上 下
193 / 219
4章 文化祭

戸塚みてぇな鉄仮面になりゃいいんだろ?

しおりを挟む

 言おうとしない伊織の手を引いて俺は図書室の横の部屋まで導いた。そして中まで入って、真っ直ぐ伊織を見る。
 目が合うと伊織は気まずそうにしていた。


「言ってくれ。俺にどうなって欲しい?」

「いい。貴哉はそのままで」

「伊織に辛い思いさせたくねぇんだよ。なぁ、言ってくれよ」

「……俺は、貴哉には誰とも話して欲しくない。誰にも笑い掛けないで、俺だけを見ていて欲しいと思ってる」

「そうすればお前は辛くないんだな」

「……貴哉?」

「分かった。戸塚みてぇな鉄仮面になりゃいいんだろ?」

「出来るのか?」

「演劇部副部長の茜の一番弟子舐めんな♪お前がそれで笑顔になるならやってやらぁ♪」

「!」


 正直言って難しかった。
 俺は今まで感情をコントロールして生きて来た事なんてなかったからな。どんな時でも戸塚みたいに鉄仮面を被るなんて出来る気がしねぇ。
 だけど、ここまであの伊織が辛い思いしてんの見たら、やるしかねぇとか思っちゃうじゃん。

 誰とも話さず、笑わなければいい。
 伊織だけを見ればいい。

 俺がへへっと笑うと、伊織は泣きそうな顔して抱き付いて来た。

 
「ダメだ!貴哉は今のままでいなきゃダメだっ!ごめんっ俺が悪かった!」

「いや、伊織じゃなくて悪いのは俺だろ。伊織、今までごめんな。伊織が許してくれるならこれからも一緒にいようぜ」


 伊織の背中に腕を回すと、男らしい立派な体は小さく震えていた。
 俺は毎回伊織の事を傷付けて来たんだな。
 強がりで俺様な伊織の本当の姿はすげぇ可愛いくて、何とかしてやりたいって思っちまうぐらいに弱々しいものだった。


「いる!離さない!」

「他の奴と話しちゃうかも知れねぇ」

「いい!」

「笑いかけちゃうかも知れねぇ」

「それでいい!」

「でも、伊織だけを見る事はやるから♡」

「好きっ」


 伊織に頭を押さえられながらキスをされた。
 荒々しい乱暴なものだったけど、伊織の必死さが伝わって来て、俺は目を閉じて応えていた。

 今まで通りに少しだけ伊織を多めに考えて行動すりゃいい。
 これからは演劇部も無くなるし出来るんじゃねぇかな?

 ただ不安なのは空だった。
 伊織とこうしていても心配なのは空だ。
 きっと伊織はこんな俺に不満を持ってるんだろうな。

 許してくれ伊織。
 空の事も見ちまう俺を……

 伊織の両頬を両手で包んで少し離して不安気な目を見てニッと笑ってやる。


「伊織♡だーいすき♡」

「貴哉ぁ♡」


 お互い抱きしめ合って、何とかなった?
 いやいや、これからだろ。

 この後の俺の行動次第ではまた伊織がおかしくなっちまうよな。
 だからなるべく伊織だけを見るようにしねぇと。

 今の空には紘夢が付いてるからしばらくは伊織に集中しよう。
 だってさ、伊織がこんなにも弱かったなんて知らなかったじゃん。
 

「俺、今のお前の方が好きかもー♪」


 俺がニヤニヤしながら言うと、伊織はハッとした顔をして恥ずかしそうに目線を逸らした。


「ダセェだろ?でもこれが本当の俺みてぇよ」

「全然ダサくねぇよ。余裕ぶっこいてるお前も頼りになっていいけど、俺も男だ。たまには可愛がりてぇだろ」

「可愛いがるだぁ?ぐ、貴哉が可愛い俺を見たいって言ってたのってこういう事だったのかよ」

「そうみてぇよ♪なんだかんだ俺とお前は似てるからよ。同じ考えな訳だ。て事でこれからはどんどん甘えろー♡」

「そんじゃあ早速!ヤろうぜ♡」

「あ!?何だその甘え方は!もっと可愛いく言え!」

「これが俺だ♡俺とお前は似てるんだろー♡」

「はぁ、じゃ帰るか。打ち上げまで家でのんびりしてようぜ~」

「おう。1分たりもと無駄にしたくねぇからタクるぞ!」


 急いでスマホでタクシーを呼び始める伊織。そういうとこは変わらないのかよ。
 俺も疲れたし歩かなくていいのは助かるけどよ。

 今日は文化祭の片付けが終わればそのまま各自帰る事になっている。
 片付け切らなければ来週でもいいらしい。

 俺と伊織はボラ部部員に後の事を任せて二人で仲良く学校を出た。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...