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1章 二学期中間テスト

俺、あの階段登るの怖ぇんだけど

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 初めて空の実家に来た。
 空からは聞いてたけど、ここ人住んでんの?ってぐらいボロボロのアパートで、二階建てだけど、階段とか細くって今にも崩れそうだ!いつもお洒落して身なりを気にする空が住んでいた事が信じられなかった。
 俺がアパートの外観に呆気に取られてるのを見て空はため息をついて言った。


「だから言っただろ?ここに中学まで住んでたんだ」

「いや、想像以上でビックリしたわ」

「もー、誰かを連れて来たの貴哉が初めてなんだからな~」

「まじ?それ嬉しいじゃん♪なぁどの部屋?俺、あの階段登るの怖ぇんだけど」

「安心して。一階だから」


 自転車をその辺に停めて歩いて行く空に付いて行く。壊れそうな階段を登らなくて済んでホッとしたわ。
 空はすぐ手前の部屋のドアを鍵を使わずに開けた。表札のとこに名前は無かった。ここが空の実家かぁ。

 中に入ると、すぐにキッチンがあって、左側にはドアが開いたままの風呂場があって、トイレも一緒に見えた。そしてガラス張りのドアの向こうに部屋が見えて、小さなテーブルと、その横に布団が敷かれていた。


「母さん寝てるみたい」

「えっ!母ちゃんいんの!?」


 入った時に人の気配が無かったから留守かと思ってたら、どうやら寝てるらしい。て事は布団かと思って見てみると、確かに布団は膨らんでいて、茶髪の長い髪の頭が見えた。
 え、俺入って良かったのか?てか部屋ってここだけ?


「夜仕事だから昼間はこうして寝てるんだ。そんで夜中に男連れ込んでる」


 そう言って空は床に落ちてたティッシュと使用済みのゴムを拾ってキッチンにあったゴミ袋に捨てていた。
 

「どうする?起こす?」

「いや、悪いからいいよ」

「そっか。んじゃ帰る?」

「うん」


 さすがに仕事で疲れて寝てる奴を起こすとか子供みてぇな事は出来ねぇ。てか空の物なんかどこにあるんだ?お世辞にも広いとは言えない部屋はここだけみたいだし、空は本当にここに住んでたのか?

 俺達は空の母ちゃんを起こさないようにそっとアパートを出た。


「なぁ、鍵掛けなくていいのか?母ちゃん寝てるじゃん」

「鍵は母さんしか持ってないし、いつも掛けてないから」

「危なくね!?今空達出てっちゃってるから母ちゃん一人なんだよな!?」

「大丈夫でしょ。誰もこんなとこに女が一人で住んでるとは思わないだろ」


 なんつーか、俺には理解出来ねぇような事ばかりで驚きっぱなしだった。
 でもこれが空にとっての普通なんだよな。
 結局空の母ちゃんには会えなかったけど、俺は何となく空に申し訳なくなった。


「空、無理矢理行きたいとか言ってごめんな。ここまでだとは思わなかった」

「はは、貴哉が謝るとか相当だな。ほんと、倉持に予定があって良かったと思ってるよ」

「空……」

「ん。気にすんなよ。貴哉だから連れて来たんだ。母さんにもいつかは会わせるから」


 自転車の前で俺は俯いて空のカーディガンの裾をギュッと握った。すると、空はその手を取ってギュッと握ってくれた。
 自然と手を繋いで歩く俺達。
 俺の知らない空をまた知れて嬉しい筈なのに、今は何だか悲しかった。とにかく空を一人にしたくなかった。俺も一人にはなりたくなかった。


「貴哉、俺の事嫌いになった?」

「えっ!いきなり何で!?」

「あんなとこに住んでたからだよ」

「なる訳ねぇだろ!」

「なら良かった」

「なぁ、空」

「ん?」

「キスしたい」

「……は?」

「空としたいんだ。ダメか?」

「いやいや、ダメなのは貴哉だろ?桐原さんいるじゃんっ」

「キスしてくれねぇなら今すぐこの手離せ」


 繋いだ手を見ながら言うと、空は焦ったように笑っていた。俺は笑わずに真っ直ぐ空を見た。


「本当無茶苦茶だよ貴哉は……」


 空は辛そうな顔をして手を握ったまま俺にキスをした。俺も待っていたかのように目を閉じる。
 フワッと空の匂いがして、俺は更に空を求めたくなった。
 キスだけでもアウトなのに、これ以上したらまた空を傷付けちまうのに、俺は空が欲しくてたまらなかった。

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