「こっちもカタカナが使われているんだな。カタカナしか見ていない、いまのところ」
「こっちはカタカナだらけかもな」
「カタカナって実は日本語ってわけでもないだとかさ、佐藤も聞いたことあるだろ」
「ああ! たしか古代の!」
「いいな、カタカナ」
「ああ。でもさ、ムロイ、なんでスターにでもならないんだ。生きにくくても、ムロイなら、なれただろ、スターに。モデルでも、ミュージシャンでも、いろいろ」
「実は俺、すげえ頭馬鹿になっててさ」
「ええっ、あの学年一位の、天才がかっ?」
「そうだ。もう、何も、覚えれないんだ……ほとんど……」
「……」
「壊されたんだ」
「知ってる。知ったかしたいわけではないけど、ムロイ、おかしくなってたから。すげえ元気、なかったもんな、後期。いじめられた経験あるオレからも思うけど、オレの従者であるムロイをいじめするああいうやつらは許せねえ」
「野生動物みたいにされた気分なんだ」
「でも、それ、大抵の女はよろこんで大金出して買ってくれるぞ、ムロイなら」
「でも、かっこよくはないだろ、それじゃ。どんどん壊れてってるしさ、いつか捨てられそうだ」
「どんなにかっこいい男だとしても合わせれる女は滅多にいないと」
「だろうな。女版の俺か、女版の佐藤ぐらいだけだろうよ」
「佐藤なんていっぱいいるぜ」
「そういう意味じゃないよ」と、ムロイは微笑しながら言った。
 オレは、ツボに関心がある。
 ツボとは、ツボ。笑いのツボ、とかのツボとは別だ。
「ねえ、ツボ見せてくれねえ? 奥まで? カラドボルグ、だっけ?」
「ああ、しっかり見てやれよ」
「奥どのぐらいまであるの? これ?」
「なにか挿れればわかるだろうよ」
 ビフテックが届いた。
 ビフテックの上には、ミルクイが。
 このミルクイもさっきの肉のように屠殺ではない。伝わりにくいかもだがともかくそうなんだ。この異世界の感覚は実際に来てみないとわからないかもだ、語られても。
「そうだ、ミルクイ挿れよう」
 そのミルクイはデカい。
 オレはミルクイをカラドボルグのツボに挿れた。
「ああっ」とカラドボルグはイった。
「お? 届けよ?」
 届いた。
 ツボの奥までミルクイが到達した。
 オレは、すぐにミルクイを引き抜いてから食った。
「どうだ? 気持ちよかったか?」
「はい、キング」
「キング?」
「俺のことだよ。でも実質キングの俺より上の佐藤はゴッド、だろうか」
「ツボの中の液が絡みついて余計に美味しくなった、ありがとな」
「ありがたきお言葉」
「それにしても、誰のツボが一番深いのか試さないか? ヤイバとサヤとレイノとクレイヴ・ソリッシュとカラドボルグのは長時間見たから確認済みだけど、みんな持ってきてるよね? ツボ? オレさ、長時間見ないと確認したことにしないんだ」
「それ俺もだ。わけがわからなくなるんだよ、俺、しっかり見てないと、見たんだっけ? ってさ」
「まさか、あの、完璧超人のムロイがな……」
「だろ、でも俺を気に入ってくれたこのふたりがいるからなんとかなってるんだ」
「でももうオレの女だけどな」
「いいんだ。友だちいっぱいいるといいとかよくもといた世界でもなんかいわれてただろ。みんな仲良く、だ。べつに佐藤は悪い男じゃないよ。浮気っていうやつかもしれない、でも、結果平和なら、それ、いいことだ。不倫とかそういう社会問題は、仲が荒れるから問題とされているんだ。みんなと仲良くして誰もフラずにぶっ通す、これは、平和だ」
「いいこといった!」と、オレはイった。
「そうだ。ツボの汁、飲んでやれよ」
「ナイスアイディアサンキュームロイ」
 オレは、よく見た映画俳優の真似をしてツボの汁を大量に飲んだ。
「これなら砂漠でも生き延びれるかもな」
「たしかに。あ~美味しい」
 オレはそこでそこにいた女全員のツボの液を飲んだ。
「口直しになったか?」
「うん」
「もう夜遅い時間だ。バンガローはまたにしてこの辺の宿で泊まろう」
「あ、ならさ。学校に行かね?」
「学校か。あいてるのか」
「あいてるよ、部活で、夜からも使っている人いるから」
