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2章 文化祭までのいろいろ

傷だらけの器か。あいつらしいな

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 スパルタ演劇部をやり遂げて、俺は帰り道、伊織と歩いていた。


「あー、まじダル……あと一週間もこんなん続くとか最悪……」

「最近貴哉いつも帰りはこうだよな」

「てか何でお前は茜に怒られねぇの?贔屓じゃん!」

「真面目にやってるからだろ。貴哉はー……あ、多分二之宮にとって初めて自分に付いて来てくれた後輩だからかもな~」


 俺だって真面目にやってらぁ!と言おうとしたけど、後半の言葉に少し心が揺れた。茜の少し前の話なら聞いた事があるけど、あの性格だから演劇部のみんなからは嫌われて、それでも自分を変えずに副部長になり、演劇部の演者として堂々としていた。それは演劇部だけじゃなくて二年全体から腫れ物扱いされて、俺と会うまでは正に一匹狼状態だったらしい。
 正直俺は今の茜しか知らねぇから、だからあのスパルタにイラついてんだけど、確かに言われてみればみんなも怒られてるのに、逃げ出す奴いねぇよな?それは茜が本当は良い奴って分かったからか?


「なぁ伊織~?何でみんなは茜に怒られて嫌にならねぇの?前はすげぇ嫌われてたんだろ?」

「みんなも二之宮の凄さが分かったからだろ。あいつは真面目だけじゃない。誰よりも努力家で仲間想いな男だからな」

「それだけで逃げないのかよ?」

「うーん、ここだけの話、二之宮が文化祭終わったら演劇部辞めるってみんな知ってるんだわ。本人は一部にしか知られてないと思ってるみたいだけどな」

「あ、そうだったんだ!えっ!て事は今みんなが二之宮の言う事聞いてるのって……」

「ああ。なんだかんだ寂しいんだよみんなも。やっと二之宮が良い奴だって分かった途端に出た話だからな。今まで酷い事言ったの謝るから退部するの止めようって奴もいたんだ。だけど、詩音さんが首を横に振って二之宮をいつも通りに送り出そうって言ってまとまったんだよ」

「へー!さすが詩音だな。俺全然知らなかったわ~」

「貴哉は二之宮と仲良いからこの事話しちゃうかもだろ?そしたら二之宮の気が変わっちゃうんじゃないかって詩音さんが心配したんだ。詩音さんは二之宮の努力を買ってるんだ。全くの素人で入って来た二之宮の演技力は正直並よりやや上ぐらい。全然七海の方が実力はあるし、それは二之宮本人も分かってると思うんだ。でも詩音さんは七海じゃなくて二之宮を副部長に指名したんだ。演劇部中から爪弾きにされてた二之宮をな」

「何で副部長に選んだんだ?」

「詩音さんは二之宮には素質があるって言ってた。演劇部の演者をやるのには演技力は必須だけど、部長、副部長ってなってくると、それだけじゃダメなんだ。これは他の部活にも言える事だけどな。みんなを引っ張って行く力がないと務まらないんだよ」

「なるほどな~。茜にはその力があるって訳か♪それなら納得だぜ~」

「だろ?詩音さんは早くからそれを見抜いていたんだよ。あえて部長じゃなくて副部長にしたのは下から上を支える力もあるからじゃねぇかな?」

「あー、演劇部の今の部長って影薄いし頼りないもんな~」


 ふと今の部長を思い出すと、ヘラヘラ~っと笑ってる顔しか浮かばない。卯月って名前は毎日会ってるからさすがに覚えたけど、詩音や茜ほどインパクトねぇからそこまで印象にねぇや。


「卯月は卯月で部長の器を持ってるよ。ただその器を自分でも扱い切れてないだけなんだ。詩音さんは二之宮にそれを上手く扱えるように手助けして欲しかったんだと思う」

「それってどんな器なんだ?こーんなおっきな器?」


 俺が両手を広げて大きさを表してみると、伊織は「はは」と笑って、両手を自分の胸のとこに持って言って何か丸い物を持つようなジェスチャーをして見せた。


「どうだろうな?もしかしたらこんなに小さな器かもな。でもその器はとても丈夫でどんな大金はたいても買えねぇ代物かも知れねぇ。それを包み込むぐらいでっかい器を持ってるのが二之宮だと俺は思うぜ?」

「茜の器か~!きっとでけぇよな!キラキラ輝いててめっちゃ綺麗なの!」

「俺もそう思う。あいつはすげぇからな。でも傷だらけだ。今にも崩れてなくなりそうな器だけど、誤魔化すようにセロハンテープで補強を繰り返してやっと形を保ってられるぐらい傷だらけの器。本人ももう限界だって分かったから退部を選んだんだろうな」

「……傷だらけの器か。あいつらしいな」


 茜は随分前から一人で頑張って来たもんな。俺と出会うもっと前からずっと。
 どんなに馬鹿にされようが、暴言吐かれようが、副部長として真面目に真っ直ぐに取り組んで来たんだ。

 俺は茜が部活辞める理由を本人から聞いてるから、いいんじゃん?程度だけど、演劇部の奴らからしたら今までの関係もあって寂しいのかもな。

 きっと茜もみんなと同じ気持ちだろうな。

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