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2章 文化祭までのいろいろ
※ 桐原さんに褒められると何かあるんじゃないかって不安になりますよ
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朝、みんなより早く起きて、着替えてから朝飯を作る為にこっそり部屋を抜け出した。
材料はちゃんとあったし、人数分用意出来ればなんとかなりそうだ。
キッチンに来てまずお米を炊く。そして和食と言えば味噌汁だ。どうせなら美味しい味噌汁を作りたいから俺はネットで調べながら作る事にした。
そんな事をしていると、キッチンに誰かが入って来た。
「おっやってるね~」
「あれっ桐原さん?おはようございます……どうしたんですか?」
突然現れた桐原さんも私服に着替えていて、既に髪型もセットしてあった。
「おはよ。手伝いに来たんだよ。チームで負けたからな」
「本当ですかぁ!?」
俺が本気で喜んで笑顔を向けると、ニコッと笑って隣まで来て何をやっていたのか確認し始めた。
「本当ですとも。さて俺は何をやりましょうか?」
「あ、じゃあ魚焼いてくれますか?冷蔵庫にシャケが入ってると思うんで」
「おっシャケ良いね~♪任せろ♪」
「嬉しいな~♪正直魚の焼き方分からなかったんですよね~。桐原さんは料理得意なんですか?」
「普通に出来るよ。休みの日は自分で作るから自然と出来るようになった」
「へー、本当に何でも出来るんですね」
「まぁな。それが良いのか悪いのかは分からねぇけどな」
「何言ってるんですか!良いに決まってるでしょ?」
俺は鍋に水入れながら、この人嫌味かと思っていた。そりゃ何でも出来る方が良いに決まってるだろ。こんな風にスマホで調べなくても手際良く味噌汁を作る事だって出来るし、女子にもモテる。学校では常に人気者になれるし、家でも褒められるだろう。
「なぁ、早川って兄弟いるか?」
「兄が一人いますけど?」
「お、一緒だな」
「えっ!桐原さんって下なんですか?意外ですね」
「早川は下って感じするわ」
「そうですか?ああ桐原さんっていつも人の事見下してますもんね~」
「……そんなつもりはねぇけど。そう思わせてたなら悪かったな」
あれ?意外な反応だな。皮肉を言っても強気で返って来ると思ってたから何だか拍子抜けだ。
俺は豆腐を賽の目ってやつに切って、キッチンにあった顆粒ダシを沸騰したお湯にパラパラと入れた。
「珍しいですね。貴方が謝るなんて」
「いや、お前らといると何となく分かるんだわ。俺のダメな所がさ。だから貴哉にも早川にも感謝してるよ」
笑顔のままそう言って魚を焼く場所にシャケを並べてる桐原さん。何か俺に対して怖いぐらい素直じゃないか?
「何かあったんですか?話ぐらいなら聞きますけどー?」
「んじゃ同じ次男として質問していいか?」
「どうぞ」
「早川は兄貴より優れてるものってあるか?」
「えー、そんなの考えた事ないなぁ~?兄貴はいつも俺を引っ張ってってくれてたから、兄貴より優れてるものなんて……あ、勉強かな?兄貴が勉強してる所見た事ないし、小学生の頃兄貴のテストをたまたま見た事があって、国語だったんですけど、30点だったんですよ。あれは衝撃的でしたね~。俺90点以下取った事無かったんで、兄貴病気か何かかなって心配になりました」
「あはは、それ兄貴に言ったの?病気なのかって」
「言いませんよ!俺、兄貴の事好きだから傷付かないように見て見ぬ振りしました」
「良い弟だね~」
「兄貴はいつも俺の事を第一に考えてくれてましたからね。俺が一人にならないように、俺がちゃんとご飯食べられるようにって、いつも自分よりも俺を優先してくれてたんです。だから兄貴の事は好きです。尊敬もしてます。ちょっとうるさいところありますけどね」
「そっか。それはお前が真っ直ぐで優しいからだろうな」
「えー、本当どうしたんですかぁ?桐原さんに褒められると何かあるんじゃないかって不安になりますよ」
魚をセットし終えた桐原さんは俺の方を向いて、困ったような笑顔をした。
「あ、もしかして桐原さんはお兄さんと仲良くないんですか?」
「ビンゴ♪俺、兄貴に嫌われてんだわ」
「マジ?」
「マジマジ。俺は別に普通なんだけどな。いつからかすげぇ嫌われるようになったんだ。だから兄貴と仲良くて羨ましいよ早川が」
「何で嫌われてるんですか?」
「さぁな。小さい頃は普通に遊んでたんだけどな。俺んち両親どっちも仕事でいなかったからいつも二人だったから。気付いたら兄貴はグレてて家にも帰って来なくなってたな」
「グレたって、桐原さんのお兄さんってどんな人ですか?似てるんですか?」
「見た目は似てるって言われるな。性格は似てない。小さい頃は兄貴も良く笑って明るかったけど、段々笑わなくなって何に対してもやる気ない感じになったんだ。俺は何でもやりたがる方だから、正反対かな?」
これは意外だなー。誰からも好かれる桐原さんが、一番近くで育って来た兄貴から嫌われてるなんて。てか桐原さんちも俺んちと似た境遇なのか?いや、桐原さんの金遣いの荒さを見ると俺んちとは違うか。
「何か桐原さんのその話聞けて良かったです。同じ次男だって分かったし、少しですけど親近感湧きました。兄に対して感じるものは違いますけど、貴哉に対して執着する所が同じなのはそういう所から来てるのかななんて」
「そうかもな。次男として生きて来た何かが似てるとこあるのかもな」
俺は特に次男だと言う事を意識した事なんてなかったけど、桐原さんに言われて実感するものもあった。
俺の家庭環境が他とは違うからかもだけど、生まれた時から兄貴がいて、親がしてくれない分面倒を見てくれていたからそれが当たり前だと思って甘えて来た。でも一丁前に親には自分を見てもらいたくて頑張ったりもしてきた。
今の俺があるのは兄貴がいてくれたからだというのを最近になって分かって来たところだった。
きっと桐原さんは次男として自覚があって、お兄さんとの関係で思う事があるのかもしれない。
何でも出来て周りからの人望もあるスーパー高校生の弱い部分を知ってしまった気分だった。
だからと言ってそこを突く訳でもなく、俺は今まで通りにしてようと思った。
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