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2章 文化祭までのいろいろ

こういう時は何て言うのが正解なんだ!

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 空はいつもの感じに見えたけど、会話の内容的に明るく話すのもどうかと思った。
 そりゃ俺も空とは本気で付き合ってたし、本気で同棲目指してたよ。だから貯金もしてたし。
 でも、今の状況じゃ出来ねぇじゃん。


「貴哉は?俺とはもう同棲とか考えてない?」

「考えてないって言うか、無理じゃん……伊織いるし……」

「桐原さんがいいって言えば?」

「言う訳ねぇだろっ」

「仮にだよ。俺は貴哉の気持ちを知りたいんだ」

「……したいよ。空とずっと一緒がいいもん。伊織には空と遊んだりするの分かってもらえたけど、一線引くように強く言われたんだ。だからあまり期待させるような事は言えねぇ。じゃないと、伊織を裏切る事になっちまうから」

「そっか~。うん、それがいいよ。あの人怒らせると厄介だからな。俺もあまりこういう事は言わないようにする。ごめんな?」

「ううん。俺の方こそごめん」

「でも貴哉にずっと一緒がいいって言われて嬉しかった♪こうして友達としてでも貴哉といられるなら何だっていいや」


 ニコニコ笑って生クリームのクレープを食べてる空。そんな空が愛おしくて仕方なくなった。
 好きなのに手が出せないってこういう気持ちなのか?これは空も同じ気持ちなのかな?
 凄くもどかくして、焦ったい。あー面倒くせぇってなりそうなこの気持ち。

 もし空も同じなら今俺が空の手を握っても、喜んでくれるかな?


「貴哉、クレープ食わねぇの?さすがに俺も二個は食えねぇよ?」

「食う」

「……どうした?」


 俺の様子がおかしい事に気付いたのか、心配そうに見て来た。空と目が合うと、俺は堪え切れなった。


「空っ俺っ……」

「貴哉……」


 俺は空の腕をガッと掴んで持ってたクレープを引き寄せてガブッと大口を開けて食らいついた。俺なりの最大の誤魔化しに、空は「え?」とニヤけながら驚いていた。
 そしてすぐに口いっぱいに広がる生クリームの味……吐き出したいけど、我慢して飲み込んで、俺はしばらく俯いていた。
 何やってんだ俺……


「お、おい、大丈夫か?」

「ダメ……気持ち悪い……」

「水買って来る」


 空は立ち上がって俺から離れようとした。
 俺はそれが嫌で自然と空に手を伸ばして腕を掴んで引き止めていた。


「……離れないでくれ」

「でも、飲み物で流した方が……」

「今は黙って側にいてくれっ」

「うん。分かった。背中さするな♪」


 空はまた隣に座ってぐったりしてる俺の背中を優しくさすっててくれた。
 はぁ、情けねぇな。でもちゃんと誤魔化せたよな?ああでもしなきゃヤバかったもんな。俺、空にキスしたいとか思っちまったもん。


「貴哉体調悪くなったし、落ち着いたら帰るか~」

「……でもっ」

「放課後デートならまた出来るし、プレゼントはその時に一緒に選ぼう♪」

「うん……悪いな」


 空はニッコリ笑って俺の背中をさすり続けた。
 優しい空がもどかしかった。前の空なら生クリーム食って弱ってる俺見たらゲラゲラ笑って馬鹿にしてたんじゃねぇか?むしろ今はそっちの方が助かったかも知れねぇ。
 何でそんなに優しくするんだよ。
 俺と空は言い合ってなきゃダメなのに……