「へぇ、そうなんだ。夕方も部活、で、夜も部活と。考えられないわ。オレ夕方の部活でも一杯一杯だったのに」
「そうだよ、私たちはしてないけどね、そこまで」
「だよね! 当然だよそんなの」
 オレたちは、再び学校に向かった。
 オレたちは、学校に泊まる。
「文芸部もあいてるかな」
「文芸部? 女子は?」
「女子しかいないよ」
「よっしゃあ!」
 文芸部員のいる部屋に向かう。
「入るよ?」
「ねぇ、誰あのイケメン」
「オレ現人神だからさ。だって、さっき王を超えたってさ、いわれちゃった」
「ねぇ、すごくない? あの、イケメン具合」
 読書中の部長。
 部長が顔を上げ、オレのほうを向いた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「オレのこと? 照れるなぁ、こんなのべつにかっこよくないのに」
「そんな、謙遜しなくてもいいのに」
「そう? じゃあさあ、この学校にいる女子みんな、集めてオレと大乱闘しようよ」
「大乱闘?」
「まあ寝技っていうかさ」
「乱取りですか?」
「そう、それ! ……この学校にいる女子全員! 乱取り! よーい始め!」
 オレはまず部長から乱取りしていく。
 オレは開き直っているんだ。確かにオレはもっといい女を知っている、手にした。でもだ、オレは、ここにいる女子全員と乱取りしたいんだ!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」と、オレは言った。
 オレはとりあえず気合を入れるために叫んだんだ。
 ジジイがオレが寝てる中でもお経唱えだすからうるさくて叫んだこともあったけど。さっきの叫びみたいな声で。
 オレ、ムロイは嫌いではないが、他校の先輩に、嫌いな先輩がいた。その先輩は、美形で、でもムロイよりかは不細工さ。でもその先輩は、学校の女子全員の帽子を吸いついたことがあって、オレはそれを聞いて許せなかったんだ。
 で、いまオレ。学校の女子全員の帽子を吸いついた先輩のようになろうとしているが、わけが違う。その先輩が悪い、オレをこうさせたんだ、きっと。チクショウ。
 オレは明日、学校の女子全員の持参したアワビを味わいつくそうと思う。オレは先輩を超える、オレは神をも超える、ああ超えてやるさ。
「すごいがっつきよう……」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」と、オレは言った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」と、部長は言った。
「会長がイケメンくんの噂聞いてすごい真剣な顔で走ってってるって」と、外野は言った。
「ホントだ、会長足速っ、廊下走っちゃだめってさんざん普段はいってるのに、自分で走ってるよ」
 テニス部女子で一番手の会長、会場に乱入。
 オレのもとにがっつきにきた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と、会長は言った。
 急遽、会長も参戦。
 すごい激しい夜の大乱闘。
 オレは高速で腰を振った。
 いまは柔道ではなく、ダンスのバトルになった。
 男はオレひとりのダンスバトル。
「アッ! ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と、オレは言った。
 腰振りダンスが激しすぎたゆえに体力の限界がきたのだ。
 オレは、会長の帽子に顔をうずめた。
 会長の帽子はフカフカした素材である。
「こんなイケメン、初めて見た……♡」と、会長は言った。
「二の腕だっけ。キミの帽子と二の腕の柔らかさって同じなの?」
「そうだと思います」
「ホントに?」
「実際に比較したわけではないのでわかりませんが」
「ならオレがやってやるよ」
 体育館の真ん中でのダンスバトルはドロー。ドローは引き分けの意味だ。
「もっと私を好きになってください」
「いいけど、キミ、結構がっつきすぎるタイプだ。会長って外野が言ってるから、キミ、会長なんだろ。会長のくせに気が荒いんだな。よし、なら一番いい女、出してよ。いや、もうそれは明日にしようかな。いや、今日一緒の部屋で寝る用に!」
