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4章 文化祭
戸塚みてぇな鉄仮面になりゃいいんだろ?
しおりを挟む言おうとしない伊織の手を引いて俺は図書室の横の部屋まで導いた。そして中まで入って、真っ直ぐ伊織を見る。
目が合うと伊織は気まずそうにしていた。
「言ってくれ。俺にどうなって欲しい?」
「いい。貴哉はそのままで」
「伊織に辛い思いさせたくねぇんだよ。なぁ、言ってくれよ」
「……俺は、貴哉には誰とも話して欲しくない。誰にも笑い掛けないで、俺だけを見ていて欲しいと思ってる」
「そうすればお前は辛くないんだな」
「……貴哉?」
「分かった。戸塚みてぇな鉄仮面になりゃいいんだろ?」
「出来るのか?」
「演劇部副部長の茜の一番弟子舐めんな♪お前がそれで笑顔になるならやってやらぁ♪」
「!」
正直言って難しかった。
俺は今まで感情をコントロールして生きて来た事なんてなかったからな。どんな時でも戸塚みたいに鉄仮面を被るなんて出来る気がしねぇ。
だけど、ここまであの伊織が辛い思いしてんの見たら、やるしかねぇとか思っちゃうじゃん。
誰とも話さず、笑わなければいい。
伊織だけを見ればいい。
俺がへへっと笑うと、伊織は泣きそうな顔して抱き付いて来た。
「ダメだ!貴哉は今のままでいなきゃダメだっ!ごめんっ俺が悪かった!」
「いや、伊織じゃなくて悪いのは俺だろ。伊織、今までごめんな。伊織が許してくれるならこれからも一緒にいようぜ」
伊織の背中に腕を回すと、男らしい立派な体は小さく震えていた。
俺は毎回伊織の事を傷付けて来たんだな。
強がりで俺様な伊織の本当の姿はすげぇ可愛いくて、何とかしてやりたいって思っちまうぐらいに弱々しいものだった。
「いる!離さない!」
「他の奴と話しちゃうかも知れねぇ」
「いい!」
「笑いかけちゃうかも知れねぇ」
「それでいい!」
「でも、伊織だけを見る事はやるから♡」
「好きっ」
伊織に頭を押さえられながらキスをされた。
荒々しい乱暴なものだったけど、伊織の必死さが伝わって来て、俺は目を閉じて応えていた。
今まで通りに少しだけ伊織を多めに考えて行動すりゃいい。
これからは演劇部も無くなるし出来るんじゃねぇかな?
ただ不安なのは空だった。
伊織とこうしていても心配なのは空だ。
きっと伊織はこんな俺に不満を持ってるんだろうな。
許してくれ伊織。
空の事も見ちまう俺を……
伊織の両頬を両手で包んで少し離して不安気な目を見てニッと笑ってやる。
「伊織♡だーいすき♡」
「貴哉ぁ♡」
お互い抱きしめ合って、何とかなった?
いやいや、これからだろ。
この後の俺の行動次第ではまた伊織がおかしくなっちまうよな。
だからなるべく伊織だけを見るようにしねぇと。
今の空には紘夢が付いてるからしばらくは伊織に集中しよう。
だってさ、伊織がこんなにも弱かったなんて知らなかったじゃん。
「俺、今のお前の方が好きかもー♪」
俺がニヤニヤしながら言うと、伊織はハッとした顔をして恥ずかしそうに目線を逸らした。
「ダセェだろ?でもこれが本当の俺みてぇよ」
「全然ダサくねぇよ。余裕ぶっこいてるお前も頼りになっていいけど、俺も男だ。たまには可愛がりてぇだろ」
「可愛いがるだぁ?ぐ、貴哉が可愛い俺を見たいって言ってたのってこういう事だったのかよ」
「そうみてぇよ♪なんだかんだ俺とお前は似てるからよ。同じ考えな訳だ。て事でこれからはどんどん甘えろー♡」
「そんじゃあ早速!ヤろうぜ♡」
「あ!?何だその甘え方は!もっと可愛いく言え!」
「これが俺だ♡俺とお前は似てるんだろー♡」
「はぁ、じゃ帰るか。打ち上げまで家でのんびりしてようぜ~」
「おう。1分たりもと無駄にしたくねぇからタクるぞ!」
急いでスマホでタクシーを呼び始める伊織。そういうとこは変わらないのかよ。
俺も疲れたし歩かなくていいのは助かるけどよ。
今日は文化祭の片付けが終わればそのまま各自帰る事になっている。
片付け切らなければ来週でもいいらしい。
俺と伊織はボラ部部員に後の事を任せて二人で仲良く学校を出た。
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