 帰り道、水を飲んだら大分落ち着いたけど、心配だからと家まで送ってくれる事になった。
 正直一人になりたかった。今の空といるのは何だか辛い。


「はぁ……」

「大丈夫かぁ?」

「もう平気だって」


 自転車を持ってない方の手を俺の背中に伸ばして来たから反射的に避けちまった。空も気付いたと思うけど、特に何も言って来なかった。


「貴哉、今日はありがとうな♪楽しかった」

「そうかよ」

「さすがに明日は遠慮するかなぁ?本当は毎日デートしたいけど、桐原さんキレそうだしー?」

「そうだな」

「貴哉?」

「何だよ?」


 空が立ち止まったから、俺も止まって空を見る。
 俺を真っ直ぐに見て泣きそうな顔をしていた。


「何か俺の事避けてね?返ってくる言葉も冷てぇし……俺といるの嫌なら……」

「嫌じゃねぇよっ」

「やっぱり俺達、友達でも一緒にいない方がいいのかな」


 空の言葉に俺は何も言い返せなかった。
 多分、俺が伊織と仲良くやっていきたいなら空の言う通りなんだ。空とは距離を置くべきなんだ。
 でも、そしたら空はまた壊れちまう。俺はそれが嫌だ。空には笑っていて欲しいんだ。


「分からねぇ。そうなのかも知れねぇ」

「…………」

「でも出来ねぇんだ。空を側に置いておきたいのは俺なんだ。ごめん。空、迷惑かけて、ごめん……」

「何言ってるんだよ?俺が貴哉に付きまとってるだけだろ。謝るなら俺だ」

「分かるんだよっお前が俺に気を使ってるのが!お前とは言い合っていたいのにっ出来ないのが嫌なんだ!俺のせいだって分かってる!離れた方がいいのも分かってる!でもっ空と離れたくないっ!空に触れたいし、キスしたいし、抱きしめたいんだ!」

「貴哉……プハッ何だよその告白の仕方~。本当貴哉ってこういうの不器用だよな~」

「うるせぇチャラ男!だったら教えろ!こういう時は何て言うのが正解なんだ!」


 空は自転車を停めて、俺に近付いて来た。
 さっきは泣きそうな顔だったけど、俺が無茶苦茶な事言ったら笑って俺の手を握った。


「今は君の心に別の人が映っていても、いつか振り向いて貰える時を待ってるよ。ずっと側で君を支えながら待っている。だから安心して笑っていてよ。そうすれば俺も笑顔でいられるから」


 とびきり甘い笑顔で、甘い声で、甘いセリフを言った空は、自然と頬にキスをして来た。

 なっ!何だよこいつ!
 急に何かのセリフを言い出したかと思ったら、不意打ちのキスはズルいだろー!
 えっえっ!?今の何!?めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!


「そ、空っ」

「って、これが正解かは分からないけど、これが今の俺の気持ち♡キスはほっぺにだし、ギリ一線は越えてねぇよな?」


 照れたように笑う空がまたグッと来た!
 あー!連れて帰りてぇ!
 

「お前っ!そんな歯が浮くようなセリフを女達に言いまくってんのか!?」

「失礼だな!今は、てか貴哉と付き合ってた頃から言ってませんよーだ!」

「前は言ってたのかよ!このクソチャラ男が!」

「そっちこそ何だよ!そのやきもちなのかただのいちゃもんなのか分からねぇ返し!やきもちならもっと可愛いく焼けっての!」

「俺はかっこいいを目指してんだ!可愛いく焼けなくていいんだ!」

「オー、貴哉カッコイイデスヨー?」

「クソ棒読みじゃねぇか!一瞬でもお前を連れて帰りてぇと思った俺の気持ち返しやがれ!」

「え♡全然お持ち帰りOKだけどー♡」

「いらん!返品だ!クーリングオフだ!お客様センターにクレーム入れてやる!」

「あはは!そんな面倒な事貴哉はやらないだろ~」


 空が笑ったから俺も笑った。
 やっぱり空とはこうして言い合っていたい。
 楽しいし、気が楽だから。
 これが出来なくなったら多分俺と空はダメだ。

 空の心境は分からねぇけど俺はこのまま空とはやっていくつもりでいた。
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