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第一章
第十三話 初依頼
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B級下位依頼。
ナナイ山岳山腹に生育する植物、レッサーレッドの採集。
記念すべきヨシュア・リリエリパーティ初の依頼である。
パーティ等級としてはB級上位まで受注可能ではあるものの、愛用の杖を破損しているリリエリと土地勘が一切ないヨシュアの二人の初任務にはやや重い。
S級といえども実力未知のヨシュアとリリエリの偏った特性を踏まえたうえでルダンがピックした依頼が上記のものであった。
「ナナイ山岳はここからそう遠くもなく、ヨシュア氏の初依頼にはよろしいでしょう。植物の採集が目的ですが、その分布域に被る形で複数の魔物の生息が確認されています。魔狼の類が一例ですが、彼らの皮や血は価値がございますから、これらの討伐を試みるのも良いかと。こちらは依頼ではありませんので、あくまで無理のない範囲でご検討ください」
柔らかでいて簡潔な物言いに異を唱える度胸はなく、またその必要もなく。いや、本音を言うとB級上位依頼であるアテライ・ナヴァ麓の食人果の採集あたりに思いっきり惹かれたのだが、どの角度から見てもルダンの主張に勝る合理性がなく。
かくして二人の初の依頼は、滞りなく決定、受注されたわけである。
□ ■ □
机上に大きく広げた地図の一点。
リリエリの指が示すそこには、ナナイ山岳の文字が記されていた。
所変わらず応接室。時間は取ってあるので、というルダンの言葉に甘えて、二人はそのまま作戦会議に移行した。当のルダンは退室済みである。
「ナナイ山岳はエルナトの南東に位置しています。直線距離としては都市ナナイからの方が近いですが、エルナトからナナイ山岳麓の間に小転移結晶が繋がっているので、移動はかなり楽にできます」
転移結晶とは、人体を特定の地点から特定の地点へ転移させる特殊な鉱石の総称である。
魔物の跋扈する世界において、この鉱石および技術がなければ人類の発展はなかったとすら言わしめるほどの重要技術だ。
魔物の転移はできない一方で、人間であれば魔力の有無によらず等しく転移が可能な性質から、人類平等の証として信仰の対象になっていたりもする。
転移結晶は基本的には都市と都市とを結ぶように設置されるものだが、開拓に有用な土地に設置されるケースもある。ナナイ山岳に関しては後者だ。
「申請に少し手間がかかるので、今からだと……夜になっちゃいますね。明日の朝一に麓を経てるようなスケジュールでいきましょう」
「……現地集合にしてもいいか。準備がある」
「もちろん構いませんよ。必要なら手伝いますが」
「この地図は借りたい。手伝いはいらない」
ヨシュアは地図に手を置いた。この地図には周辺の地域のみならず、エルナト市内の詳細も記載されている。確かに今ヨシュアに必要なものだろう。リリエリは快諾し、地図をヨシュアに手渡した。
「レッサーレッドの採集は私に任せてください。魔物の処理と、場合によっては移動の補助をお願いしてもいいですか?」
「わかった」
「所要時間は最短で一日ですかね。採集や魔物狩りに精を出すならもう少し見込んだ方がいいでしょうが……、今のヨシュアさんは手持ちがないですから、壁外に長居しない方がいいかもしれませしれません」
「そうだな。俺は何も持っていない。……サバイバルに関しては、任せてもいいだろうか」
「もちろんです」
さくさくと仔細を詰める作業も、長らく一人で活動していたリリエリにとっては楽しいものだった。
採集やサバイバルを任せてもらえることも嬉しい。こっちは戦えないという大きなディスアドバンテージを埋めてもらうのだ。その分、自分が役に立てる分野があるというのは、気持ちを随分楽にする。
……まぁ、ヨシュアの手持ちがないのは今だけのことだろうから、いつか用済みとされてしまうかもしれないが。
「そういえば、グレイサーペントの素材を換金してありますから、後でマドから半分受け取ってください。最低限必要なものはそのお金で」
「わかった。色々助かる」
「こちらこそ」
そう、こちらこそ本当に助かっているのだ。
B級下位とはいえ、リリエリには手が出せなかった危険区域での冒険。それもS級相当の頼もしいバディと共に。
明日の朝集合なんて言ったが、できるものならもう行きたい。今すぐ行きたい。
だがヨシュアにも準備の時間は必要だし――なんせまだ住まいに足を踏み入れてすらいない――転移結晶の使用には手続きの時間がいる。
無茶はしないこと。リリエリはマドの言葉を頭の中で三回唱え、心の中にしっかりと刻み込んだ。
自分が無鉄砲な冒険バカではないことを、ヨシュアにも、それからマドにもきちんと見せなくてはならない。
