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1章 二学期中間テスト

お前って、みんなのアイドルとか言われてるけど結構危ない奴だよな

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「もー!桐原さんてばちょーかっこ良かったよぉ♪去り際にこう手を貴哉のほっぺに添えてね?……またな貴哉♡ってー!」

「お前まだ言ってんのかよ……」


 放課後、直哉は数馬相手にさっきの俺と伊織の別れのシーンを再現していた。
 確かにあれはドキドキしたけどよぉ!こうやって茶化されるとめちゃくちゃ恥ずかしいわ!

 早く伊織迎えに来ねぇかな……


「だって俺もあんなかっこいい事言われたいなぁって♡」

「っ!!」


 ただでさえ直登に触れられて涙目で真っ赤になってる数馬をチラッと見てそんなワガママを言っていた。
 あーあ、数馬泣きそうな顔してんじゃんか。


「その辺にしとけって。てかお前も伊織に負けねぇぐらい様になってんぞ。数馬を殺す気かよ」


 直登の見た目は一年の中じゃトップクラスだ。あだ名は王子。綺麗系のイケメンで、黙ってりゃ学校一のアイドル、伊織と肩を並べるぐらいのかっこ良さだ。
 ただ性格はすげぇ気が強くてワガママ。あととにかく力が強い。
 対して数馬は外見は前程じゃねぇけど、ヤンキーに変わりはない。相変わらず髪の片方の一部を青に染めていて、ピアスも量は減ったけどガッツリ付けてる。目付きも俺と同じく悪いから初めて見る奴は数馬の事怖がるだろうな。
 性格は極度の人見知りってか対人恐怖症?ってやつで、人前に出るのが苦手。大分マシにはなったけど、一学期のほとんどは教室にすら入る事が出来なかったぐらいだ。

 そんな二人は今付き合ってる。らしい。
 まぁ世話好きの直登と引っ込み思案の数馬だからお似合いだなとは思うけど、直登の奔放っぷりに、数馬が発作起こしてぶっ倒れねぇか毎回冷や冷やしてる訳よ。


「俺は言われたいのー!」

「な、直登、ごめん……俺がこんなだから……」

「ほら~!数馬気にしちゃってんじゃん!やるなら帰って家でやれよ」


 メソメソしてる数馬に助け船を出してると、廊下の方が騒がしくなって、伊織が来たんだって分かって俺は席を立った。
 相変わらず伊織のファンは多い。初めこそ好きでも何でもなかったから何でこんな奴にファンなんかいるんだって思ってたけど、今ならファンになる奴の気持ちが良く分かる。

 とにかく伊織はかっこいい。見た目だけじゃなくて、中身もだ。男が憧れるような要素をいくつも持ってやがるんだ。

 二人に挨拶して廊下を出ると、赤い髪の伊織がもうすぐそこまで来ていた。そして俺を見付けてニッコリ笑って近付いて来た。


「貴哉~♡早く会いたくて出て来ちゃったのかぁ?可愛い奴め」

「そうだよ!早く帰ろうぜ!」


 伊織が俺の隣まで来て並んで歩く。
 俺より十数センチはある身長と小さい顔にスラッと伸びた長い手足。隣を歩く俺を不憫に思う奴もいるだろうな。でももう慣れた。


「すっかり元気になったみたいで安心した♪なぁ、帰り何か食ってく?」

「んー、いや、何か買ってこ。早く帰りたい」

「了解♡」


 俺がそう言うと、伊織は嬉しそうに笑った。
 俺の早く帰りたいを察したんだろう。そう、俺は早く帰って勉強じゃなくて、伊織といちゃ付きてぇんだ!これは昼に起きてからずっとしたかった事!

 学校を出て二人で歩いていると必ず周りから見られる。相変わらず嫌だけど、前とは少し違う嫌になった気がする。
 前はただ目立つ事に腹を立ててた。みんなは俺じゃなくて伊織を見てるのに、一緒にいる俺まで目立っちまうからな。
 でも今はもっと違う、俺の伊織なのにって思う。これはあれか、伊織が良く俺に抱く感情。やきもちってやつか?


「貴哉~♪ムスッとしてっけど、どうしたんだよ~?」


 伊織にいつもの笑顔のまま聞かれてハッとした。俺、そんな顔してたのか?うーん、正直に言うべきか?でも、これ言ったらまた見てる女子高生とかに変な事言い出さねぇかな?
 俺は恐る恐る言ってみる事にした。


「あのさ、すげぇ言いにくいんだけどよ」

「ん?何だよ?」

「お前ってモテるじゃん?」

「うん。まぁモテるけど」

「それが嫌でムスッとしちまったんだけど、どうしたらいい?」


 俺が苦笑いで聞くと、伊織は一瞬真顔で固まってから、ニヤ~ッとさも嬉しそうに笑った。


「それ!めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」

「そ、そうか。嫌じゃないなら良かった」

「嫌な訳あるかよ♪俺もっと貴哉に束縛とかされてぇんだ♡貴哉が言うなら誰とも話さないけど?」

「んな事するな!お前は今のままでいい!」

「貴哉が言うならそうする♡」


 すこぶる機嫌が良くなった伊織は、その後もずっとニコニコ笑っていた。
 俺に束縛をされたいだと?そもそも束縛ってなんだよ。意味は何となく分かるけどよ、自由じゃなくなるんだろ?それのどこが良いんだよ。
 

「お前って、みんなのアイドルとか言われてるけど結構危ない奴だよな」

「そうか?好きな奴の言う事なら何でも聞けるだろ。何でもしてやりてぇし」

「ああ、何でも出来るもんなお前。俺も出来る事ならしてやりてぇとは思うけど、何でも出来る自信はねぇな」

「貴哉はそれでいいんじゃね?俺の事だけ見ててくれればそれでいい♪」

「……それなら出来る、かなぁ?」


 ふと空の事を思い出しちまった。
 慌てて首を横に振って忘れようとする。伊織は俺の不安そうな答え方に、思ってる事が分かったのか眉毛を下げて笑って手を繋いで来た。


「ゆっくりでいいから。俺も貴哉が俺だけを見ていられるように頑張るし、な?」

「おう……」


 こんな人目に付くところで手を繋ぐのなんて恥ずかしかったけど、俺はその手を離しちゃダメな気がしてそのまま歩いた。

 伊織はすげぇ大胆で、行動力がある。それでいて優しくて頼り甲斐もある。見た目だけじゃない魅力がある。だからみんなに好かれるんだろうな。
 だから俺も好きになったんだ。

 何度も惹かれ合っては離れてを繰り返して来たけど、こうしてくっ付いた今、改めて凄い奴だなと実感した。

 桐原伊織と言う男を。



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