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新聞拡張員のSさん
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“新聞拡張員”
新聞購読契約の勧誘をし、その契約によって報酬を得る。
いきなり家に来て、あの手この手で新聞を購読してもらおうとする。
中には強引に、恫喝まがいに契約をとる人間もいる事から、「新聞ヤクザ」とも言われるらしい。
私は、この手の営業をする輩が大嫌いだ。
人間関係は鏡みたいなものだと言われるけど、相手が高圧的な態度でくると、ついついケンカ腰になってしまう。
そういう輩は、その方法で気の弱い人から契約をもぎ取っているのだろう。
しかし、私はそういう輩が来ると、真っ向からケンカ腰でいく。
すると、だいたい向こうは引いてしまう。
そりゃそうだと思う。
私は、いつでも「やるんやったら、いつでもやったんぞ!」と、腹が決まっているんだから。
私の経験上、何が怖いって、腹が決まっている人間ほど怖いものはない。
ある日、私の治療院に新聞拡張員が来た。
治療中だった事もあり、私は丁重に断った。
勘違いしないでほしいのは、営業で来る人間みんなに威圧的な態度をとるわけではない。
この人も、好き好んで営業の仕事をしているわけじゃないかもしれない。
だから、普通に来る営業の電話なり、人には丁重に接する。
ある営業の電話の時。
確か、インターネットのHP関連の営業だった。
私は他にも仕事をしていたので、治療院は紹介のみで営業していた。
なので、広告関係にはお金を使う気は一切なかった。
営業の方は熱心に自社のHP作成の良さを熱弁しようとしていた。
「あ、私んとこは広告関係にはお金かけるつもりはないので、せっかくお話していただいても、時間を無駄にするだけなので・・・。」
と、丁寧に断った。
「アンタ、よーそんなん言うな~。」
妻は笑いながら私に言った。
自分では、丁寧に相手の事を考えて、私んとこで無駄に時間を使うよりは・・・っていう親切心から言ったつもりだった。
人それぞれ取りようが違うもんだなぁと思った。
話が逸れたので本題へ。
先程、断った新聞拡張員のオジサンは腰も低く、憎めない物言いの人だった。
「じゃあ、また、出直します!」
そう言って帰っていった。
次の日。
そのオジサンは、昨日と同じような時間帯にまた来た。
その時は、患者さんもいなかったので、話を聞く事にした。
今までウチに来た新聞拡張員は、物言いが横柄か、変に馴れ馴れしい礼儀知らずな人間ばかりだった。
私も気が長い方ではないので、最後はいつもケンカ腰になりつつ断る、というのがパターンだった。
なので、新聞拡張員に対する私のイメージは悪かった。
でも、この人は違った。
「お願いしますよ~コブシさ~ん!」
変に馴れ馴れしい礼儀知らずな人間、と言えばそれまでなんだけど、物言いが妙に憎めない。
たぶん、その人の持って生まれたキャラクターなんだろう。
ついつい、笑いながら話し込んでしまった。
その新聞拡張員のSさんは、朝日新聞の人間だった。
私んところは、地元の新聞を取っていた。
何故なら、地元の強みなのか、広告の量が朝日や読売など大手の新聞の倍ほど多かったからだ。
だから、変える気持ちはなかった。
「お願いしますよ~!これ、つけますから~!」
別に商品に魅力を感じたわけじゃなく、Sさんのキャラクターを気に入りつつある自分がいた。
「う~ん・・・わかりました。朝日とりますわ。」
ちょうど、新聞の更新時期だった。
それよりも、Sさんのキャラクターに惹かれてしまった部分が大きかった。
Sさんは、昔、悪かったんだろうなという雰囲気を醸し出していた。
でも、そんな事を微塵も感じさせない憎めない態度だった。
「ありがとうございます!」
私の言葉を聞いて、Sさんは歯の抜けた口を全開にして喜んでくれた。
そんなところも、好感を持てた。
それからSさんは、近くを通ったからとかで、気軽に治療院に寄ってくれた。
いつしか、私の治療院に患者さんとしても来てくれた。