逸る気持ちを精一杯抑え込み、代わりにリリエリはとびっきりの笑顔を見せた。
「さぁ、冒険に行きましょう!」
ナナイ山岳山腹に生育する植物、レッサーレッドの採集。
記念すべきヨシュア・リリエリパーティ初の依頼である。
パーティ等級としてはB級上位まで受注可能ではあるものの、愛用の杖を破損しているリリエリと土地勘が一切ないヨシュアの二人の初任務にはやや重い。
S級といえども実力未知のヨシュアとリリエリの偏った特性を踏まえたうえでルダンがピックした依頼が上記のものであった。
「ナナイ山岳はここからそう遠くもなく、ヨシュア氏の初依頼にはよろしいでしょう。植物の採集が目的ですが、その分布域に被る形で複数の魔物の生息が確認されています。魔狼の類が一例ですが、彼らの皮や血は価値がございますから、これらの討伐を試みるのも良いかと。こちらは依頼ではありませんので、あくまで無理のない範囲でご検討ください」
柔らかでいて簡潔な物言いに異を唱える度胸はなく、またその必要もなく。いや、本音を言うとB級上位依頼であるアテライ・ナヴァ麓の食人果の採集あたりに思いっきり惹かれたのだが、どの角度から見てもルダンの主張に勝る合理性がなく。
かくして二人の初の依頼は、滞りなく決定、受注されたわけである。
□ ■ □
机上に大きく広げた地図の一点。
リリエリの指が示すそこには、ナナイ山岳の文字が記されていた。
所変わらず応接室。時間は取ってあるので、というルダンの言葉に甘えて、二人はそのまま作戦会議に移行した。当のルダンは退室済みである。
「ナナイ山岳はエルナトの南東に位置しています。直線距離としては都市ナナイからの方が近いですが、エルナトからナナイ山岳麓の間に小転移結晶が繋がっているので、移動はかなり楽にできます」
転移結晶とは、人体を特定の地点から特定の地点へ転移させる特殊な鉱石の総称である。
魔物の跋扈する世界において、この鉱石および技術がなければ人類の発展はなかったとすら言わしめるほどの重要技術だ。
魔物の転移はできない一方で、人間であれば魔力の有無によらず等しく転移が可能な性質から、人類平等の証として信仰の対象になっていたりもする。
転移結晶は基本的には都市と都市とを結ぶように設置されるものだが、開拓に有用な土地に設置されるケースもある。ナナイ山岳に関しては後者だ。
「申請に少し手間がかかるので、今からだと……夜になっちゃいますね。明日の朝一に麓を経てるようなスケジュールでいきましょう」
「……現地集合にしてもいいか。準備がある」
「もちろん構いませんよ。必要なら手伝いますが」
「この地図は借りたい。手伝いはいらない」
ヨシュアは地図に手を置いた。この地図には周辺の地域のみならず、エルナト市内の詳細も記載されている。確かに今ヨシュアに必要なものだろう。リリエリは快諾し、地図をヨシュアに手渡した。
「レッサーレッドの採集は私に任せてください。魔物の処理と、場合によっては移動の補助をお願いしてもいいですか?」
「わかった」
「所要時間は最短で一日ですかね。採集や魔物狩りに精を出すならもう少し見込んだ方がいいでしょうが……、今のヨシュアさんは手持ちがないですから、壁外に長居しない方がいいかもしれませしれません」
「そうだな。俺は何も持っていない。……サバイバルに関しては、任せてもいいだろうか」
「もちろんです」
さくさくと仔細を詰める作業も、長らく一人で活動していたリリエリにとっては楽しいものだった。
採集やサバイバルを任せてもらえることも嬉しい。こっちは戦えないという大きなディスアドバンテージを埋めてもらうのだ。その分、自分が役に立てる分野があるというのは、気持ちを随分楽にする。
……まぁ、ヨシュアの手持ちがないのは今だけのことだろうから、いつか用済みとされてしまうかもしれないが。
「そういえば、グレイサーペントの素材を換金してありますから、後でマドから半分受け取ってください。最低限必要なものはそのお金で」
「わかった。色々助かる」
「こちらこそ」
そう、こちらこそ本当に助かっているのだ。
B級下位とはいえ、リリエリには手が出せなかった危険区域での冒険。それもS級相当の頼もしいバディと共に。
明日の朝集合なんて言ったが、できるものならもう行きたい。今すぐ行きたい。
だがヨシュアにも準備の時間は必要だし――なんせまだ住まいに足を踏み入れてすらいない――転移結晶の使用には手続きの時間がいる。
無茶はしないこと。リリエリはマドの言葉を頭の中で三回唱え、心の中にしっかりと刻み込んだ。
自分が無鉄砲な冒険バカではないことを、ヨシュアにも、それからマドにもきちんと見せなくてはならない。
逸る気持ちを精一杯抑え込み、代わりにリリエリはとびっきりの笑顔を見せた。
「さぁ、冒険に行きましょう!」
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