コブシ文庫(ブルー)

コブシ

文字の大きさ
上 下
19 / 27

オッサンの昔話 <完>

しおりを挟む
「あのな、コブシちゃん・・・ナツコのことなんやけど・・・。」

マスターは苦虫を噛んだような表情で続けた。

 「実は・・・俺の子、妊娠して、もうちょっとしたら、店をしばらく休むねん・・・。だから・・・コブシちゃん、ボクシングやんなよ!」

 「へ・・・?」

マスターの子ってことは、つまり、そういう関係なわけで・・・。

 突然の告白で、頭が真っ白になってしまった。

っていうか、何、便乗して「ボクシングやんなよ!」とか言うてんねん!

 全っ然、響かへんちゅうねん!

 「あ、そう・・・。」

 感激とショックで訳わからん状態だった。

でも、今、やらなければならない事は明確にわかった。

 「そうだ、俺はプロボクサーになるんだ!」

 私は自分にケジメをつける為、なっちゃんに最後のお別れを言おうと思った。

 次の日、私は「ひじり」に向かった。

 店には、いつもと変わらず、マスターとなっちゃんたちがいた。

いつもと同じように、私の隣になっちゃんが座った。

 「聞いたで~!妊娠したんやてな、おめでとう!」

 普段の私は、なっちゃんが他の客に付いただけで、不機嫌になるような面倒くさい客だった。

なっちゃんもそれをわかってたから、気まずい表情だったのだろう。

 私の意外な反応に戸惑っていた。

 「あ、ありがとう・・・。」

 「俺も、夜遊び卒業して、プロ目指して頑張るわ!」

 私の精一杯の強がりだった・・・。

 「が、頑張ってね・・・。応援してるから・・・。」

 「ありがとう!じゃあ、マスター、帰るわ!今までありがとう!」

 私は、一杯だけお別れの酒を飲みほし、会計を済ませて店を出た。

 「もう~、コブシちゃんのバカっ!また来てね!待ってるよ!」

・・・・・・・・・・・・・・・。

 私は、振り返って扉をしばらく見つめていた。

もう、あの頃みたいに、なっちゃんは私を追いかけては来なかった。

でも、なっちゃんには本当に感謝している。

 慣れない土地で、一人ぼっちで淋しかった私。

 一時だけでも、なっちゃんの存在があったから頑張れた。

そして、私はМさんとの約束を果たすべく、20歳になる直前の19歳。

 超満員の後楽園ホール

1R 1分16秒 KО勝ち

 リングの中で右手を上げられていた。

Мさん、約束守ったよ・・・・

今でも、左手のタバコの火傷の痕を見つめると、せつないあの頃の思い出が甦る・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

榛名の園 外伝 ひかりの留置場日記

ひかり企画
エッセイ・ノンフィクション
荒れた中学生時代、あたしが留置場にぶち込まれたお話です。

リアル男子高校生の日常

しゅんきち
エッセイ・ノンフィクション
2024年高校に入学するしゅんの毎日の高校生活をのぞいてみるやつ。 ほぼ日記です!短いのもあればたまに長いのもだしてます。 2024年7月現在、軽いうつ状態です。 2024年4月8日からスタートします! 2027年3月31日完結予定です! たまに、話の最後に写真を載せます。 挿入写真が400枚までですので、400枚を過ぎると、古い投稿の挿入写真から削除します。[話自体は消えません]

ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人
エッセイ・ノンフィクション
※この物語は、ある男が体験した『実話』である。 尚、プライバシーの関係上、すべての人物は仮名とする。 和泉浩介(いずみ こうすけ)は、子どもの頃から『倒れちゃいけない』と考えれば考えるほど追い込まれて、貧血で倒れてしまう症状があった。 そのため、入学式、全校集会、卒業式、アルバイト等にまともに参加できず、周りからの目もあって次第に心を塞ぎ込んでしまう。 心療内科の先生によると、和泉の症状は転換性障害や不安障害の可能性がある……とのことだったが、これだという病名がハッキリしないのだという。 「なんで俺がこんな目に……」 和泉は謎の症状から抜け出せず、いつのまにか大学の卒業を迎え……半ば引きこもり状態になり、7年の月日が経った。 そして時は西暦2018年……。 ニートのまま、和泉は31歳を迎えていた。 このままではいけないと、心療内科の先生のアドバイスをきっかけに勇気を出してバイトを始める。 そこから和泉の人生は大きく動き出すのだった。 心療内科と家を往復するだけだった男の大逆転劇が幕を開ける。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

うつ病WEBライターの徒然なる日記

ラモン
エッセイ・ノンフィクション
うつ病になったWEBライターの私の、日々感じたことやその日の様子を徒然なるままに書いた日記のようなものです。 今まで短編で書いていましたが、どうせだし日記風に続けて書いてみようと思ってはじめました。 うつ病になった奴がどんなことを考えて生きているのか、興味がある方はちょっと覗いてみてください。 少しでも投稿インセンティブでお金を稼げればいいな、なんてことも考えていたり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

昨日19万円失った話(実話)

アガサ棚
エッセイ・ノンフィクション
19万円を失った様とその後の奇行を記した物

処理中です...