龍の呪いの殺し方

中島とととき

文字の大きさ
上 下
14 / 100
第一章

第十三話 初依頼

しおりを挟む
 B級下位依頼。
 ナナイ山岳山腹に生育する植物、レッサーレッドの採集。

 記念すべきヨシュア・リリエリパーティ初の依頼である。
 
 パーティ等級としてはB級上位まで受注可能ではあるものの、愛用の杖を破損しているリリエリと土地勘が一切ないヨシュアの二人の初任務にはやや重い。
 S級といえども実力未知のヨシュアとリリエリの偏った特性を踏まえたうえでルダンがピックした依頼が上記のものであった。

「ナナイ山岳はここからそう遠くもなく、ヨシュア氏の初依頼にはよろしいでしょう。植物の採集が目的ですが、その分布域に被る形で複数の魔物の生息が確認されています。魔狼の類が一例ですが、彼らの皮や血は価値がございますから、これらの討伐を試みるのも良いかと。こちらは依頼ではありませんので、あくまで無理のない範囲でご検討ください」

 柔らかでいて簡潔な物言いに異を唱える度胸はなく、またその必要もなく。いや、本音を言うとB級上位依頼であるアテライ・ナヴァ麓の食人果の採集あたりに思いっきり惹かれたのだが、どの角度から見てもルダンの主張に勝る合理性がなく。

 かくして二人の初の依頼は、滞りなく決定、受注されたわけである。


□ ■ □


 机上に大きく広げた地図の一点。
 リリエリの指が示すそこには、ナナイ山岳の文字が記されていた。

 所変わらず応接室。時間は取ってあるので、というルダンの言葉に甘えて、二人はそのまま作戦会議に移行した。当のルダンは退室済みである。

「ナナイ山岳はエルナトの南東に位置しています。直線距離としては都市ナナイからの方が近いですが、エルナトからナナイ山岳麓の間に小転移結晶が繋がっているので、移動はかなり楽にできます」

 転移結晶とは、人体を特定の地点から特定の地点へ転移させる特殊な鉱石の総称である。
 魔物の跋扈する世界において、この鉱石および技術がなければ人類の発展はなかったとすら言わしめるほどの重要技術だ。

 魔物の転移はできない一方で、人間であれば魔力の有無によらず等しく転移が可能な性質から、人類平等の証として信仰の対象になっていたりもする。

 転移結晶は基本的には都市と都市とを結ぶように設置されるものだが、開拓に有用な土地に設置されるケースもある。ナナイ山岳に関しては後者だ。

「申請に少し手間がかかるので、今からだと……夜になっちゃいますね。明日の朝一に麓を経てるようなスケジュールでいきましょう」
「……現地集合にしてもいいか。準備がある」
「もちろん構いませんよ。必要なら手伝いますが」
「この地図は借りたい。手伝いはいらない」

 ヨシュアは地図に手を置いた。この地図には周辺の地域のみならず、エルナト市内の詳細も記載されている。確かに今ヨシュアに必要なものだろう。リリエリは快諾し、地図をヨシュアに手渡した。

「レッサーレッドの採集は私に任せてください。魔物の処理と、場合によっては移動の補助をお願いしてもいいですか?」
「わかった」
「所要時間は最短で一日ですかね。採集や魔物狩りに精を出すならもう少し見込んだ方がいいでしょうが……、今のヨシュアさんは手持ちがないですから、壁外に長居しない方がいいかもしれませしれません」
「そうだな。俺は何も持っていない。……サバイバルに関しては、任せてもいいだろうか」
「もちろんです」

 さくさくと仔細を詰める作業も、長らく一人で活動していたリリエリにとっては楽しいものだった。
 採集やサバイバルを任せてもらえることも嬉しい。こっちは戦えないという大きなディスアドバンテージを埋めてもらうのだ。その分、自分が役に立てる分野があるというのは、気持ちを随分楽にする。

 ……まぁ、ヨシュアの手持ちがないのは今だけのことだろうから、いつか用済みとされてしまうかもしれないが。

「そういえば、グレイサーペントの素材を換金してありますから、後でマドから半分受け取ってください。最低限必要なものはそのお金で」
「わかった。色々助かる」
「こちらこそ」

 そう、こちらこそ本当に助かっているのだ。
 B級下位とはいえ、リリエリには手が出せなかった危険区域での冒険。それもS級相当の頼もしいバディと共に。

 明日の朝集合なんて言ったが、できるものならもう行きたい。今すぐ行きたい。
 だがヨシュアにも準備の時間は必要だし――なんせまだ住まいに足を踏み入れてすらいない――転移結晶の使用には手続きの時間がいる。

 無茶はしないこと。リリエリはマドの言葉を頭の中で三回唱え、心の中にしっかりと刻み込んだ。
 自分が無鉄砲な冒険バカではないことを、ヨシュアにも、それからマドにもきちんと見せなくてはならない。

 逸る気持ちを精一杯抑え込み、代わりにリリエリはとびっきりの笑顔を見せた。

「さぁ、冒険に行きましょう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...