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3章 文化祭まで一週間
※ 俺の一番嫌いな人間だったからな
しおりを挟む※茜side
キッチンにいた卯月を呼び出して二人きりで話す事になった。
リビングには一条や桐原がいたから二階の一室を借りる事にした。
テーブルがあってそこを囲うように立派な椅子が四つある部屋。俺と卯月は向き合う形で座った。
「卯月、さっきは大きな声を出してすまなかった。良かったら卯月が怒っていた理由を聞かせて欲しい」
「俺もあんな態度取って悪かったよ。本当にごめん。理由は……二之宮に嫉妬してたんだ」
「俺に?どういう事だ?」
予想外な理由で、驚いた。
卯月はとても言いにくそうだったけど、それでもちゃんと話そうとしてくれていた。
「本当なら演劇部の部長として仕切らなきゃいけないのは俺なのに、全部二之宮がやってくれてるだろ?俺は何も出来なくて、ずっとモヤモヤしていたんだ」
「全部って、それは言い過ぎだ。俺は自分に出来る事しかしていない。それに、俺も一応副部長だからやるのは当然だろ」
「二之宮はそう言うけど、俺は気にしてたんだよ。元部長は薗田さんだし、任命された時は嬉しかったけど、俺に務まる訳ないと思ってたんだ。そしたら案の定俺よりも二之宮の方が部長らしかった……」
話しながら悲しそうな顔をする卯月。
まさかそんな事を考えていたなんて、思ってもいなかった。
確かに卯月は自分から仕切ったり、発言したりするのはない。俺はそれに対して何も思ったり感じた事は無かったけど、卯月自身は気にしていたようだ。
「そうか、俺が余計にプレッシャーを与えていたんだな。すまない」
「ううん。勝手に嫉妬してモヤモヤしてた俺が悪いんだよ」
「卯月は俺に嫉妬してると言うけど、それなら俺だって卯月が羨ましいぞ。誰とでも仲良く出来るお前の事をいつも凄いなと見ていた。俺は自分が人付き合いが下手だってのは分かってるんだ。でもどうしても上手く出来なくて、気付けばみんな離れて行っていた。それとは逆に卯月の周りにはいつも人がいてとても羨ましかった。薗田さんが部長として卯月を選んだのも納得出来るよ」
「二之宮……」
「自分の意見ばかり押し付けるのは良くないけど、分かってもらう為に伝えようとすると、必ずみんな離れて行った。でも、秋山は違った。あいつはこんな俺でも離れなかったんだ」
秋山の事を思い出して自然と暖かい気持ちになれた。話を聞いてくれている卯月も笑っていた。
「うん。貴哉くんは本当に面白いし良い子だよね。初めの二人の関係はとても冷や冷やしたけど、まさか一番仲良くなっちゃうなんてね」
「はは、俺の一番嫌いな人間だったからな。そんなのが演劇部に来たなんて許せないだろ。でも秋山のおかげでここまで残ってこれた。感謝してるんだ。だから俺は演劇部を辞めて秋山達との時間を増やそうと思っているんだ」
「そっか。俺は止めないよ。二之宮がいなくなるのは寂しいし、演劇部としては結構な痛手だけど、二之宮にはずっと笑顔でいて欲しいからね。君の笑顔は見ていて安心出来るんだ」
「そうなのか?自分の笑顔がどんなのか分からないからなー」
「二之宮の周りに集まる人達を見ていれば分かるよ。それと、二之宮に演劇部に残って欲しいって人はたくさんいるんだよ。みんな薗田さんの指示で言わないだけで、悲しんでるんだよ」
「それは知らなかった……ほ、本当なのか?」
「俺が嘘つくもんか~。中には二之宮を煙たがっていた人達も今では二之宮を認めているんだ。だから戻って来たくなったらいつでも戻って来いよ。みんな待ってるから」
「卯月、やっぱり部長はお前じゃなきゃダメだ。ありがとう。話せて良かった」
「俺も。文化祭まであと少しだけど、一緒に頑張ろう!」
卯月はいつもの笑顔でニッコリ笑った。
お互い、ない物ねだりで羨ましく思っていたんだな。
俺達がもう少し大人だったならあんな大きな喧嘩をせずに済んだのかも知れない。
卯月に足りない物は俺が。
俺に足りない物は卯月が。
もっと早く気付けていれば、もっともっと良い演劇部になっていたかも知れないな。
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