 オレは、体育館に校内の女子全員を整列させた。
 オレは体育をしたいから彼女たちの体育で使う帽子の持参をチェック。
 食糧のアワビの持参もチェック。
 オレは気に入った女の帽子とアワビを吸った。
「キミのツボ浅くないか? オレの小さいサックスでも奥届いたぞ。どこ由来なんだろうか」
 オレはサックスをツボに挿れた。
「いいサックス置きですね」
「だろ? 話がわかる。さすがは吹奏楽部だ」
「私、フルート派何ですけど」
「副部長……」
「べつにいいよ、オレのサックスフルートにもなるから」
「ホント、だ」
「マジック」
「さすがイケメン」
 オレは副部長にフルートをふかせた。
「ウマいね、キミ」
「きゃっ! ♡」と、吹奏楽部副部長は言った。
 オレは再び急に腰を振り出した。ダンスダンスんでダンス。
「ダンスの神様だろ? オレ?」
「はい♡」
「かっこよすぎ?」
「かっこよすぎます♡」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と、オレは言った。
 オレたち決闘者は叫びまくった。
 乱闘を通して、気に入った女を保健室に連れ込んだ。
 寝た。
 翌朝。
「あ~♡」と、オレ基準で学校一の美女は起きて言った。
 まさか、オレが、このような女を気に入るとはと、生徒たちは思った模様。
 そうだ、オレにとっての美人は、この世界では不細工とされているようだ。だから、オレは不細工に大変やさしい男で、なおさらモテてしまう。
「よし! いくぞぉ!」と、オレはアワビに向かって言った。
 今日の朝飯はアワビ! うん! 豪勢だ!
「佐藤。バンガロー、どうする」
「そうだなぁ、まあ、いいけど、先アワビで!」
「朝アワビか」
「そうそう朝アワビ」
「登山か。なんかたのしそうだ。登山ってさ、俺精神疾患あってもなかなか好きでさ。でもそれも無理になってきてからはしていない」
「山いいもんね。オレ大きい山大好き。テント張ってすみつきたい。ムロイはテント大きいよな、その体だと、大きくないと入れないもんな」
「テント大きくないとサックスも置けないもんな」
「ああ、サックスって大事だ」
「オレも毎日使ってるよサックス」
「ヘッドバンキングすると余計にキマるぞ」
「ムロイほどではないよ」
「え? 佐藤くんのがキマってるよ!」と、オレ基準で学校一の美女は言った。
「あはは、ありがとう。ああ、そうだった。まださ、昨日来てない子も今日来るし、その子たちと大乱闘してからだ。バンガローは!」
「だな。愉しめよ、大乱闘。俺は加わらないけどな」
「おお!」
「おっ、パインがあるけど、食うか? 俺の女の」
「うん! 食べる食べる!」
「ほら、持ってきたぞ」
「おっ! パイン来た! ウマそうだ!」
「アワビにパインと豪華だな。ホモにでもわかるよ。ホモでも感覚ずれてるとか思うんじゃねえぞ~?」
「んな、ないよそんな偏見」
「さすがは佐藤」
「ああ。オレ、ヒロシって名前だけどさ、ウチュウって漢字で書くから、からかわれたなぁ~、これ、かっこいいかもだけどさ、オレはイケメン主人公でもないから、似合わないし。しかも親がたまたま見たスポーツ選手からとったってだけで、べつに特別でもなんでもないんだ。オレさ、アニメならスポーツたのしめても、リアルのは、ちょっと……」
「たしかにな。俺もリアルのスポーツ番組はまず見ないわ。大好きなやつって結構いるけどな。でも、たのしいのもあるぞ」
「え? それってどんなのだよ」
「哲学者のサッカーとかさ」
「哲学者? なんかおもしろそうだな、それって」
「でも俺はこの世界のがおもしろいと思ってるよ」
「きっとオレもそうだ、まだ見たわけではないけど、そのサッカーを」
 数分後、オレは教師に提案した。
「何者だね、君は」
「オレは佐藤宇宙です。でも、異世界的にいうと、サトウ・ヒロシ、かな。どっちも読み同じだけど」
「授業妨害したいのか」
「いいえ、オレは、もっとこの学校を愉しいところにしたいのですよね。いまから大乱闘でも、って思いましたがやっぱやめます」
