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2章 文化祭までのいろいろ

それ本当に侑士だったのか?

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 俺は放課後、伊織と演劇部に来ていた。
 今日も変わらぬ騒々しさに俺は既に疲れ果てていた。
 俺は休憩をもらって一人隅っこでぐったりしていると、伊織がジュースを持ってやって来た。


「貴哉お疲れー。なぁ、侑士どうだった?」

「へ?ああ、侑士ね。別に普通だったぜ」

「だろ?多分葵くんに貴哉の事聞いてどんな奴か気になったぐらいだろ」

「てか良い奴だったぜ。おかずのハンバーグくれたし、俺のタメ口にも説教して来なかったし、友達になりたいって言われたし」

「だろだろー?侑士って良い奴なん……えっ!友達!?」

「うん。俺、侑士と友達になった」


 驚いちゃって何だよ?てか伊織が侑士の事許したんだから、今更文句言わねぇよな?


「それ本当に侑士だったのか?」

「何言ってんだ?疲れて頭おかしくなったのか?」

「いやいや、だって侑士は……」

「秋山ー、そろそろ出番だぞ」

「えっ!もう!?全然休憩出来てねぇよ!」


 伊織が何かを言い掛けた時、茜に呼ばれてまた同じセリフを何度も言わされるのかと渋々立ち上がる。


「俺行って来るわ。あ、侑士の事は帰りに聞かせて~」


 その後伊織は何かを考えてるような顔をして座っていた。
 まぁ伊織に侑士と友達になるなって言われても問題ねぇけどな。侑士は伊織の事分かってるみてぇだから、ちゃんと話せば聞いてくれそうだし。

 それよりも今はどうやってこの過酷な状況から逃げ出すかだよなー!桃山から来てくれれば楽なんだけど、茜が桃山の事を文化祭までは部活動以外では出禁にしてるから来ないだろうし。
 仕方ねぇから後で時間作ってもらうようにメッセージ入れとくか~。


「秋山、何か考え事か?今日は集中出来てないようだが」

「ん、ちょっと考え事してた。ここからはちゃんとやるよ」

「そうか。夜遅くまで起きてるから集中出来ないのかと思ったぞ」

「昨日はちゃんと寝たって。てかあの時間紘夢はいつもいるけど、あいつこそ寝てるのかよって感じ」


 と言うのもゲームの話だ。俺達は各々暇があればログインして、一緒にゲームをしている。もちろん毎日じゃねぇけど、俺がログインすると紘夢だけは必ずいるんだ。たまに反応無くなるけど、ログインはしたまま。


「確かに一条が先に寝るのを見た事がないな。って今は演技に集中しろって」

「はーい」


 さすがに今は茜も俺には厳しかった。元々クソ真面目で厳しい奴だったらしいけど、今なら何となくみんながそう言うのが分かる。そして、俺といて笑う茜を見て驚くのも。
 部活での茜は周りには勿論、自分にも厳しかった。一切の妥協を許さず、あれ?って思う事があれば納得いくまで詩音とかに相談して見てもらってた。
 あー、俺がこんなに疲れてんのってそのせいかなもなぁ。演劇部に来てからずっと茜と一緒だったし、その頃はこんなに厳しくなかったもんなぁ。いや、初めて会った時は厳しかったけど……
 そんな茜といるのが楽しくてここまでやって来れたのもあったしなぁ。早く文化祭なんか終わればいいとか思っちまうよ。

 その後俺は鬼コーチの茜の言う事を聞いてちゃんと演技をした。

 やっと部活が終わる頃には俺は床に寝転がって起き上がるのも面倒になってた。
 マジ厳し過ぎ……俺が初心者なの忘れてね?何であんなに怒るの?俺、ブチギレるの何度も我慢したよ?


「おーい?貴哉~?生きてるかー?」

「伊織~!俺もうやだー!」


 床に寝そべる俺を覗き込んで来る伊織は、それはそれは涼しい顔をしていた。てか何でみんな伊織には何も言わねーんだ!確かにこいつの演技力は凄い!けど!少しぐらい怒られても……いいんじゃねぇか?
 分かっていた。これがただの八つ当たりだって。

 伊織は優しく頭を撫でてくれた。


「よしよし。貴哉は頑張ってるよ」

「頑張っても頑張っても怒られるんだぜ?嫌にもなるだろ……」

「んー、みんな貴哉には期待してるから怒るんじゃねぇの?ほら、どうでも良い奴に怒っても無駄じゃん。まだ伸び代がある。教えてあげたい。こうすれば良くなるのに。って思うからエネルギー使って怒ってくれるんだって。特に二之宮は貴哉の事を初めて自分に付いて来てくれた後輩だから厳しくしてるんだと思うなー」


 茜のその話は知ってる。だから俺もここまで頑張って来れたんだ。
 ふとまだ詩音達と話してる茜を見る。どこまでも一生懸命で真面目な奴。
 そっか、憎くて怒ってる訳じゃねぇんだよな……


「分かった。もう少し頑張ってみる」

「おっ♪偉いぞ~」


 俺は伊織に励まされて、帰ろうと重たい体を起こして二人で食堂を出た。
 すると、自販機とかがある少し開けたスペースにあるベンチに見覚えのある男がいて、俺と伊織は足を止めた。

 ストレートな黒髪の襟足は今では肩まで伸びていて、斜めに垂らしてる前髪で右目が隠れてるのは今でも変わらない。そして何より目に付くのはいつもしているマスク。今日の色はグレーだった。
 ひょろっとした縦長の体型のその男は、怠そうな格好でベンチに座っていた。
 これは一部の人しか知らないが、この学校一のイケメン、桃山湊だった。

 
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