コブシ文庫(ブルー)

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200%夢の話  <2>

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【まだまだ、夢の中・・・】 

 試合は昼の1時半開始だった。

 会場に入る前に、初めて用意されていた白衣をスーツの上に着た。

 白衣を着るのは、実は2度目だった。

 小学生の頃、学芸会で「みこみなし病院」という手術している患者の腹から、バケツや本などありえない物を出すという、しょーもない劇で院長役をした時以来だ。

 妻も同じように白衣を着た。

 看護婦姿の妻を見た。

ん?ちょっと、なんか、エエな・・・いかん、いかん、こんな時にコスプレ気分を味わっている場合ではない。

 会場に入って、会長から座る席に案内された。

 昨日、名刺交換した偉いさんの隣だった。

 「これは、これは、先生!お願い致します!」

 腹から思ってないだろう挨拶をされて、私の心拍数も上がってきた。

 椅子に座り、試合開始までの間、その人からイロイロ話しかけられた。

 「先生はいつ、ボクシングやられてたんですか?」

 会長が昨日、偉いさんに紹介する時に、「このコブシ先生も、昔、プロだったんですよ!」と、変に本当の事を話していたのを思い出した。

 「え、あ、いや、じゅ、19歳の頃です・・・。」

 「あ、そうですか。お医者さんになられたのは・・・。」

 心の準備が出来ていなかった私は、シドロモドロになった。

つじつまを合わすのが、大変だった。

もしかしたら、昨日の私の手際を見て、疑っていたのかもしれない。

それも、なんとかやりすごし、いよいよ試合が始まった。

 私が危惧していたのは、試合中、選手がカットしてドクターがレフリーに呼ばれ、リングサイドに立つ場面だった。

そうなった場合、傷を見ても、完全に私のさじ加減で、「ん~いける!」という判断になってしまう。

なんとか選手みんな、血をなるべく流すことなく、判定、もしくは早めのレフリーストップで終わらないかな・・・なんて、勝手な事を思っていた。

そうこうしているうちに、試合が始まった。

 幸い、どの試合もカットすることなく、判定が多かった。

 私の出番もほとんどなかった。

ところが、終盤の試合でとうとうKOがあった。

その試合は、一発良いのが入って、そのままカウントアウトされた。

 KOされた選手はふらつきながら、トレーナーに支えられ控え室に戻っていった。

コミッショナーの関係者から、選手の控え室に行って、診察をお願いしますと言われた。

 控え室に行き、KOされた選手に見よう見まねで、ペンライトを目に近づけて、ぽくやってみた。

 「吐き気とか異変を感じたら、病院で診察してもらってね。」

 医者じゃなく、誰でも言える普通のアドバイスを言って、控え室を後にしようとした。

 「あれ~!コブシさんじゃないっすか~!」

 見ると、たちの悪いボクサーのMくんが、缶ビール片手に近づいてきた。

 Mくんとは、私が最後の試合をしたジムで少しだけ一緒だった。

 Mくんは、試合中に野次などを飛ばしたりして、よく注意されたりしていた。

(ヤバイな・・・)

少し酔っぱらっているみたいで、声が大きい。

 控え室にいたジムの関係者たちの視線が突き刺さる。

 私はMくんの肩を抱き、会場の隅っこに連れていった。

 「Mくん、バレたらマジでヤバイから頼むで!」

 私は語気を強めて、Mくんに言った。

 「は、は、はい。」

 Mくんも私のあまりの気迫に圧倒されたのか、わかってくれたみたいだ。

 私もバレたらマズいので、必死だった。

 結局、私の願い通り、KO試合は1試合だけですんだ。

 私が危惧していた、リングサイドに立つ場面もなかった。

なんとか、無事に終わった・・・。

やっぱり、こんな事は選手の安全の事を考えたら、絶対にやるべきではナイと強く思った。

と、ここでいろんな意味で目が覚めた。(笑)

以上、200%夢の話。
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