上 下
135 / 219
3章 文化祭まで一週間

※ こちらへ卯月が来なかったか?

しおりを挟む

 ※茜side

 俺は久しぶりに感じた怒りに身を任せて廊下を歩いていた。目的は演劇部部長である卯月恭弥を探す事。
 卯月は普段はおおらかで笑顔の絶えない男だ。誰に対しても優しくて俺はそんな卯月の事を尊敬していたんだ。
 そんな卯月の様子がおかしかったんだ。
 
 俺は、もっと演劇部の練習時間が欲しくて、生徒会長である同じ学年の前田に交渉してみたんだ。すると、案外良い答えが返って来たから部長である卯月にも報告をした。
 が、卯月は嫌な顔をして、何も言わずに立ち去ろうとしたんだ。あの卯月がだ。きっと一緒に喜んでくれると思っていた俺はすぐにどうしたんだと聞いたよ。だけど、「別に」と言ってその後も態度がおかしかったんだ。

 俺もこんな性格だから黙ってはいられずに問い詰めようとしたら、卯月が反抗して来て見事に大騒ぎになってしまったと言う訳だ。
 卯月がどうして俺にあんな態度を取ったのかを聞きたかった。俺に悪い所があるなら謝るし、そうじゃないならそれはそれで問題だからちゃんと話し合いたかった。

 そしてその騒ぎに仲裁に入ってくれたのが今俺の両脇にいる犬飼と小平だ。
 卯月を探す俺を止めようと体育館から玄関までの道のりをずっと付いて来ていた。


「くそ!卯月の奴どこへ逃げたんだ!」

「二之宮落ち着いてって!」

「そうだぞ茜ちゃん!らしくねぇよ!」


 俺が喋ると犬飼には腕を、小平には肩を掴まれて落ち着けと止められた。
 ここで玄関の方からこちらを見ている二人がいる事に気付く。一条と早川だった。

 そうだ、あの二人に卯月がこちらへ来ていないか聞いてみよう!
 ちょうど向こうの二人も俺達を見付けて近付いて来ている所だった。


「茜ちゃーん?そんなに取り乱して何かあったの?」

「一条!こちらへ卯月が来なかったか?」

「卯月ぃ?見てないけど、トラブルって茜ちゃんと卯月なのかー?」

「貴哉から演劇部でトラブったって連絡が来たんですよ。貴哉はどこにいるんですか?」


 一条と早川は卯月を見ていないらしいな。
 秋山がこの事を知っていると言う事は卯月に関わっている可能性が高いな。もしかして秋山が卯月を匿っているのか?


「秋山は見てない。電話を掛けてみよう」

「二之宮、卯月に会っても怒鳴ったりしたらダメだぞ?落ち着いて話さなきゃまた逃げちゃうからな」

「あいつの態度次第だな。まったく、文化祭まで残り少ないって言うのにっ」


 俺が秋山に連絡を取ろうと電話を掛けてると、一条と早川に後ろから付いて来ていた雉岡がこの件の事を話していた。
 あまり騒ぎを広めたくないな。早々に話し合って片付けないと演劇部自体に支障が出てしまう。

 電話を掛けると、しばらくして秋山が出た。


「あ!秋山!今どこにいる!?」

『茜、お前今怒ってんの?』

「いや、怒ってないぞ?少しだけ落ち着いた」

『ふーん。じゃあ完全に落ち着いたらまた電話してー』

「なっ!?どう言う事だ!?おいっ秋やっ……あ!切られた!」


 絶対卯月を匿っているじゃないか!
 しかも秋山は卯月側に付いたのか。これは厄介だな。出来れば秋山とは揉めたくないのに。

 俺の様子を見て周りが心配そうに聞いて来た。


「茜さん、貴哉どこにいるって言ってました?」

「教えてくれなかった。俺が怒ってると思ってもっと落ち着いたら電話してくれと」

「卯月ってば秋山といるの~?て事はいーくんもかなぁ?」

「だろうな。茜ちゃん、とりあえず落ち着くんだ。そして向こうに話し合いの場を設けてもらおう。な?」


 犬飼に宥められながら俺は思った。
 何故俺が向こうに気を使わないといけないんだ?だって、先に変な態度を取って来たのは卯月じゃないか!俺は悪くないのに!ここにいる奴らも、秋山もみんな俺が悪いみたいに言いやがって!

 再び怒りが込み上げて来て俺は両脇にいた二人を振り切って一人で玄関に向かった。


「ちょっと茜ちゃん?どこ行くのー?」

「帰るんだ!もうあんな奴知らん!」

「えー!茜さんどうしちゃったんですかぁ!?」


 一条に呼び止められるけど、俺はそのまま玄関で靴を履き替える。追って来た早川が聞いてくるけど、俺でももうどうしたらいいのか分からなかった。

 どうしていつも俺はいつもこうなんだ。

 周りとうまくやっていけない自分に腹が立つ。

 もう誰も追って来ないように一度後ろを振り返って、こちらをジッとみてる集団に向かってキッと睨み、俺は一人で学校を出た。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...