上 下
79 / 219
2章 文化祭までのいろいろ

なんか空の声聞きたくなったんだ

しおりを挟む

 夜、部屋のベッドに寝転がりながら天井を見て、ふと伊織に提案された事を思い出していた。
 空に俺以外の気の合う奴を側に置く事。今の空を安定させるには良い考えだとは思う。だけど、ちゃんと空を理解してくれて側にいてくれる奴なんか見つかるのか不安だった。
 それと、もし見つかったとしても俺がその時どう思うのか。そこも不安だった。


「空に俺以外に好きな人が出来たら、喜んでやれるのかなぁ」


 普通の友達だったら応援してやるのが普通だよな?でも今の俺にそれが出来るのか?
 だって、俺、まだ空の事好きだぞ?
 それなのに、他の奴との応援なんて……するしかないのか?


「はぁ、空何してるだろ?」


 空の事考えてたらちょっと心配になってきたので、メッセージを送ってみる事にした。
 時間は21時過ぎ。予想だと部屋で何かしてるんだと思う。髪とかいじってそうだな。


『今何してる?』


 普通に送ってみた。すると、すぐに既読が付いて俺は「おっ♪」と一人で言って嬉しくなった。仰向けだった体勢をくるりとうつ伏せにして、肘を立てて枕をクッション代わりにスマホを見ていた。


『貴哉との写メ見てたー♡俺も今貴哉に連絡しようと思ってたんだ♡』


 空らしい文面で、ホッとした。ふふ、俺との写メを見てたとかどんなけ俺の事好きなんだよ。俺はそれが嬉しくて堪らなくなって、その後電話を掛けていた。


『わーい♪貴哉だ~♡』

「おう、今平気か?」

『暇過ぎてヤバかったよ~。いきなりどうしたの?』

「なんか空の声聞きたくなったんだ」

『え♡めちゃくちゃ嬉しい~♡』


 まるで恋人同士のような会話だったけど、それが今の俺には心地良くて普通に話していた。本当は空を期待させるかもしれないから良くないんだけど、伊織にあんな事言われてからモヤモヤしてたんだ。


「あのさ、明日の昼休み一緒に取ろうぜ?伊織ともう一人いるけど」

『いいけど、もう一人って誰?俺が知ってる人?』

「俺も誰だか分からないんだよ。伊織が明日連れて来るらしい」

『ふーん。それ俺がいてもいいの?』

「いい。むしろいなきゃ意味がねぇからな」

『どういう事だぁ?』


 言いたくないけど、話しておくか。いきなり紹介されても混乱するだろうしな。


「伊織が空に友達を紹介するって言ってるんだ。俺もどんな奴なのかは知らないけど、二年で俺と似てるらしい」

『桐原さんが俺に友達を?あの人、俺が邪魔だからってそんな面倒な事考えてんのか?いらないって言っておいて~』

「そ、そうだよな!いらないよな?よし分かった♪俺から言っておくな」


 空はちょっと不機嫌そうにハッキリいらないって言った。ヤバい。俺嬉しいぞ!


『でもお昼は一緒したいなぁ♪それと、土曜日時間ある?この前プレゼント買えなかったから買いに行きたいんだけど、デートしない?』

「する!あ、俺も空に何かプレゼントしたい!」

『えー♡どしたの貴哉~?今日いつもより可愛いくない?早く会いたいなぁ♡』

「俺も会いたいよ空に。はぁ……」


 電話の向こうではしゃぐ空の声を聞きながら、俺はついため息を漏らしてしまった。
 

『会っちゃう?俺行くよ♡』

「え、いや、それは……」


 空からの誘いに、俺は戸惑った。空とこの時間に一人で会うのは伊織にダメだと言われたからだ。
 そうだ、この話をしたから空に誰か紹介するとか言い出したんじゃねぇか。


『貴哉~?何かあった?』

「……実は、今日空と別れてから伊織に会ったんだ。そんで、これからは空から連絡あったら俺が会いに行くって言うのを言ったら、反対されたんだ」

『そりゃ反対するだろ。何で話しちゃったんだ?』

「今日の空を心配してたんだよ。何とか上手く言って仲直りしたって言ったけど、今の伊織ならいいよって言ってくれると思ったんだ……」

『だから桐原さんは俺に友達を紹介しようとしてるのか?貴哉の代わりになる人を』

「……そうだ」

『…………』


 ここで空が黙っちまった。
 さっきまで機嫌良かったのに、俺のせいで変な空気になっちまったな。


「なんかごめん」

『ううん。貴哉は桐原さんの言う事を聞くの?』

「今のところはな」

『じゃあ俺が今知らないおっさんと会うって言っても来てくれないって事?』

「空っ!」

『冗談だよ。今はそんな気はさらさら無いよ。でもそう言う事だろ?』

「俺は行きたいと思ってる。でも伊織を裏切る事も出来ないんだ」

『結局貴哉は桐原さんの方が大事なんだね』

「違うっ!同じぐらい大事だ!」

『あはは、貴哉必死~♪大丈夫だよ。恋人を選ぶのは当たり前の事だし?変な事言って悪かったよ~』

「空、俺は本当にお前の事が好きなんだ。だから、空が伊織の紹介を断ったの嬉しかった。空が他の奴と仲良くなるの嫌だったんだ」

『嬉しいな~♪俺も貴哉の事が好きだよ。他の誰とも仲良くするつもりはないから安心しろよ。あ、土曜日のデートだけど、俺は貴哉の事恋人として接するつもりだけど、いい?』

「……うん。俺もそのつもりで行くわ」

『やったー♡貴哉大好きー♡』

「俺もお前が大好きだ♡」


 その後も空とずっと電話で話していた。お互い眠くなるまで、他愛無い話や学校の事、土曜日のデートの事とかいっぱい話した。
 その間に来ていた伊織からのメッセージは朝返す事にした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...