上 下
107 / 189
2章 文化祭までのいろいろ

はは、戸塚ってやっぱ良い奴だよなぁ

しおりを挟む

 皆んなが準備に風呂に入っていて、今は伊織の番。先に風呂から上がった俺は髪も乾かさずに急いで戸塚の所へ向かった。戸塚は一人でこの家を見て回ってるはずだ。
 俺は二階へ行き、電気の点いてる部屋を見付けて中に入ってみた。


「戸塚ー?いるかー?」

「秋山か、どうした?」


 中には紘夢に借りた部屋着姿の戸塚がいた。一番初めに風呂に入っていたので、髪型はすっかり元通りになっていた。
 戸塚がいた部屋は他の部屋に比べたらそこまで広くなくて、本が本棚にたくさんあって、まるで小さい図書室みたいだった。


「あのよ、実は……」

「?」


 俺が言いにくそうにしてると、無表情のまま俺を見ていた。
 俺達の黒歴史を伊織に話した事を伝えたいんだけど、何て言う?てか戸塚は覚えてるのか?覚えてないのに、思い出させるような事言っても平気か?
 しばらく唸りながら悩んでいると、いつの間にか俺の側まで来ていた戸塚は、少しだけ笑ってみせた。


「秋山が言葉に迷ってるなんて珍しいな。俺は待つからゆっくり話せばいい」

「おわっ優しいな!えっとー、戸塚ってさ、俺んちに泊まったのって覚えてるか?」

「勿論だ。芽依もいたな」

「そうそう。そん時だけどさ、俺とお前一緒に風呂入ったじゃん?」

「入ったな。それがどうした?」


 いつもの無表情で答えていく戸塚。ええー、本当に覚えてねぇのかぁ?それはそれで言いにくいもんがあるぞ。
 俺が目線を外して何て言おうか考えてると、戸塚は俺の髪を触り始めた。えっ!?いきなり何!?


「と、戸塚!?」

「まだ乾かしてないのか?風邪引くぞ」

「あ、今伊織が風呂入ってるから、急いでたんだ」

「桐原さんがいない時じゃないと話せない話か」

「……覚えてるか?」

「当たり前だ。あんなに可愛かったお前を忘れる筈がないだろう」

「かわっ!?」

「で?それがどうした?まさかまたして欲しくなったのか?」


 少し引いた目で見てくる戸塚。あーはいはい!言いやすくしてくれてありがとうございます!
 俺はここまで来たらさっさと用を済ませちまおうと、戸塚に打ち明ける事にした。


「ちげぇよ!あの時の事、伊織に自分で話しちまったんだよ。伊織ってやきもちすげぇ焼くから、戸塚に何かするかもって心配してんの!もしされたら俺に……」

「何故俺が桐原さんに何かされなきゃいけないんだ?あの時の秋山は早川と付き合っていたんだろ?桐原さんが俺に何かをして来たとしても動じなきゃいい話だ」

「うわぁ、鉄仮面強気~。なら安心したわ!そろそろ伊織が出る頃だから行くな」


 そうだったな。戸塚はいつでもどこでも誰に対しても鉄仮面。てかさっきの戸塚って紘夢っぽかったな?さすが従兄弟?伊達に血繋がってねぇな。
 俺は髪を乾かす為に部屋を出ようとすると、戸塚に手を握られた。え?さっきからどしたのこいつ?こんなボディタッチしてくる人だったっけ?


「秋山は今誰が好きなんだ?」

「……は?」

「伊織が伊織がと随分気にしているようだけど、本当に好きなのか?教室では早川と親しげにしているのを見るが、そっちの方がよっぽどお前らしいと思うぞ」

「え……」

「誰かに流されるとかお前らしくないと俺は思う。俺はお前の自由奔放さが嫌いだったが、今ではそれがお前の長所だと思うんだ。それが無くなったらお前の良い所が無くなるだろ」

「待って?それ褒めてんだよな?」

「褒めているが、俺は心配しているんだ。友としてな」


 友ーーー!!
 まさかの鉄仮面からの友達認定いただきましたー!って喜んでる場合かっ!
 
 俺は戸塚に言われた事が分からない訳ではない。誰が好きなのかって聞かれたら思い付くのは伊織と空だ。どちらかにしろと言われたら、正直答えられない。でも、戸塚の言う通り今は一緒にいて楽しいってか一緒にいなきゃなのは空なんだ。
 同じぐらい大切だから、側にいてやりたいって思うんだ。


「サンキュー。はは、戸塚ってやっぱ良い奴だよなぁ」

「秋山」

「俺は今二人共好きだけど、いつかはどちらかを選ばなきゃいけないってのは分かってる。でもさぁ、それってすぐじゃなきゃダメなのかなぁ?すぐに選べって言われたら俺、無理……」


 どちらかの手を振り払う事を想像したら悲しくなって俯いてしまった。伊織がいなくなるのも、空がいなくなるのも耐えられねぇよ。どちらにせよ俺は泣くだろうよ。
 そんな俺に戸塚は優しい声で言った。
 

「部外者が余計な事を言ってすまなかった。俺の言う事は気にしないでくれ。秋山は秋山のやりたいようにやるのがベストだと思う。周りを掻き回してでも自分のしたい事をするのがお前だからな。俺はそれを端から見学しているよ。たまにこうして話も聞こう」

「戸塚ぁ!好きだー!」

「やめろ!そのすぐに抱き付く癖直せ!」


 俺は暖かい戸塚の言葉に感動してギューってしてやった。すぐに抱き付く癖とか言ってっけど、俺から誰かに抱き付くなんてねぇからな?戸塚は特別なんだからな?あ、茜になら抱き付くかもな?
 本当に俺は良い友に恵まれたなって思うよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ

pino
BL
恋愛経験0の秋山貴哉は、口悪し頭悪しのヤンキーだ。でも幸いにも顔は良く、天然な性格がウケて無自覚に人を魅了していた。そんな普通の男子校に通う貴哉は朝起きるのが苦手でいつも寝坊をして遅刻をしていた。 夏休みを目の前にしたある日、担任から「今学期、あと1日でも遅刻、欠席したら出席日数不足で強制退学だ」と宣告される。 それはまずいと貴哉は周りの協力を得ながら何とか退学を免れようと奮闘するが、友達だと思っていた相手に好きだと告白されて……? その他にも面倒な事が貴哉を待っている! ドタバタ青春ラブコメディ。 チャラ男×ヤンキーorヤンキー×チャラ男 表紙は主人公の秋山貴哉です。 BLです。 貴哉視点でのお話です。 ※印は貴哉以外の視点になります。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

夏休みは催眠で過ごそうね♡

霧乃ふー  短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。 実は、俺は催眠を使うことが出来る。 催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。 いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。 部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。

処理中です...