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1章 二学期中間テスト

三人で仲良いやつ!

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 沈黙と共にパンケーキの甘い良い匂いがしていた。いつもならすぐに食い始めるけど、今はとてもそんな気分ってか空気じゃない。
 俺のカミングアウトにさすがの伊織も予想してなかったみたいで低い声を出していた。
 空は気まずそうに下を向いていた。


「空は初めは伊織がいるからって気にしてた。俺がキスしたいって言って空を誘ったんだ。空を庇ってる訳じゃない。本当の事だ。俺、もう伊織に嘘はつかない」

「早川、どうなんだ?」

「……確かに貴哉からキスしたいって言われました。でも俺もしたかったから家に連れて帰りました」

「ふーん……」

「ごめん。俺、やっぱり空の事が好きなんだ」

「それは知ってた。俺の事は?もう好きじゃねぇの?」

「ううん。好き」

「ならいい。もう無かった事にする」

「えっ」

「でもここまでだ。これからはちゃんと怒るぞ。てかそこら辺の話をしようと思ってたんだ。今貴哉と付き合ってるのは俺だ。もう分かってると思うけど、俺は誰だろうと貴哉に手を出すのを許さない。貴哉はそれ嫌か?」

「……嫌じゃない。俺も伊織が七海と演技でもいちゃついてんの嫌だった。それと同じだろ?」

「ああ。俺は貴哉が嫌だと思う事はやらない。だから貴哉が言うならドラゴン役も降りる気だ」

「だからそれはダメだって!」

「分かってる。俺が言いたいのは貴哉も俺と同じようにして欲しいんだ。俺が嫌だと思う事はやらない。出来ないか?」

「それって……」


 空との事を言ってるんだよな?
 今伊織に出来ると言ったらもう空と一緒にはいられないって事か。結局どちらかを選ばなくちゃいけないのか。


「もし出来るなら、早川と会うのは許すよ。貴哉が元彼と会うのは嫌だけど、友達としてなら仲良くしてもいい。俺が妥協出来るのはここまでだな~」

「桐原さん、俺は貴哉の事が好きです。取り戻すつもりでいますけど、それでもいいんですか?」

「いいんじゃね?俺は早川の彼氏じゃねぇし、好きにしろよ。やれるもんならやってみろって感じ」


 いつもの自信たっぷりな笑顔で伊織は言った。
 空と友達としてならか……今は分かったとは言えねぇな。


「なぁ、俺が空を好きなのは?それも伊織が嫌だと思ったらダメなんだろ?」

「正直お前らが両想いなのはずっと前から知ってんだよ。そもそも嫌いで別れてねぇだろお前ら。そこは俺の努力が足りない部分もあるから目を瞑る。貴哉が俺のとこに来てくれただけでも十分だと思うようにしてるんだ」

「じゃあ、空の事好きなのはいいって事か?」

「本当は嫌だけどな!想うだけならいいよ。でも友達以上の事をするのはダメだ。手を繋ぐのも必要以上にくっ付くのもダメな?」

「空ぁ、俺どうしたらいい?」

「えっ今ここでそれ聞く?」

「だって、お前も無関係じゃねぇじゃん。俺、空の事も伊織の事も好きなんだもん。二人の意見聞きたい!」

「とりあえずお前はパンケーキ食えよ。食いたかったんだろ?」

「食うけどよ~」


 すっかり冷めたパンケーキにフォークを刺して一口サイズにして、パクッと口に入れる。
 美味い♪けど、そんな俺を見る二人の視線で、一気にモソモソしただけの食い物になった。


「はは!貴哉は本当に分かりやすいよな~」

「ほんと、可愛いよ」

「あ?今可愛いつった?」

「思った事言っただけですよ」

「なぁ!俺こういうのがいい!」

「あ?どんなのよ?」

「貴哉、口の中片付けてから喋れよ」


 急いで口の中のパンケーキをアイスティーで流し込んで、俺は二人に言う。


「三人で仲良いやつ!」

「はぁ?」

「仲良いやつ?」


 いや、ちょっと違ったか!
 でも、さっきの二人のやり取り見てて思ったんだ。歪み合ってる感じだけど、ちゃんと言いたい事言い合えてるし、裏でコソコソとかじゃなくてこうやって三人で会って話せば嘘じゃなくなるし、仲良くは出来なくても話せばすぐに解決する事も出来るんじゃねぇか?


「あー、仲良く出来たら最高だけど、こうして三人で言い合えるのっていいなぁって!」

「まぁ俺は裏で何かやられるより面と向かって言ってくれた方がいいけど」

「俺は嫌だね。何で貴哉と桐原さんのカップルといなきゃならないんだよ。この人絶対見せつけてくるに決まってんじゃん。おまけに俺が貴哉に手を出すのはダメなんだろ?俺いる意味ねぇじゃん」


 確かに、空からしたら拷問だろうな。
 でも俺は空の事も好きだから一緒にいたいんだ。


「安心しろ空!伊織とは空の前ではイチャつかないって約束したからな!」

「そんなの無効だろ。お前らやっちゃダメな事したんだからよー」

「いーや!有効だね!てかお前文化祭までは俺のパシリだったよな?忘れたのか?」

「うわっ懐かし!てか良く覚えてたなそれ!」

「訳分かんないけど、俺は貴哉といちゃついちゃダメなんだろ?それなら同じ事じゃん」

「空~!」

「貴哉、ごめん。俺は二人とは一緒に過ごしたくない」

「な、なぁ伊織ぃ?空ともちょっとならいいよな?」

「ダメに決まってんだろ」

「ケチ!パシリの癖に!んな事言うなら隠れてやるからな!」

「あ!?何堂々と浮気宣言してんだ!」

「はぁ、貴哉とりあえず落ち着こ?気持ちは分かるけど、桐原さんが折れない限りこの話は終わらないよ」

「伊織ぃ!今すぐに折れろ!年上だろ!」

「訳わかんねぇよ!てか何キレてんだ!」


 空に言われて俺は何とか伊織に頼み込むけど、何故か今度は俺と伊織の言い合いになっちまった。

 でもやっぱりこうやって言いたい事言えた方がスッキリするなぁ。二人はどうだか分からないけど、俺はこっちの方が好きだ。

 
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