Sさんは、プライベートな事とかも話してくれるようになった。
かつて結婚していたけれど、自分の素行の悪さに愛想をつかされ離婚し、何年間も1人で暮らしているとの事だった。
子供も1人いるけれど、何年間も会ってないそうだ。
子供の話をした時の、Sさんの淋しそうな顔が印象に残った。
3回目に治療院に来た時、夕方だったという事もあり、夕食に誘ってみた。
Sさんは、最初、驚いた顔をして、困惑していたけれど、私の押しの強さに負けたのか、私の家族と夕食を食べに行く事になった。
近所のファミレスに行くことになった。
Sさんの年齢は58歳。
離婚してから、妻や子供に対する贖罪の念を忘れる事はなかったそうだ。
そのせいか、3歳の息子の事を、かわいがってくれた。
食事の後、ゲームセンターに寄った。
Sさんは、息子の為にUFOキャッチャーで、何百円も使い、ぬいぐるみを取ってくれた。
はたから見たら、どこにでもいる、おじいちゃんと孫に見えただろう。
それ以降も、治療院に来ては食事に行くというのが2度ほどあった。
血は繋がってないけど、家族みたいに私は思っていた。
そんな日々を重ねていたある日。。
1年くらいSさんが顔を見せなくなった。
新聞の契約更新も、別の人間が来た。
「最近、Sさん来ないね?」
妻とそんな話をしていた。
突然、Sさんが、ひょっこり店に来た。
「どうしたん?心配してたんやで!」
心なしかSさんの体が、小さく思えた。
「ワシ、来月手術するんや・・・。」
力ない声で私に言った。
「なんの手術?」
「まぁ・・・大した事ない、大丈夫、大丈夫。」
Sさんは、自分に言い聞かすように言っていた。
全然、大丈夫じゃないのは、Sさんの体つきを見れば歴然だった。
「何の手術?どこが悪いん?」
私の質問も、まともに答えようとしなかった。
「まぁ、また、手術終わったら顔出すよ。」
私の、お見舞いに行くという言葉にも、頑として首を縦に振らなかった。
私は、悔しいのと、心配なのがないまぜになり、もどかしかった。
あれから10数年。
Sさんとは会っていない。
今日も、いつもと変わらず、我が家の郵便受けには朝日新聞が届けられる。
Sさん生きてっかなぁ・・・
新聞購読契約の勧誘をし、その契約によって報酬を得る。
いきなり家に来て、あの手この手で新聞を購読してもらおうとする。
中には強引に、恫喝まがいに契約をとる人間もいる事から、「新聞ヤクザ」とも言われるらしい。
私は、この手の営業をする輩が大嫌いだ。
人間関係は鏡みたいなものだと言われるけど、相手が高圧的な態度でくると、ついついケンカ腰になってしまう。
そういう輩は、その方法で気の弱い人から契約をもぎ取っているのだろう。
しかし、私はそういう輩が来ると、真っ向からケンカ腰でいく。
すると、だいたい向こうは引いてしまう。
そりゃそうだと思う。
私は、いつでも「やるんやったら、いつでもやったんぞ!」と、腹が決まっているんだから。
私の経験上、何が怖いって、腹が決まっている人間ほど怖いものはない。
ある日、私の治療院に新聞拡張員が来た。
治療中だった事もあり、私は丁重に断った。
勘違いしないでほしいのは、営業で来る人間みんなに威圧的な態度をとるわけではない。
この人も、好き好んで営業の仕事をしているわけじゃないかもしれない。
だから、普通に来る営業の電話なり、人には丁重に接する。
ある営業の電話の時。
確か、インターネットのHP関連の営業だった。
私は他にも仕事をしていたので、治療院は紹介のみで営業していた。
なので、広告関係にはお金を使う気は一切なかった。
営業の方は熱心に自社のHP作成の良さを熱弁しようとしていた。
「あ、私んとこは広告関係にはお金かけるつもりはないので、せっかくお話していただいても、時間を無駄にするだけなので・・・。」
と、丁寧に断った。
「アンタ、よーそんなん言うな~。」
妻は笑いながら私に言った。
自分では、丁寧に相手の事を考えて、私んとこで無駄に時間を使うよりは・・・っていう親切心から言ったつもりだった。
人それぞれ取りようが違うもんだなぁと思った。
話が逸れたので本題へ。
先程、断った新聞拡張員のオジサンは腰も低く、憎めない物言いの人だった。
