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4章 文化祭
俺が他の奴にボディタッチしようもんなら怒る癖によー
しおりを挟む四人でワイワイやってると、類を食堂まで連れて行っていた伊織が戻って来た。
こちらへ向かって歩いて来る途中で空がいるのを見たのが分かってちょっと気まずかった。
けど、俺は普通に声を掛ける事にした。
「伊織!お帰り!」
「ああ、ただいま。良い子にしてたかー?」
「してたってーの!なぁ、ボラ部の打ち上げ、演劇部と合同でやるんだって♪楽しそうじゃね?」
「そう言う事だ桐原。お前らも楽になるだろ?」
「渡辺さん、はい♪とても助かります」
「場所と時間は一条から聞いてくれ。そんじゃまたなアホ面共~」
相変わらず適当感満載な渡辺は俺達に背中を向けながらヒラヒラを手を振っていなくなった。
よし!ここからは伊織との時間だ!
「紘夢!俺にもメッセージしといてくれ!それじゃ後は任せたぞー」
「了解~。またね二人共~」
「伊織行こう♪」
「ああ」
ここには空もいたけど、俺は伊織の腕を引いてもうどこも文化祭の片付けをしている学校を歩き出した。
「なぁ伊織、宝探しの特賞の景品って何だったんだ?」
「あれ、聞いてなかったのか?テーマパークのペアチケットだよ。それが一番デカい景品じゃねぇか?」
「ペアチケットだぁ!?それの為に俺は猛犬を相手にしようとしてたのかよ!」
こりゃなっちが俺が欲しがるか微妙な反応してた訳だわ。
まぁ貰えるなら貰うけど、別に命賭けてまで欲しくはねぇわ。
「景品は取れなかったけど、今度一緒に行こうな♡」
「伊織は行きてぇの?」
「貴哉とはいろんな所行きたい♡」
空がいないからか、いつもの機嫌の良い伊織だった。
「伊織、今日は本当にお疲れ。あんま一緒にはいられなかったけど、最後にお前とこうして歩けて良かったわ」
「うん。貴哉もお疲れ。俺も同じ事思ってた」
「マジ?はは、やっぱ俺達似てるよな~」
「似てるかぁ?」
「なんだよそれー!てか類に何か言われなかったか?」
「特にはないかな。貴哉の事凄え褒めてた」
「あいつらしいな。はぁ、もう会いたくね~」
つい本音が出ると、伊織は俺の手を握ってニコッと笑った。
「貴哉が会いたくないなら俺が会わせないようにするから。だから大丈夫だよ」
「あっもしかして、さっき類を案内したのって俺から遠ざける為か?」
「うん。前に苦手って聞いてたからな」
「何だよ~!そうだったのかよ~!俺はてっきり伊織が類を気に入って連れてったのかと思ったぜ~」
伊織が道案内を買って出た理由が分かって、ホッとしてると、伊織は少しムッとした顔してた。
あれ?怒らせた?なんで?
「貴哉以外を気に入る訳ないだろ。それぐらい知っとけよ」
「何怒ってんだよ。勘違いさせるような事したのはお前じゃん。類の背中触ってたし。俺が他の奴にボディタッチしようもんなら怒る癖によー」
「それはごめん……なぁ貴哉、やきもち焼いてくれたのか?」
「おう!でも類いたし、あんま強く言えなかったんだよ」
「はは、ヤバ……嬉し……」
「は?伊織?」
伊織は立ち止まって右手で俺の手を握ったまま、左手で自分の口元を押さえていた。
なになになに?眉毛八の字にさせて、目潤ませて、まさか泣くのか!?
「俺、ずっと貴哉と過ごしたかったんだ。でもお互いやる事あったから出来ないの分かってたから我慢した。そんな所に早川といるのちらほら見かけたりしてさ……貴哉は俺のなのにって、悔しくて……」
「わああ!泣くなよ!?俺が泣かしたみてぇじゃん!俺はお前のだからっ!だから泣くな!」
「泣かねぇよ♡俺はもう何でも出来る男じゃねぇけど、それでもこれからも側にいてくれないか?」
「何だよそのセリフ、お前らしくねぇな」
「もう余裕ねぇんだわ。お前を繋ぎ止めるのでいっぱいいっぱいでさ、早川だけじゃなくて一条とか中西とか二之宮にさえもイライラしちまうんだ。かっこ悪いけど、これが本当の俺らしい」
苦笑いする伊織から出て来た言葉は、とても桐原伊織とは思えない言葉だった。
いつも強気で強引な伊織からは想像もつかない程に弱々しいもので、俺はそれを聞いていて何故かとても愛おしく感じた。
だから俺は伊織の手を握り返して笑ってやった。
「本当のお前が見れて嬉しい。俺はかっこ悪いとは思わねぇよ?どんなお前でも桐原伊織に変わりはねぇ。俺は何でも出来るお前じゃなくても大好きだぜ」
「俺もっ大好きだ!」
「余裕無くさせちまって悪かったよ。俺が全部悪いんだ。伊織、辛かったよな?」
「辛い。けど、貴哉がいなくなる方がもっと辛い」
「……伊織、俺はどうしたらお前を安心させられるんだ?」
「…………」
伊織が辛い思いをしない為にはどうしたらいい?
それが俺に出来る事ならやる。
もし出来ない事だったら、そしたら俺は伊織と離れるしかない。
じゃなきゃ伊織は辛いままだからな。
伊織は何かを言いたそうにしていたけど、首を横に振って笑顔を作っていつものように笑った。
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