上 下
49 / 189
1章 二学期中間テスト

※ ほら~!俺じゃないんじゃん!

しおりを挟む

 ※空side

 俺は自転車の後ろに貴哉を乗せてとあるショッピングモールに向かっていた。二階建ての綺麗なモールは、中学の頃に良く友達と溜まってた所でもある。
 何故そこに向かっているのか、それは桐原さんと話し合う為だ。

 今俺の後ろにいる貴哉はギュッと俺の上着を握っていた。そんな可愛い貴哉と今付き合ってる桐原さんは、電話越しだけどめちゃくちゃ怒ってるのが分かった。
 一応貴哉に被害が無いように嘘ついたつもりだけど、あの桐原さんにどこまで通じるかは分からない。俺と桐原さんが話してる時に隣にいた貴哉には、桐原さんに本当の事を言うと何度も言われたけど、俺は止めた。
 桐原さんに怒られるのは俺一人でいい。貴哉は今まで通り桐原さんと一緒にいればいい。
 きっと桐原さんは貴哉を手離さないだろう。それなら、もう貴哉が戻って来ないなら、貴哉が幸せなまま側にいたい。傷付くのは俺だけでいいんだ。


「空!やっぱり俺言うからな!」

「貴哉は余計な事言わなくていいよ。俺が何とかするから」

「でも、俺も空としたかったんだぞ!てか俺から誘ったんじゃん!」

「うん♡とても嬉しかった♡だからまたしよ♡その為には桐原さんを何とかしなくちゃだから」

「だから本当の事話した方がいいって!」

「本当の事を話してどうなるの?貴哉はまたどちらかを選ばなくちゃならなくなるよ?そしたらどっちを選ぶの?」

「それは……」

「ほら~!俺じゃないんじゃん!それならせめて今のまま側にいさせてよ~。俺の好きにさせて?」

「でもっ空が悪者になっちゃうじゃんか!」

「今更善人になろうなんて思ってないから。貴哉が俺の事を想っててくれさえいればそれでいい。貴哉は桐原さんを選びな。そうすればあの人喜ぶから」

「空のバカ!」


 本当貴哉はとんでもない人に気に入られちゃったよ。みんなの人気者で、俺じゃ到底勝てないような大物にさ。実際桐原さんの方が貴哉を幸せに出来ると思うんだ。頼り甲斐あるし、周りからの信頼や評価も高いし、何でも好きな物買って与えてくれるしな。
 その点俺は?女好きのチャラ男だと言われて、周りからの評価も低い。金も無ければ何もない。情けないけど、あんな人と比べたら貴哉を幸せになんて出来ねぇよ。

 貴哉は情に厚い所があるからな、俺と桐原さんをどちらかを選ぶのは出来ないってのは分かる。今の桐原さんと付き合うって選択は貴哉なりの最大限の行動だと思うんだ。
 その点俺はほら元々淡白な性格だからさ、うん、少なくとも貴哉よりはそうだから、今の立ち位置でもいいかなって思えるんだ。

 貴哉との関係がどんな形であれ、少しでも側にいられるなら今のままでいいんだ。その上で貴哉を守る。貴哉にだけは火の粉が落ちないように。
 俺は桐原さんに殴られる覚悟で自転車を漕いでいた。
 

「チャラ男はチャラ男らしくしてるから♪もし桐原さんと別れられたら俺んとこ来いよ♡それまではちょー仲の良い友達でいよう♡」

「……友達とはあんな事しねぇだろ」

「じゃあ俺と貴哉だけ特別な友達って事でいーじゃん♡」

「はぁ、分かったよ!お前に合わせてやる!でもバレそうになったら全部本当の事言うからな!お前だけが悪いんじゃねぇって!」

「りょうかーい♪」

「くそー!俺が悪いのに!何でいつもお前ばっか傷付けちまうかなっ」

「それがさ、今はそれほど傷付いてねぇんだわ。貴哉とまた愛し合えたし、好きな人が俺以外を見てるのって辛いけど、たまに相手してもらえる喜びもあるんだよな」


 自分が何と重ねて言ってるのか、きっと母さんと貴哉を重ねてしまってるんだろう。
 俺の他に違う人が映っていて振り向いてもらえなくても、心のどこかで期待してしまう。好きだから。とても大切な人だから。
 でもさ、俺の事本当にどうでも良かったら母さんも家には帰って来なかったと思うんだ。そんなの俺の勝手な解釈かもしれないけど、貴哉も同じで、俺の事を本当に想ってくれてるからこうして離れずにいてくれてるんだって思う。

 だから、俺は欲はかかずにその小さな喜びを大切にしようと思う。
 もっと欲しいけど、一気に貰ったらそれで終わりって事にならないように、小分けにして少しずつ貰おう。
 それに満足出来なくなるのは俺自身がもう少し大人になってからにしよう。

 頑固な貴哉を説得して、俺は急いで桐原さんとの待ち合わせ場所まで向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ

pino
BL
恋愛経験0の秋山貴哉は、口悪し頭悪しのヤンキーだ。でも幸いにも顔は良く、天然な性格がウケて無自覚に人を魅了していた。そんな普通の男子校に通う貴哉は朝起きるのが苦手でいつも寝坊をして遅刻をしていた。 夏休みを目の前にしたある日、担任から「今学期、あと1日でも遅刻、欠席したら出席日数不足で強制退学だ」と宣告される。 それはまずいと貴哉は周りの協力を得ながら何とか退学を免れようと奮闘するが、友達だと思っていた相手に好きだと告白されて……? その他にも面倒な事が貴哉を待っている! ドタバタ青春ラブコメディ。 チャラ男×ヤンキーorヤンキー×チャラ男 表紙は主人公の秋山貴哉です。 BLです。 貴哉視点でのお話です。 ※印は貴哉以外の視点になります。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

夏休みは催眠で過ごそうね♡

霧乃ふー  短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。 実は、俺は催眠を使うことが出来る。 催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。 いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。 部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

処理中です...