「ええええええっ!」と、オレを求めまくってる女子生徒たちは言った。
「でも安心して。放課後にやることにするよ。汗たくさんかいてる女の子もオレ大好きだから、たくさん汗かいてきてよ。なんなら一緒にサウナ入ろうか」
 オレは女子生徒たちから絶賛された。
「君がハンサムボーイなのはわかるが、今後このような妨害はつつしんでくれ、このままだと、みんなが、君に夢中になりすぎるだろ!」
「先生、オレに命令はよくないよ」
「そうよ!」と、オレには届きそうにない女子生徒は言った。
 でも、その女子生徒は、元いた世界でオレは届きそうにない子だ。
「女の子はみんな、オレに、尽くしたがっている。そう、女の子は、オレのために働いて、オレと結婚もしたがっている。女の子たちはね、オレを人生の意味にしたがっている!」
「大賛成!」と、クラスのマドンナは言った。
 みんなオレの意見に賛成している感じが伝わってきた。
 オレのことが好きすぎて騒ぎ出す女子生徒たち。
「みんな! 落ち着いてよみんな! オレのこと大好きなのはわかったからさ」と、オレは笑いながら言った。
「……」
「大好きだよ!」
 再び、騒ぎ始めた女子生徒たち。
 きっと、アイドルもオレに負ける。
 そうだ、こっちのアイドルを仕事なくしてやろうか。
「もう私佐藤様のファンしかできない!」
「オレいまからさ、アイドルグループ全員超えようと思うんだけど」
「もう超えています!」
「でもさ、それを見せないと超えてるってされないじゃ~ん? 残念ながら」
「なら私にお任せを!」
「ん?」
「私、放送部で部長しています!」
「おっ、なら頼むよ!」
「はい!」
 放課後。
「どうしようか。先大乱闘か否か。よし、先大乱闘にしよう!」
 今回のが女子生徒が多く参加している。当然だが。
 オレは、体育館に女子全員を並ばせた。
「私を選んでくれませんか……?」
「……気に入った! その態度!」
 オレはひきつづいて女子生徒代表者たちを厳選していった。
 数時間後。
「よーい! 始め!」と、体育係代表の女子生徒は言った。
 大乱闘がスタートした。
 すげえ数だ。
 ヤバい。
「ハァハァ」と、オレは笑顔で言った。
 オレとダンスしたいとよってくる女子生徒が来た。
「社交ダンスでも……」
「いいよ」
 オレは彼女と踊る。
 激しいダンスだ。
 もう社交ダンスの域を超えてしまっている。
 ノリはブレイクダンス以上だ。
「アッ! ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と、オレは言った。
 オレは賢者のように静まりかえった。
「放送部、準備整いました!」
「よし! いくぞ!」
 オレは放送部の部室に向かった。
 いまテレヴィ局のが来ている。
 オレは特集されている。
「絶世のイケメンがこの学校にいると聞いて、やってきました」
「ありがとう」
「かっこいいですね」
「だろ~? だからオレ、この姿をアイドルたちに見せてやろうって」
「なるほど~」
「だからアイドルたち呼んで、見せてやってよ。負け認めるかな?」
 オレは思った。こっちのアイドルと競い合っても、べつに嬉しくはないのでは、と。
 元いた世界のアイドルは、好きになれなかった。
 でもオレはこっちの世界が好きなんだ。だから……。
「どうかしましたか?」
「あの、すみません。やっぱり、いいです。代わりに……」
「代わりに?」
「メッセージを」
「メッセージですか?」
「はい。この世界のみんな! 愛しています!」
 オレは、世界中のみんなに愛を伝えた。
 このオレの愛のメッセージは、きっと革命だと感じた。
 こんなステキなアイドル、オレの元いた世界にいただろうか。
 オレは、こっちでは完璧の男とされている。それが、全人類に愛のメッセージをおくった。
 オレはスーパーヒーローなのさ。
「素晴らしいメッセージ、ありがとうございます」
「そうだ。プリマとフレンチェにも」
「それは、私たちにはできないです。そこまでの力は持っていませんので……」
「そうですか」
