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2章 文化祭までのいろいろ

単純って褒めてるのか?

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 俺と空が手を繋いで名残惜しそうにしている現場を伊織に見つかって、それも俺が伊織に対して酷い事を言ってる時だった。
 俺は階段を上って来る伊織を見ながら血の気が引いていた。
 伊織は笑顔だけど、あの声は確実に怒っていた。
 俺は何も言えずに、ただ伊織を見るしか出来なかった。
 そして伊織が俺の数段下まで来て、さっきまで空と繋いでいた手をチラッと見てから俺を見た。
 その俺を見る伊織の表情はさっきまでの怒った笑顔は消えていて、不安気に眉毛を下げて上目使いで俺を見ていた。あ、あれ?さっきまでの雰囲気と変わった?


「貴哉ぁ、今のは酷くないかぁ?さすがの俺も傷付いたよ……」

「えっ!?い、伊織!?」


 更には瞳を潤ませて、らしくないセリフを言った。いつもの伊織なら空もいるから強気で俺達を裂こうとするのに、今の伊織はなんていうか、とてもしおらしかった!
 いつもの伊織じゃないってのに驚いちまったけど、俺はハッとしてすぐに謝る事にした。今なら穏便に許してくれるかも!


「二人が仲良いのは知ってるけど、もう少し気を使ってくれてもいいんじゃないか?俺、二人が遊んだりするのダメとは言ってないよね?それじゃ不満かな?」

「お、俺が悪かったよ!伊織、ごめんな?」

「貴哉!」


 俺が慌てて謝ると、空が何かを言いたそうに俺の名前を呼んだ。


「貴哉が悪いの?ううん。俺が悪いんだよ。俺が貴哉の事を好き過ぎて独り占めしたいだけなんだ……貴哉、そんな俺を許してくれないか?」


 何故か被害者である伊織が俺に許しを得ようとしている状況になった。何で!?何これ!てか伊織ってば、ずっと目を潤ませて今にも涙が溢れそうだけど、何かあったのか?
 俺は伊織の事が心配になり、伊織の手を握った。


「許すも何も、お前は悪くないだろ。本当にごめん。これからは気を付けるよ。だからそんな顔しないでくれよ」

「貴哉は優しいな♪俺も貴哉の事を縛り過ぎないように気を付けるな♪」


 俺の手を握り返して安心したように笑った。
 俺の好きな伊織の顔が見れてホッとした。

 それにしても何があったんだろ?あの伊織がこんな弱々しくなるなんて、よっぽどの事があったに違いない。

 空はずっと何かを言いたそうにしていて、それに気付いた伊織が、ニコッと笑いかけていた。


「早川が貴哉に手を出したくなる気持ち、俺にも良く分かるよ。でも、それだと早川の印象が悪くなるだけだろ?俺は早川には周りに嫌われて欲しくないと思ってる。だからここは少し大人になって行動した方がいいよ♪お互いね」

「ご忠告ありがとうございます」

「俺も迂闊だったよ。これからは気を付ける!伊織!飯食おうぜ♪」

「うん。屋上へ行こうか♪」


 伊織は空に対しても優しく心配していた。
 これって俺の理想の三人だ!俺は二人共好きだから三人で仲良く出来たらなぁって思ってたんだ♪
 そうかぁ!伊織もやっと分かってくれたのか♪

 俺の手を握ったまま嬉しそうに笑う伊織を見て俺の心は暖かくなった。

 そして、三人で屋上へ入ると、先客が一人いた。
 屋上にいた珍しい人物に俺は更にテンションが上がった。


「なっちー♪こんなとこにいるなんて珍しいな~♪」


 屋上には伊織の友達のなっちが一人で胡座をかいて座っていた。横にはデカい弁当箱と、売店で売ってる弁当が蓋を開けたまま置いてあった。ちなみにどちらも既に空だった。
 俺はなっちの事が大好きだ。恋愛感情抜きにしたら結構上位に入るぐらい大好きだ。運動神経抜群で、いつも明るくて遊びに誘ってくれるから、俺はなっちを見付けるといつも飛んで行く。


「おう秋山に早川やっと来たかー!早く食わないと時間無くなるぞー!」


 なっちに駆け寄ると、ニシシと笑って言った。それにしても屋上にはなっちだけしかいないみてぇだな。伊織の友達はまだ来てないのか?


「伊織ー?友達は後から来るのか?」

「ううん。もういるよ♪」

「は?どこに?」


 どこをどう見ても屋上には俺達四人だけ。
 えっ!まさか!伊織が言う、空に紹介しようとしていた俺に似てる友達って、なっちの事か!?


「俺の大親友の香山那智でーす♪仲良くしてやってな♪」

「ギャハハ!いーくん何だよそれぇ!二人共知ってるっつーの!」

「えー!俺と似てるのってなっちの事なのかぁ!?どこが!?」


 なっちは伊織よりデカい。伊織と違って筋肉質で、いかにも体育会系だ。それに比べて俺は伊織より背が低いし、情けないけど、筋肉だって無い。
 似てるのなんて黒髪ってぐらいじゃね?


「どこがってそれ失礼だぞ~?秋山ならいいけどな」

「ちげーよ!なっちはめちゃくちゃかっこいいじゃん!俺なっちみたいにデカくないし、筋肉もねぇよ?」

「見た目は違うけど、性格は似てると思うぜ?俺から見たら兄弟みたいだなって思う」

「空はどう思う!?」

「えー、まぁ近いものはあるよな?二人共好きな事になると一生懸命になるし、興味ない事にはとことん手を抜くし、一言で言うと二人共単純?」

「アヒャヒャ!早川言うね~!」

「単純って褒めてるのか?」

「ううん。めちゃくちゃディスられてるよ♪」

「桐原さん!笑顔で貴哉に変な事言わないで下さい!」

「そっか……俺、なっちと似てるのか……」


 改めて近くにいたなっちを見ると、ニッと笑ってくれた。正直、俺は伊織、なっち、怜ちんだったら一番かっこいいなはなっちだと思ってたんだ。
 一番男らしいからな!それぞれにファンクラブがあるらしいけど、もし入るならなっちのファンクラブに入るつもりだ。


「やば!なっちに似てるとか嬉し過ぎるだろそれ!やったななっち~♡」


 俺がそう言うと三人は笑い出した。
 なっちに抱き付くと、なっちも軽く抱き返してくれた。ほら、この胸の筋肉とか羨ましいんだよ!俺や伊織には無い硬くてモリッとしてるやつ!
 俺もいつかなっちみたいになれるかなぁ?

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