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2章 文化祭までのいろいろ

※ いつ勇気なんかあげたよ?

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 ※伊織side

 部活終了後、食堂内で貴哉の姿が見えなくて探してると、二之宮がもう帰ったと教えてくれた。
 え、俺に黙って帰るかね?確かに詩音さんと話してたけど、普通声掛けて行くだろ?
 二之宮と話してると、犬飼がニヤニヤ笑いながら会話に入って来た。どうやら俺達の会話を聞いていたようだ。


「もしかして振られたのー?百戦錬磨の桐原もここまでかー?」

「犬飼、やたらな事言うもんじゃない。桐原、気にするな?」

「ん、別に何とも思ってねぇけど」


 これは本当だ。犬飼が茶化してるのは分かる。それを二之宮が軽く叱ってフォロー入れてるけど、俺は何とも思わなかった。
 貴哉には好きにさせる事にしたからな。あまり干渉し過ぎても良くないから気にしないようにしてるんだ。


「クールだね~。そんじゃちょっと手伝ってよ。これ物置に運びたいんだ」

「いいよ」


 犬飼は背景で使う街風景の大きな板を分解して運ぼうとしていたらしい。それを両手いっぱいに持っていて、残りは何枚かある。


「助かる~♪今日トモが早退していないから全部俺がやらなきゃなのよ」

「そう言えば猿野いなかったな。あいつが早退とか珍しいよな」

「ああ、何か体調悪そうだったんだ。居座るつもりだったみてぇだけど、移されても嫌だから無理矢理帰したんだよ」

「この大事な時期に風邪か?早く良くなるといいな」


 二之宮が心配そうに言うと犬飼は、コロッと表情を甘い笑顔に変えた。こいつ顔は良いよな。男の割には綺麗な顔してて、大抵の女ならすぐに落とせそうなそんな雰囲気を醸し出してる。


「茜ちゃーん♡大丈夫♡俺が管理して文化祭には間に合わせるから~♡」

「そうだな、犬飼頼んだぞ」

「何でも良いけどさっさと運ぶぞ」


 犬飼の手伝いで、残りの板を持ち上げて食堂から出る。裏方の手伝いもした事はあるからこういう作業も慣れていた。


「桐原~、手伝ってくれたお礼にジュース買ってやるよ♪」

「これぐらいで礼とかいいし。てか機嫌いいな。何かあったのか?」

「それが最近桃山が来ねぇんだよ♪だから茜ちゃんといっぱい話せるんだよこれが♪」

「そういう事ね。そりゃ良かったな」

「茜ちゃんは練習の時は相変わらずだけど、休憩の時とかすげぇ笑って話してくれるんだぜ♪可愛いくて可愛いくて♡」

「…………」

「え、逆に桐原は機嫌悪いのか?あ、そりゃそっか。秋山先に帰っちゃったもんな」

「別に機嫌悪くねぇよ。ただ好きな奴が手に入ったら入ったで満足出来ねぇのがモヤってるだけだ」

「どして満足出来ねぇの?他にも好きな奴いるとか?」

「俺はいねぇ。貴哉だけだ」

「ああ、俺はね~」


 犬飼は話を察したのか、納得したように頷いていた。
 貴哉の事が欲しくて堪らなくて、やっと手に入れたけど、貴哉の心の中には変わらず元彼の早川がいる。その事は知ってたし、分かっているつもりだけど、やっぱり居心地は悪い。
 一度は厳しくしていたけど、それじゃ貴哉が早川のとこに戻っちまうんじゃないかって今は自由にさせてるけど、それは俺がしたい付き合い方じゃない。
 俺は好きな奴には俺だけを見て欲しいし、もちろん俺もそいつの事だけを見るつもりだ。誰がどう見ても仲の良いカップル。羨ましがられたり、茶化されもしながら貴哉と笑っていられたらって色々想像していたけど、実際手に入れてみたらこの有様だ。
 形上は恋人だけど、これじゃ前の関係と変わらない気がしてならない。

 こんな事なら付き合う前の方が、貴哉を夢中で追い掛けていた頃の方が楽しかったとか思うようになって来ていた。


「でも秋山と桐原には勇気もらったぜ♪胸張れよ~!」

「いつ勇気なんかあげたよ?」

「だって、秋山は他の奴と付き合ってたのに、別れて桐原と付き合ってるんだろ?それって茜ちゃんにもあり得るって事じゃん♪俺も桐原みたいに頑張ってアピールしてればいつかは俺を選んでくれるかなぁなんてさ♪」

「それは俺だから出来たんだ。他の奴がやったらただの邪魔者だろ」

「あー!俺の事言ってんのかぁ!?桐原は桃山派じゃなくて俺派だろぉ!?」

「どっち派でもねぇよ。それは二之宮が決める事だろ」


 そう。俺と早川を選ぶのも貴哉が決める事。
 俺がそうしろああしろって言ってもそれは貴哉の気持ちじゃない。だからと言って貴哉が選んでとは言いたくない。俺じゃない方を選ぶ気がして怖いからだ。
 こんな自分は初めてで、自分が気持ち悪いな。


「そうなんだよな~!茜ちゃん俺を選んでくれねぇかなぁ」

「まぁ頑張れよ。桃山に殺されない程度にな」

「それな!あいつ危な過ぎるんだって!いつも本気で殺しに来やがる!……ん?あれって秋山じゃね?」

「え?」


 犬飼は廊下の窓の外を見て言った。裏校舎の三階。あれはボラ部部室だ。


「あ!貴哉じゃん!なんだ、部室に行ったのか」


 窓越しだから何をしているのかは分からないけど、確かに貴哉はボラ部部室にいた。そっか、ボラ部に行ってたのか。
 俺は先に帰ったんじゃないって分かってホッとしていた。


「良かったじゃん♪板はそこに置いてっていいから早く行ってやれよ」

「おう!じゃあな犬飼」

「手伝ってくれてサンキューなぁ」


 廊下の壁に持っていた数枚の板を立て掛けて俺は急いでボラ部部室へ向かった。
 
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