上 下
10 / 21

残酷な結末・・・

しおりを挟む
減量も順調。パンチもこれ以上ないくらい切れていた。スタミナも走り込みをこれまでにないくらいにこなしてバッチリだった。



間違いなく自分のこれまでの試合の中で最高の仕上がり。



その反面、恐怖心も尋常じゃないくらい感じていた。



倒れた事のない自分が受けた事がないくらいのパンチ力を持つ相手。



実際、ゴンザレスと試合をして再起不能になった選手もいるくらい危険な相手。



強者とやる際の独特な感覚。



体が震えるほどの恐怖心を抱きつつ、自分が壊されるかもしれないという恍惚感。



“滅びの美学”とでも言うのだろうか?



『選ばれし者の恍惚と不安二つ我あり』



勇二の好きな言葉。



この言葉は、正にリングに上がる選手の気持ちそのものだと思う。



メディアにも取り上げられたせいか、街中でも声をかけられる事が多くなった。



「頑張って下さい!」



「応援してます!」



しかし、この中の1人でも本気で勇二が勝つと思ってくれている人間がいるのだろうか?



どうせ皆、自分が無様に倒される様を見たいのだろう。



心の中で勇二はそう考えていた。



それくらい、ゴンザレスの強さは圧倒的だった。



だが、勇二は本気で勝つつもりでいた。負けるつもりでリングに上がるボクサーなんていない。



皆、負けると思ってたからこそオファーを断ったのだろう。



1R持ったら100万円?舐めやがって!



試合が決まってから勇二の根底には常にこの気持ちがあった。



100万と世界ランキング、2つとも奪いとってやる!



かつてないほどのハングリー精神を感じていた。



「よし!試合まで5日だ!減量も順調だから、徐々に疲れを取っていこう!今日は軽く調整程度にマススパーで終わりにしよう!」



順調な仕上がりの勇二にトレーナーが言った。



ゴングが鳴り、ゴンザレスを想定した相手が早いジャブを連打し、降り下ろしぎみの右を軽く打ってきた。



この右で、ことごとく相手を破壊してきた。



対策してきたウィービングとダッキングを併用し、相手の懐に入る。



そして、ボディーに連打を入れる。もう一度。



この数ヶ月間何度も何度も繰り返し、身体に覚えこませてきた。



「勇二!踏み込みのスピードな!」



トレーナーの檄が飛ぶ。



もう一度・・・



相手の早いジャブの引き際に合わせて、中に・・



膝を使ってダッキングしたその瞬間。



ゴキッ!



稲妻のような衝撃が勇二の身体を貫いた。



その場に崩れ落ちる勇二。



「ゆ、勇二っ!大丈夫かっ!」



トレーナーが慌ててリングに入ってきた。



下半身にまったく力が入らなくなり、立ち上がる事ができなかった。



ウソでしょ・・・



勇二は動かなくなった体を抱えられてリングの外に運ばれている自分が、夢の中の出来事のように思えて仕方なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ホラ寝る習慣ノート

テキトーセイバー
エッセイ・ノンフィクション
ホラ吹き落書きノートの続編。 1日1話を目指して怖い話を作る。 その1話作る上の制作過程を公開していく。 ホラ寝る習慣ノート。 公開日2024年09月01日から それ以外にも過去作られた怖い話の制作過程を公開していきます。 タイトル変更しました。 元タイトル ホラー習慣ノート

龍皇伝説  壱の章 龍の目覚め

KASSATSU
現代文学
多くの空手家から尊敬を込めて「龍皇」と呼ばれる久米颯玄。幼いころから祖父の下で空手修行に入り、成人するまでの修行の様子を描く。 その中で過日の沖縄で行なわれていた「掛け試し」と呼ばれる実戦試合にも参加。若くしてそこで頭角を表し、生涯の相手、サキと出会う。強豪との戦い、出稽古で技の幅を広げ、やがて本土に武者修行を決意する。本章はそこで終わる。第2章では本土での修行の様子、第3章は進駐軍への空手指導をきっかけに世界普及する様子を独特の筆致で紹介する。(※第2章以降の公開は読者の方の興味の動向によって決めたいと思います) この話は実在するある拳聖がモデルで、日本本土への空手普及に貢献した稀有なエピソードを参考にしており、戦いのシーンの描写も丁寧に描いている。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

無名の電話

愛原有子
ホラー
このお話は意味がわかると怖い話です。

インスタントフィクション 400文字の物語 Ⅰ

蓮見 七月
現代文学
インスタントフィクション。それは自由な発想と気軽なノリで書かれた文章。 一般には文章を書く楽しみを知るための形態として知られています。 400文字で自分の”おもしろい”を文中に入れる事。それだけがルールの文章です。 練習のために『インスタントフィクション 400文字の物語』というタイトルで僕の”おもしろい”を投稿していきたいと思っています。 読者の方にも楽しんでいただければ幸いです。 ※一番上に設定されたお話が最新作です。下にいくにつれ古い作品になっています。 ※『スイスから来た機械の天使』は安楽死をテーマとしています。ご注意ください。 ※『昔、病んでいたあなたへ』は病的な内容を扱っています。ご注意ください。 *一話ごとに終わる話です。連続性はありません。 *文字数が400字を超える場合がありますが、ルビ等を使ったためです。文字数は400字以内を心がけています。

ふわ・ふわ

深町珠
現代文学
やさしい、かわいい、たのしい、あかるい、うれしい、ふんわり、のんびり 「わたし」の日常を、ふんわり、毎日書いていました。

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

処理中です...