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1章 二学期中間テスト

空が思ってた以上にすげぇ男なんだもん

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 俺の部屋の中、俺はベッドに座り、空は椅子に座っていた。母ちゃんは空を連れて来た俺に対して「なんだ空と会ってたのか」とだけ言って機嫌良くなった。母ちゃんは空の事好きだからな。伊織の事も好きだけど、毎朝俺を迎えに来て学校へ連れてってくれてた空に感謝でもしてるんだろうな。
 明日もテストあるし、時間も時間だから早めに空を帰さなきゃいけねぇから、とりあえず話しを進めよう。


「空、俺の気持ちは変わらねぇよ。空が今やってる危ねぇ事、辞めて欲しいと思ってる。お前はどう思ってんの?」

「……本当はやりたくない」

「じゃあ辞めろって。何でやったんだよ?」

「何もする事が無かったし、どうでも良くなったからだよ。金は持ってても損はねぇだろ?またいつ必要になるか分からねぇし」

「また?お前、金に困ってたっけ?俺より買いたい物買ってるよな?」


 空は見た目だけはいつもキチンとしてるんだ。シャンプーとかもそこらじゃ売ってない良い奴を使ってるし、服とかもいつも良いやつ着てる。もしかして、俺と付き合ってる時に約束した同棲資金の事を言ってる訳じゃねぇよな?
 俺が気になって聞くと、言いにくそうに話始めた。


「これは貴哉には話さなかったけど、てか話したくなかったんだ。俺の家の話」

「あー、お前話したがらねぇもんな」

「俺んち母子家庭ってのは知ってるだろ?父さんは俺が小さい頃に離婚して出てったんだ。そっからは母さんと兄貴と三人だったんだけど、俺の母さんってあまり俺達に感心無かったんだ。ほぼ放っとかれてて俺は四歳年上の兄貴がいたからここまでやって来れたんだけど、兄貴は母さんの事をすげぇ嫌ってんだ。それがずっと嫌だったみたいで俺が小6の時に家から出てった。母さんと二人になった俺はほぼ一人だった。兄貴が母さんには内緒で陰で世話してくれてたけど、家に帰っても誰もいねぇし、酷い時は母さんが連れて来た客がいたりもした。そういう時は帰らないでどっかで時間潰してた。中学に上がってからは俺も好きにやるようになったんだけど、その頃からかな?女の子といっぱい関わるようになったのは」


 空のする話を俺は黙って大人しく聞いていた。
 空の兄貴には会った事があるし、家庭の事情が普通じゃなあいのは少しは分かっていたつもりだけど、予想以上の内容だったから心が締め付けられる思いだった。


「俺が笑顔で話すと笑顔で相手してくれて、男といるより楽しかったし、嬉しかったんだ。あ、俺女好きだったんだって思ってたけど、今思うと母親から貰えなかった愛情を求めてたんだと思うんだ。実際、一人の女の子に執着する事は無かったから、女の子だったら誰でも良かったんだ。俺の事を見ていてくれて、笑顔でいてくれれば。でも本当は母さんに見ていて欲しくて、笑って欲しかった。俺が勉強出来るようになったのも母さんがきっかけなんだよ。小さいながらに俺がテストで100点取れば俺を見てくれるかもとか思って勉強頑張ってたんだ。運動も、見た目も、母さんに褒めて貰いたくて全部頑張った。けど、母さんが見てるのはいつも父さん以外の他の男ばっかでさ、中学上がってからはさすがに諦めたわ」


 最後は「はは」と軽く笑っていたけど、俺は居た堪れずにベッドから立ち上がり空を抱きしめていた。
 空がそんな風に思って生きて来ていたなんて、俺も知らなかったし、誰も知らないだろう。
 いつもヘラヘラしててチャラいと言われ続けて来たのに、誰よりも努力して、前向きにやって来ていたなんて。
 何でも面倒くさがる自分がこの時ばかりは恥ずかしかったぜ……

 俺は空の話を聞いて自分の事のように悲しくなって、泣いてしまった。空を抱き締めながらグズグズしてると逆に空に笑われた。
 何て強い男なんだ。
 空は周りには俺とは違った部類の不真面目な奴だと思われてると思う。けど、違う。見た目じゃ分からねぇ。

 本当の空は努力家で真面目で、優しくて、寂しがり屋だ。
 
 ずっと空は愛情に飢えてるなと思った理由が今分かったな。俺が前に感じた一人にすると壊れちゃいそうってのこの事だったんかな。
 

「何で貴哉が泣くの?正直俺んちは昔からこんなんだから慣れてるし、泣く程辛くもねぇよ?母子家庭とか珍しくもねぇし、俺より酷い環境にいる奴もいるだろうし」

「だって、空が思ってた以上にすげぇ男なんだもん。自分が情けなくなるわ」

「そうでもねぇよ。俺が貴哉に何か言ってそれに対して言い返してくれるのがめちゃくちゃ嬉しかったんだ。今までいろんな女の子が相手してくれてたけど、どの子も自分の事ばっかで、俺の事なんて見てくれなかった。見てるのは俺の見た目ぐれぇでさ、だから貴哉に会えて俺は救われた」

「空ぁ!お前何でもっと早く言わねぇんだよっ!何でこうなってから……」


 それは俺と伊織が付き合ってからって意味だった。こんな話を空と付き合ってる時に聞いていたら絶対に別れなかった。そしたら空も危ない事なんてしなかったんじゃねぇのか?あのまま笑顔で過ごせてたんじゃねぇのか?
 空は俺のせいで壊れたんだ。
 

「こんな話言えねぇだろ。育児放棄で男たらしの母親とか恥でしかねぇじゃん」

「それでもお前の母ちゃんだろ!俺はお前が母ちゃんを大事にしてるの分かる!」

「っ……何で?」

「兄貴が出てったのに、一人になっても残ったのは母ちゃんの為だろ?空は優しいもんな。俺は母ちゃん大事にする奴大好きだ♪」

「貴哉ぁ……」


 とうとう空が泣いた。さっきまでは普通に話してたけど、ポロポロと涙を溢して顔をくしゃっと歪ませて。


「俺、母さんが周りの母さんとは違うって分かってるけど、それでもやっぱり、母さんは母さんなんだ……だから、母さんに金を貸してくれって言われてバイトして渡してた……俺を頼ってくれるのが嬉しかった……初めて俺を見てくれたのかなって……」

「それで"また"って言ったのか」

「うん……母さんはスナックで働いてるんだけど、全部男に使っちゃうから、いつも金に困ってんだ……兄貴には関わるなって言われてるけど、高校入ってから、内緒で渡してた……」


 あー、全部繋がるじゃん。
 空が一回学校にバレた夜のバイトってそれでやってたのか。理由を知ったら仕方ないとか思っちゃうけど、やっぱり良くねぇよな。
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