 オレは、そうと知っても、実は、さっきのオレを、プリマとフレンチェは見てくれていたと願った。実際に、そうだろうと、思った。オレは、超能力に目覚めたかもしれない。
「見ています、チラッと。でもしっかりと心をときめかせて」
「レイノ、ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。貴方によろこばれること、これが私の生きる意味ですから」
 レイノの霊力で、オレは安堵。
 オレはバンガローヒルへと向かう。
 オレは外へ出た。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と、オレは言った。
 オレは人生に歓喜した。
 こっちの世界だからこそだ。
 元いた世界では、常に自殺と隣合わせでいつ死ぬかなんて謎だ。もうさんざんすぎだった。
 中庭で叫んでも叫んでも足りない歓喜を表すオレ。
 オレ、気づいた。オレ、何してもかっこいい男だってことを。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と、オレのファンの女子生徒たちは言った。
 オレのよろこびは、他者のよろこびでもある。
 オレが元いた世界で、己のよろこびで他者をよろこばせれるアイドルは、知らないオレ。きっと、オレのほかの人も、知らないはずだ。
 よろこばせれたふりをさせるのは上手くても、実際は他人だ。結ばれることはあったとしても、結ばれたら他人の域を超えている。
「オレは王だ! オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!」と、オレは言った。
 この感覚が、スーパーマンってことか。
「ヒーローシ! ヒーローシ!」
 繰り返されるヒロシコール。
 それに反応しヘッドバンキングしてノリノリのオレ。
 これが人生の意味だってわかったんだ。やっとわかった、これが人生なんだ、と。
 オレが元いた世界の人生は、人生なんかではないって、オレは思うんだ。あくまでも、オレの基準だけどな。
 いつか、ライヴステージにでも、上がりたいものだ。ロックンロール界のスターのように、ノリノリにキメてやるんだ。
 オレは、もし、急に、まえいたところに戻されたら、ムロイといるから、上手くやれるのか? その答えは、Noなんだろう。ムロイがいても、オレは救われないんだろう。そもそも、ムロイ当人も、もう限界そうだ。
「ムロイ」
「どうしたんだ」
「イチか、バチかで、頼りいって、ふたりと出会ったのか。それとも、偶然か」
「それは、また話すよ。俺、脳での処理がすごく苦手になってしまったから」
「すまん、また、話したくなったら、言ってくれよ」
「ああ」
 オレが中心で回りだした異世界。
 無理に中心になったとも違うさ。
 オレを尽くすオレの女たち。
 オレの家来であるムロイ。
 オレのことが好きなファンのみんな。
 異世界の中心人物を支える、この仕事、みんなは、尊い仕事だって、思っている……ってオレは思う。
「みんな! オレに尽くせれて嬉しいよなあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「嬉しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「ほらやっぱりなっ」
「よかったな、佐藤。俺も嬉しいよ、佐藤宇宙の、家来になれてさ」
「ムロイ、オレもおまえという部下を持てて嬉しいぞ!」
「よし、それならバンガローヒルへと向かおう」
「よし! いくぞー!」
 オレたちはスターティングオーヴァーした。
 バンガローヒル、そこでは、なにがオレたちをまちうけているのだろうか。
 敵か、味方か……なんだっていいさ。もう、オレは、誰にも負ける気がしないのだから。
「オレ、ツエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
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