神様からのギフト

コブシ

文字の大きさ
上 下
1 / 2

諍い

しおりを挟む
かつて攻撃の激しさから“〇〇の虎”と対戦相手から恐れられたKさんというボクサー。


Kさんと私はSジムで階級も同じ、デビュー戦も同じ時期、ファイトスタイルも同じファイタータイプ。新人王戦も違うブロックで、同階級にエントリーしていた。


だから、決勝まで残ったら同門対決となる状態。


そのせいか、よく火のでるような打ち合いのスパーをしていた。


私が憧れていたカリスマボクサーだったIさん。私はそのIさんが所属しているSジムに入ってプロボクサーになった。


そのIさんが、数十年たった頃、お話しする機会があった。


「コブシとKのスパーを見て、皆・・・・」


あの憧れのIさんが・・・・褒めて頂けるのかと思いきや・・・。


「ガードの大切さを教えてもらったよ。」


ズッコケた記憶がある。


まぁ、それくらいKさんとはバッチバチのスパーをやった拳友。


トレーナー同士のほんの遊び心で、勝ち残った方にガウンをプレゼントするという賭けをしていた。


結果は私の方が勝ち残りガウンを頂いた。でも、正直、期待されていたのはKさんだった。


“在日韓国人のK判定で破れる”


翌日の新聞記事に、そう載ったくらい期待されていた。


その後、Kさんは仕事の都合で関西に引っ越していった。


私はと言えば、デビュー戦を1RKOし、4連勝。順風満帆かと思いきや3連敗。


そして、負のトンネルをやっと抜け出し3連勝。


次戦で日本ランキングを賭けてのトーナメントにエントリーしていたけれど、試合直前に長年の腰痛から、腰椎が疲労骨折し、家業の関係もあり、そのまま引退してしまった。


私は、これからという時にヤメてしまった自分に納得していなかった。


今になって思うと、自分の小ささに恥ずかしくなってしまうんだけど、仲間たちの活躍が羨ましくて、ボクシング関係の情報を一切遮断した。


数年後、家業の下積みも一段落し、何気に新聞のスポーツ欄にKさんの名前があった。


Kさんは元世界チャンピオンに勝っていた。

1度、情報を見てしまうと抑えきれず、ボクシング雑誌を購入していた。Kさんは日本バンタム級1位になっていた。


私はKさんの活躍に触発され、もう一度リングに上がろうという気持ちが抑えられなくなってしまった。


実に7年振りのリング。


そして、試合が決まり、1年後にリングに上がるという時、昔のトレーナーにKさんの携帯番号を教えてもらった。


私は久しぶりだし、積もる話もあるだろうし、何かアドバイスなんかもらえたらなという気持ちで電話してみた。


しかし、その一方で、かたや日本ランキング1位の一流ボクサー、かたやA級ボクサーとはいえ、ランキングにも入れなかった無名のボクサー。


劣等感が少なからずあった。


そのせいか「で、今さら何が聞きたいの?」と言ってはないんだけれど、そんなニュアンスのそっけない態度にとれてしまった。


クソっ!


私は電話を切った後に、Kさんの番号が書かれた紙をくしゃくしゃに丸めて捨てた。


悔しさ・・・虚しさ・・悲しさ、なんか、複雑な気持ちだった。


もう今後、話す事も、会う事も二度とないだろうと思った。


そして数年経ったある日、以前付き人をしていたK社長から封書を頂いた。


“こんなボクサーがおるみたいやで”


封書の中を見ると、新聞の切り抜き記事が入っていた。


Kさんだった。


Sジムの頃と同じ、看護士として頑張っていた。


日々、認知症の老人たちの心を癒すべく、一緒に歌を歌ったり、踊ったりと現役の頃の激しいファイトとはうってかわって、穏やかな仕事をしていた。


私は“わだかまり”もあって、そのKさんの新聞記事をくしゃくしゃに丸めて捨て・・・そんな事はできなかった。


いくら“わだかまり”があろうが、仲間が頑張っている事までくしゃくしゃにして捨てる事はできなかった。


二度と会う事も話す事もないと思っていたKさん。


しかし、再び繋がる事になるとは、この時、夢にも思っていなかった・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

