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4章 文化祭

※ 俺はいつも黙って時間が過ぎるのを待ってるだけ……

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 ※数馬side

 参ったなぁ……今文化祭の打ち上げでお好み焼き屋さんに来てるんだけど、どうにもこうにも人が多過ぎてとてもじゃないけど俺の精神が保ちそうにない。
 今もこうしてトイレの個室に篭ってるんだけど、ボラ部だけならまだ良かった。まさかの演劇部と合同になっちゃったから、直登の説得もあって決死の覚悟で参加したけど、やっぱり無理だよぉ。

 それに貴哉もまだ来てないし、茜さんはちょこちょこ外に行っちゃうし、直登といるといろんな人に声掛けられるし……俺の居場所ないよ……

 貴哉……早く来て……


「うう……最後の薬だ……これ飲んだら帰ろう……」


 精神安定剤のような役割をしている薬だけど、最近発作が起きなくなって来ていたから少量しか持ち歩いていなかった。
 
 席には戻れないから、個室から出てトイレの水道の水で薬を飲む。
 そうしてると誰かがトイレに入って来てドキッとしてしまう。
 今日は貸切だって言ってたから学校の誰かだけど、どうしようっ。

 俺は目を合わさないように鏡の前でずっと固まっているとその入って来た人が俺に気付いて声を掛けて来た。


「あれ、広瀬くんじゃない?」

「……え、あ、倉持……」


 同じクラスの倉持瑛二だった。
 彼は大人しい性格で存在感は無いけど、二年生の一条さんに脅されて嫌々言う事を聞いて学校中に迷惑を掛けた事があるんだ。その件で目立ったけど、今では普通に学校に来て生活をしている。
 貴哉とも普通に仲良くしてる。

 そうか、倉持は演劇部だったな。

 俺は教室では直登と貴哉と空以外とは話さないから少し緊張した。


「何か顔色良くないみたいだけど、大丈夫?」

「……平気だ」

「中西くん呼ぼうか?」

「平気だって言ってるだろっ」


 思わず大きな声を出してしまいハッと倉持を見ると、驚いた顔していた。
 違うんだ。倉持が俺の体調を心配してくれてるのはありがたいんだ。大きな声を出したい訳じゃないのに、ありがとうと言いたいのに、俺はまた怖がらせるだけなんだ……

 これ以上どうしたらいいか分からなくて、顔を背けて黙ってると、倉持も何も言わずに用を足して手を洗い出した。
 俺はその間そのままずっと突っ立ったままだった。

 手を洗い終わった後、倉持はエアータオルをしてから喋り出した。


「広瀬くん、何も言わなくていいから聞いて欲しいんだ」

「…………」

「俺ね、演劇部でこれからチーム分けがあるんだけど、裏方を希望しようと思ってるんだ」

「…………」


 何を言い出すかと思ったら自分の話だった。
 俺は言われた通り何も言わずに黙って聞いていた。


「理由は裏で一生懸命動いて主役達をサポートしてる先輩達を見てかっこいいなと思ったからだよ。演劇を観てくれてる人達からは目立たないけど、裏方あっての演劇だと思ったんだ。そもそも俺には演者チームに入れるような容姿も無ければ特徴もないからなんだけど、それでも裏方で力になれたらかっこいいなぁってさ」

「…………」


 倉持はとても楽しそうに話していた。
 いいなぁ。俺もそんな風に人に堂々と話せたら……
 そしたら倉持みたいに楽しそうに出来るんだろうな。


「広瀬くんの自己紹介聞いて思ったけど、とても強くてかっこいいね!初めは怖い人なのかと思ってたけど、みんなの前でちゃんと自分の事を伝えられるなんて俺には出来ないから凄いなって感じた」

「っ……」


 あんな聞き取りづらい俺の自己紹介を褒めてくれた。嬉しいのに、言葉が出てこない。
 伝えなきゃいけないのに。ありがとうってちゃんと言わなきゃいけないのに。

 俺はいつも黙って時間が過ぎるのを待ってるだけ……


「俺なんか気が弱いから上の人に強く言われたら逆らえなくて。だから罰が当たったよ。だからこれからは広瀬くんみたいに真っ直ぐに生きようと思う」

「…………」

「俺の話聞いてくれてありがとう。じゃあ先に戻るね」


 倉持が行ってしまう。
 俺は何も言えずに、ただの怖い人で終わるのか。
 そんなの嫌だっ。
 俺だって変わるって決めたのにっ。

 俺は震える手を無理矢理伸ばして立ち去ろうとする倉持の手首を握った。

 ど、どうしようっ!自分からやった事なのに、とても怖い!
 俺から誰かに触るなんて初めての事で、頭の中がぐちゃぐちゃになるのが分かった。

 気持ち悪い。頭痛い。吐き気がする。
 息が苦しい……

 こんな時貴哉がいてくれたら、助けてくれたのに……


「広瀬くん!大丈夫!?」

「ご……ごめん!」

「え?」


 やっと出た言葉がそれだった。
 それがやっとで、それ以上はもう喋れなかった。
 俺はその場にうずくまって必死で息を整えようと頑張った。とにかく今はそれしか考えられない。

 苦しい。辛い。誰か助けて……
 
 そんな俺を見た倉持は慌てて「誰か呼んで来る!」と言ってトイレから出て行ってしまった。

 やっちゃった……
 もうパニックとか起きないと思ってたのに……

 俺、いつまでこんなの繰り返すんだろ。
 本当にこんな自分が嫌で涙が出た。

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