「じゃあ、また、出直します!」
そう言って帰っていった。
次の日。
そのオジサンは、昨日と同じような時間帯にまた来た。
その時は、患者さんもいなかったので、話を聞く事にした。
今までウチに来た新聞拡張員は、物言いが横柄か、変に馴れ馴れしい礼儀知らずな人間ばかりだった。
私も気が長い方ではないので、最後はいつもケンカ腰になりつつ断る、というのがパターンだった。
なので、新聞拡張員に対する私のイメージは悪かった。
でも、この人は違った。
「お願いしますよ~コブシさ~ん!」
変に馴れ馴れしい礼儀知らずな人間、と言えばそれまでなんだけど、物言いが妙に憎めない。
たぶん、その人の持って生まれたキャラクターなんだろう。
ついつい、笑いながら話し込んでしまった。
その新聞拡張員のSさんは、朝日新聞の人間だった。
私んところは、地元の新聞を取っていた。
何故なら、地元の強みなのか、広告の量が朝日や読売など大手の新聞の倍ほど多かったからだ。
だから、変える気持ちはなかった。
「お願いしますよ~!これ、つけますから~!」
別に商品に魅力を感じたわけじゃなく、Sさんのキャラクターを気に入りつつある自分がいた。
「う~ん・・・わかりました。朝日とりますわ。」
ちょうど、新聞の更新時期だった。
それよりも、Sさんのキャラクターに惹かれてしまった部分が大きかった。
Sさんは、昔、悪かったんだろうなという雰囲気を醸し出していた。
でも、そんな事を微塵も感じさせない憎めない態度だった。
「ありがとうございます!」
私の言葉を聞いて、Sさんは歯の抜けた口を全開にして喜んでくれた。
そんなところも、好感を持てた。
それからSさんは、近くを通ったからとかで、気軽に治療院に寄ってくれた。
いつしか、私の治療院に患者さんとしても来てくれた。
Sさんは、プライベートな事とかも話してくれるようになった。
かつて結婚していたけれど、自分の素行の悪さに愛想をつかされ離婚し、何年間も1人で暮らしているとの事だった。
子供も1人いるけれど、何年間も会ってないそうだ。
子供の話をした時の、Sさんの淋しそうな顔が印象に残った。
3回目に治療院に来た時、夕方だったという事もあり、夕食に誘ってみた。
Sさんは、最初、驚いた顔をして、困惑していたけれど、私の押しの強さに負けたのか、私の家族と夕食を食べに行く事になった。
近所のファミレスに行くことになった。
Sさんの年齢は58歳。
離婚してから、妻や子供に対する贖罪の念を忘れる事はなかったそうだ。
そのせいか、3歳の息子の事を、かわいがってくれた。
食事の後、ゲームセンターに寄った。
Sさんは、息子の為にUFOキャッチャーで、何百円も使い、ぬいぐるみを取ってくれた。
はたから見たら、どこにでもいる、おじいちゃんと孫に見えただろう。
それ以降も、治療院に来ては食事に行くというのが2度ほどあった。
血は繋がってないけど、家族みたいに私は思っていた。
そんな日々を重ねていたある日。。
1年くらいSさんが顔を見せなくなった。
新聞の契約更新も、別の人間が来た。
「最近、Sさん来ないね?」
妻とそんな話をしていた。
突然、Sさんが、ひょっこり店に来た。
「どうしたん?心配してたんやで!」
心なしかSさんの体が、小さく思えた。
「ワシ、来月手術するんや・・・。」
力ない声で私に言った。
「なんの手術?」
「まぁ・・・大した事ない、大丈夫、大丈夫。」
Sさんは、自分に言い聞かすように言っていた。
全然、大丈夫じゃないのは、Sさんの体つきを見れば歴然だった。
「何の手術?どこが悪いん?」
私の質問も、まともに答えようとしなかった。
「まぁ、また、手術終わったら顔出すよ。」
私の、お見舞いに行くという言葉にも、頑として首を縦に振らなかった。
私は、悔しいのと、心配なのがないまぜになり、もどかしかった。
あれから10数年。
Sさんとは会っていない。
今日も、いつもと変わらず、我が家の郵便受けには朝日新聞が届けられる。
Sさん生きてっかなぁ・・・
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