半ノラ黒猫チビのニャン生

玄未マオ
エッセイ・ノンフィクション
「ほっこり・じんわり大賞」参加、写真付きエッセイ。 ノラだけどノラじゃない黒猫チビ。 完全にうちの子にはなってくれなかったけど、最後はうちの二階のソファーの上で仲良しの猫に見送られて天国へと旅立っていきました。 そのニャン生を描いたノンフィクションです。 【作注】猫のことをよくわかっていなかった作者が手探りで対応していた時の話もあるので、特に猫好きの方に不快な描写などありましたら、前もってお詫びしておきます。

コブシ文庫(ピンク)

コブシ
エッセイ・ノンフィクション
私の今までの人生におけるピンク話

貴女におくる般若心経本の選び方 ~実はけっこうピンキリ(笑)な日本一有名なお経の解説書たち~

糺ノ杜 胡瓜堂
エッセイ・ノンフィクション
 日本で最も親しまれているお経「般若心経」に少しでも関心がある貴女に!  あの玄奘三蔵(三蔵法師)が決死の大冒険の末にインドから持ち帰り、翻訳した266文字の経典は、今でも老若男女の別なく日本人に親しまれています。  特に仏教に興味がなくとも深遠な「色即是空」や「ギャーティー、ギャーティー」等の不思議な呪文のような文句は耳にしたことがある方も多いはず!  そんな般若心経ですが、経典の短さとはうらはらに、その真の意味はすこぶる難解です!  そこで登場してくるのが「般若心経の解説本」の数々!  ・・・書店を見ると「般若心経コーナー」があったり、既に一大ジャンルを築いている感もありますね。  ものすごい盛り上がりようです。  しかし、そんな般若心経の解説本ですが、中身は意外と玉石混交!  なかには「そんなこと本当に般若心経に書いているのかなぁ?」と首をかしげるものも・・・。  当エッセイでは、そんな巷に溢れる般若心経に関する「解説本」の選び方に関するあれこれをご紹介いたします♥  軽めのエッセイですが、自分なりに納得出来る「般若心経」の真の意味に出会える良書との出会いへの一助となれば幸いです。  ※なお表紙画像は画像生成AI「Stable Diffusion」で生成したものです。

[Letter sokow]

急須酌子
エッセイ・ノンフィクション
[完結]{◎小説ではありません。外サイトコピペ}***

小さな客人

霧氷
エッセイ・ノンフィクション
日常の中の一コマ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

1976年生まれ、氷河期世代の愚痴

相田 彩太
エッセイ・ノンフィクション
氷河期世代って何? 氷河期世代だけど、過去を振り返ってみたい! どうしてこうなった!? 1976年生まれの作者が人生を振り返りながら、そんなあなたの疑問に答える挑戦作! トーク形式で送る、氷河期愚痴エッセイ! 設定は横読み推奨というか一択。 エッセイとは「試み」という意味も持っているのである。 オチはいつも同じです。

バリアフリートイレ です・ドニチカキップ のお~~~

ヒロくん
エッセイ・ノンフィクション
今・・・札幌は一面積雪で、夏場の My fasion 自転車 は当面使えないため、 札幌地下鉄南北線を利用しています・・・。 いつも流れて来るアナウンスが・・・、 「バリアフリートイレです」・・・早めの口調で 「ドニチカキップの~~~」・・・ゆっくりした口調で 強い印象で、ふと、口にしていました。 すいません・・・JR北海道ではなかったです・・・、 手稲運転免許試験場 と 北海道科学大学 に行く用事だけで、 大型二種一発試験数回・情報処理技術者試験2回 あとは、利用しないため、はっきりとはしていなかったでした。 このアナウンスは札幌地下鉄でした・・・。

処理中です...