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2章 文化祭までのいろいろ
用事って何?お前怪し過ぎるぞ
しおりを挟む空と自転車置き場まで来てやっと腕を離すと、俺が握ってた所を気まずそうに撫でてた。
「おい、それもっかい見せろよ」
「やだっ」
「やっぱりブレスを外し忘れたとか嘘じゃねぇか」
「……本当だもん」
「だったら見せられるだろ!俺に言えない事なのか?」
「…………」
「空」
「言ったら貴哉怒るし」
「隠されて既にイライラしてっけど?」
「それに、言ったら俺の事嫌いになる」
「ならねぇだろ。それどんな理由で痣作ったんだよ。俺が嫌いになるとか逆に気になるわ」
「……ちょっと兄貴と喧嘩したんだよ。それで、その時に掴まれて跡付いちゃったんだ。それだけ!」
「雪兄と喧嘩ぁ?何で喧嘩なんかしたんだよ?」
理由を聞いて驚いた。確かに雪兄って説教臭ぇとこあるからしてもおかしくはねぇけど、雪兄は暴力振るう男には見えなかったけどな。あんなに大事にしてる弟にそんな跡を付けるような事すっかなぁ?
「テストで酷い点取ったからだよっもういいだろ?俺用事思い出したから先に帰る!」
「あ!待て逃げるな!」
自分の自転車を転がしながらさっさと帰ろうとする空の腕を掴んで止める。空は困ったように見て来た。
「何だよぉ?」
「用事って何?お前怪し過ぎるぞ」
「……それ、貴哉に言う必要ある?」
「ある!」
「なっ!何で言い切れるんだよ!貴哉は桐原さんと付き合ってんじゃん!」
「テメェそれを今出すんじゃねぇ!ズリィぞ!」
「ズルいのはどっちだよっ!そう言う時ばっか彼氏面して!」
彼氏面……空に言われてふと考える。
え、俺って空からそんな風に思われてたのか?
確かに空とはもう別れてるから、彼氏じゃない。ただ友達として心配してるつもりなのに。
俺はこのまま空の腕を離して一人で帰すべきなのか?
「とりあえず離せよ……上見てみ」
「あ?上?」
気まずそうに空が言って上を見上げる。
この駐輪場は校舎の裏側にあって、裏校舎側の廊下の窓が見えるんだけど、その三階から窓を開けてこちらを覗く三人が見えた。
げ!伊織と怜ちんとなっちじゃねぇか!
あそこはボラ部部室を出た廊下か。伊織にバッチリ見つかってんじゃねぇか!
俺が三人に気付くと、伊織が上から声を掛けて来た。
「貴哉ー、喧嘩してんのー?」
「してねぇよ!大丈夫だから!」
「秋山~!早川をいじめんな~」
「てか空くん行っちゃったよ~」
「んあ!?ああ!空テメェ何勝手に!」
三人に気を取られてつい空の腕を離した隙にさっさとチャラ男号に乗って帰って行く空。
あいつ!調子乗りやがって!
「伊織!帰ったら連絡する!じゃあな!」
「おう。ほどほどに頑張れ~」
珍しく俺を素直に見送る伊織。空があんな感じだったから気を使ってくれてるのかもしれないな。
俺は走って自転車に追い付こうとしたけど、もう少しってとこで空が加速して離されて、そしてまた追い付きそうになって、加速されてって……あいつ!俺で遊んでねぇか!?
「おい!チャラ男!いい加減止まりやがれ!」
「…………」
学校を出て結構進んだ所でやっと空が止まって自転車を降りた。もう限界だ……身も心も……体育でもこんなに全力で走らねぇのに、俺を殺す気か!
よろよろと今度こそ空に追い付く。力無く空の腕を掴むと、空はクスクスと笑っていた。
「あ?笑ってんのか?」
「あは♪だって、貴哉が追い掛けてくれるから嬉しくて」
やっと笑ったか。空のいつもの笑顔を見れて俺の心は少し落ち着く事が出来た。演劇部で茜にスパルタ指導されたのと、全力疾走したので身はボロボロだけどな!
「貴哉って足速いよな。久しぶりに走ってるとこ見たわ」
「俺はやらないだけで、やれば出来るんだっ」
「面倒くさがりだもんな」
「そうだよ!その面倒くさがりがこんなに必死で追い掛けて来たんだ。ちゃんと話せよな」
「分かったよ。歩きながら話そう」
最後は困ったように笑って言った。
やっと観念したか~。俺は空の隣を歩きながら息を整えて話を聞く準備をした。
「はぁ、足ダル……」
「頑張ったもんな。マッサージしてやろっか?」
「おう頼むわ~。話聞いた後にな」
「うーん。絶対怒らないで聞いてよな?」
「一応うんって言っておく」
「……実はさ、またハッテン場行っちゃったんだ。この痣はその時会った人に掴まれて出来たやつ」
ハッテン場!!男と男が出会い目的で使う場所の事だよな!?
「はぁ!?空テメェ約束破ったのか!」
「ほら怒った!」
「もうやらないって言ったじゃねぇか!」
「言ったけど、つい……」
空は悲しそうに笑って話していた。
ついじゃねぇだろ!もう危ない事はしねぇって約束したのに!また知らないおっさんと会ったってのかよ!
俺は心配よりもまた空がそういう事をしてるってのに怒りが込み上げて来た。だけど、とりあえず話を聞こうと思ってグッと堪えた。
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