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3章 文化祭まで一週間

てかあいつ何で追い掛けて来ねぇんだよ!

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 俺は空と一緒に学校を昼飯を食いに出ていた。
 平日の昼前に堂々と学校の外歩けるとか気分良いわ~。


「どこも混んでるな。貴哉時間そんなにないんだろ?簡単に済ませようか」

「ん、別に少しぐらい遅れてもいいだろ」

「遅刻すると茜さんに怒られるぞ」

「怒られたら泣きついて甘えれば平気♪あいつ俺の事大好きだから」

「それは俺が嫌だからやめて」

「何だよ、お前また気にするようになったのか?大人しくなったと思ったのに」

「貴哉はどっちの俺が好き?」

「どっちだぁ?」


 そりゃ、うるさくない方がいいに決まってる。
 けど、すぐに答えられなかった。
 だってどっちも空だからだ。


「どっちも空なら好きだぜ♪」

「本当か!?本当は俺、貴哉が誰かと話してたりするのも嫌なんだ!」

「へ?それはしょうがなくね?」

「うん。分かってる。それに今は友達だから我慢してる」

「友達……」


 空から友達って言葉が出て俺はハッとした。
 そうか、俺と空は付き合ってない。関係は友達なんだ。でも、空からハッキリと友達って言われて何となく嫌だなと思った。


「だって、同じ友達にやきもち焼いても仕方ないからさ~。そう思って割り切ってるよ」

「そっか」

「でも俺は貴哉の事が好きだから、本当は嫌だ。桐原さんには勿論、茜さんにも一条さんにもやきもち焼いてるんだ」

「…………」

「あのさ、もしまた俺と付き合う事があったら、その時は堂々と嫌がってもいいよな?貴哉は俺のだって、言ってもいいよな?」


 俺は何て言ったらいい?
 俺が何て言えば空は喜ぶんだ?
 今俺が付き合ってるのは伊織で、空は友達……

 ああ俺、空に友達って言われたのすげぇやだ。


「俺とお前がまた付き合う事はねぇよ」

「えー?どうしてー?」


 俺が冗談で言ってると思ったのか、いつものようにふざけた感じで聞いて来た。
 俺も自分で何言ってんだって思った。
 そんな事言ったって空が傷付くだけじゃん。
 また空を傷付けるだけじゃん。


「俺は伊織の事が好きだ。他なんか見れねぇからだ」

「おい、急にどうしたんだよ?」


 俺の態度がおかしい事に気付いた空が、腕を掴んで来た。
 あーもう、こんな事してる時間ねぇのに。


「お前、ムカつくっ」

「はぁ?何がムカつくんだよ?教えろよ」

「俺の事友達だとか言ったり、好きだとか言ったり訳分かんねぇとこだよ。そういうの面倒くせぇんだよ」

「だって、どっちも本当の事だろ?俺は貴哉の事がずっと好きだし、てか友達じゃないなら何なんだよ?」

「うるせぇ!もういい!一人で飯食う!付いて来んな!」


 コンビニかどっかでおにぎり買って演劇部んとこ行って食おう。空を置いて歩き出す。

 空と喧嘩なんかするつもりなかったのに、何で俺はあんな態度とっちまったんだ。
 文化祭も明日なのに、こうなったら俺はずっと演劇部の方で過ごすしかねぇ。
 空も空だ!何で俺の事友達だなんて言ったんだよ!俺は空の事を……空の事を?どう思ってるんだ?

 俺は空の事を伊織と同じぐらい好きだと思っていた。本当にそうなのか?どちらも同じぐらい好きなのか?
 だったら何で空と付き合わないで伊織と付き合ってるんだ?どっちか選ばなきゃいけなかったから?
 
 もう訳分かんねぇ!
 てかあいつ何で追い掛けて来ねぇんだよ!
 伊織だったらすぐに追い掛けて来るのにっ!

 俺は一人で歩いていたのを辞めて立ち止まって振り向くと、空はさっきの場所に立ってこちらを見ていた。
 俺が見てる事に気付くと、近付いて来ようとしたから逃げるようにまた背中を向けて歩き出した。


「貴哉、待って」


 空の俺を呼ぶ声が聞こえた。
 でも俺は足を止めない。
 空が止めるまで歩き続けるつもりだ。


「貴哉ってば」


 声が少し近くなった。
 そして腕を掴まれた。
 止められたから足を止めると、空は俺の前に回って顔を覗き込んで来た。


「貴哉を怒らせた事謝るから、理由教えてくれないか?」

「……やだ」

「何で!?」


 答えないでフイっと顔を背けると、空がため息をついた。
 本当に俺は何がしたいんだよ……
 こんなの空を困らせるだけじゃん。


「貴哉のさっきの言い方だと、俺が友達って言ったのを怒ってるんだよな?それと、貴哉を好きな事か」

「…………」

「ごめん。もう言わないから。好きも辞めた方がいいのか?」

「だー!クソが!何でそうなるんだよ!俺はお前に友達だって言われて腹立ってんだよ!でも俺も友達じゃないなら何なんだって訳分からねぇとこなの!好きも辞めたきゃ辞めろ。俺に聞く必要ねぇよ」

「俺達って何なんだろうな。恋人じゃなきゃ友達でもない。でも俺、貴哉と他人になるなんてやだよ。だったら一番近いのは友達だろ?」

「でも、俺は……」

「何?話して?」


 空は優しく俺の手を握って聞いて来た。
 俺は今日、空相手にムラムラしたんだ。
 その事を言うつもりなんだけど、言ってもいいのか?


「貴哉」  

「今日、俺とお前で昼飯食うって話した時にお前が抱き付いて来ただろ?そん時、お前とイチャつきてぇって思っちまったんだ。それって友達相手には思わないだろ?だから、俺と空は違う風に考えてたんだなって……嫌だったんだ」

「ま、待って!さっきムラムラって言ったのって冗談じゃなかったのか!?」

「そうだよってか思い出させんな!恥ずかしいだろ!」


 俺が本当の事を話すと、空は慌てた様子で確認して来た。こいつ、冗談だと思ってやがったのか!いや、あの時はそう思ってくれてて助かったけども……

 そして空は、恥ずかしがる俺の手を引いて歩き出した。
 行き先は分からないけど、俺はそのまま空の後を付いて行くだけだった。

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