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1章 二学期中間テスト
玉山ぁ!あいつ良い奴過ぎるだろぉ!
しおりを挟む目が覚めると、ベッドの横に伊織と保健室のおばちゃんがニコニコ笑顔で並んで座っていた。
え、何で二人ともここにいんの?
ハッ!俺、朝学校来てそれから熱測ろうとして玉山と保健室来たんだった!
俺は慌てて体を起こして二人を交互に見た。
「貴哉~♡ぐっすり寝てたな~♡」
「可愛い寝顔だったわよ♪オホホ~」
「何だよお前らっ!人の寝顔をニヤニヤ笑って見やがって悪趣味だな!」
「そろそろ起こそうかって話してたんですよね?」
「そうよ~。もうお昼だしね」
「昼!?俺そんなに寝てたのか!?」
保健室にある時計を見ると、確かに昼休みの時間だった。え、普通もっと早く起こすんじゃね?てか玉山はどうした?
「貴哉腹減っただろ?貴哉の好きなおかかのオニギリ買っておいたから食おうぜ」
「その前に体温測りましょう。顔色も良いから大丈夫だとは思うけど、玉山先生も心配なさっていたし」
「玉ちゃん何て言ってたんだ?」
「秋山くんは進級する為に苦手な勉強や朝とかを頑張ってるって言ってたわよ。見たところ今回体調が悪くなっちゃったのも疲れが一気に来たんでしょう。本当なら家に帰してあげたいけど、出席日数の関係で出来ないそうね?だからせめてここで休ませてあげて下さいって頼まれちゃった」
「玉山ぁ!あいつ良い奴過ぎるだろぉ!ん?いや、そもそもあいつが厳しかったから俺が頑張る羽目に?」
「もう少しで玉山先生もいらっしゃると思うわ。だから私もそろそろランチしてくるけど……熱は無いみたいね♪」
保健室のおばちゃんは俺の脇に挟んだ体温計が鳴ったのを回収して、表示された温度を見てニコッと笑って言った。仮病だったの、バレたっぽいけど何か上手い事収まったみてぇだな?
とりあえず午前中寝てたのは許されたって事か?
「先生ゆっくりランチして来て下さい♪玉山先生が来るまで俺が付いてるんで♪」
「桐原くんなら頼もしいわ~♪あ、ベッドでご飯は食べちゃダメよ~?それじゃ行って来ます」
おばちゃんはヒラヒラと手を振って保健室から出て行った。
残された俺は伊織と二人きり。俺も寝たから大分怠さは無くなって、自然とベッドから出ようと足を床にある上履きに付けると、伊織が俺の手首を掴んでそのまま近寄って来て優しく一瞬触れるだけのキスをした。
なっ!誰か来たらどーすんだ!
「伊織っ!?」
「元気になったみたいで安心した♡休み時間の度に来ても寝たままなんだもん貴哉」
「え、ずっと来てくれてたのか?」
「毎時間見に行くって言ったじゃん♪オニギリ食えるか?」
「……食う」
いつもの笑顔で話してくれる伊織に俺は心からホッとしていた。
朝よりは大分マシになったけど、目元はまだ重い。まぁ今日一日は仕方ねぇか。
俺は伊織に支えられながら保健室にあったテーブルで買って来てくれたオニギリを食う事になった。伊織は相変わらずカロリーメイトだけ。四角いテーブルに、俺の右横に伊織は座った。
「ここ今貸切だし二人きりとか穴場じゃね?」
「なぁ伊織、朝はごめんな」
「いいって。貴哉は気にすんなよ。それよりもちゃんと食ってもっと元気になれよ」
伊織は本当にいつも通りだった。絶対に理由を聞かれると思ったのに、一切触れる事なく、自分の話をたくさんしてくれた。
そんな伊織を見て俺の中の罪悪感は膨らんで、やっぱり伊織には話した方がいいんじゃないかと思えて来た。
そんな俺を察したのか、伊織は俺の頭を撫でて言った。
「貴哉、落ち着いてからでいいから。何があったのか無理には聞かない。貴哉が話せるようになったらちゃんと聞くから。今はお前が無事だった、それだけで俺は十分だ」
「伊織……」
「俺も大人の階段を貴哉よりも先に登ってたつもりだったけど、案外貴哉より少し上ぐらいまでしか登れてなかったみてぇよ?だからさ、一緒に少しずつ登って行こうぜ♪仲良くさ♪」
ああ、伊織がいてくれて良かった。
伊織じゃなきゃダメだった。
俺は明るく笑う伊織の手を握って、ニコって笑うと、伊織はとても嬉しそうに笑った。
伊織にはちゃんと話そう。きっと分かってくれるから。正直まだ俺の中で整理出来てねぇけど、いつまでもこんなんじゃいつか本当に体壊しちまうかもしれねぇからな。
そうだな、階段登るかぁ……
オニギリを食い終わる頃、保健室に担任の玉山が入って来た。日を追うごとにいい奴さに磨きをかけてくる中年おっさんの玉山!俺は顔を見るなり嬉しくなって、いつものノリで声かけちまった。
「玉ちゃーん!聞いたぜ!俺を起こさずにいてくれたんだろ!?もー!俺の事どんだけ好きなんだよー!」
「んな!お前めちゃくちゃ元気じゃないか!まぁ秋山が風邪なんておかしいと思ったんだ。まぁ本当に風邪だったらそれはそれで大変だしな。それと、午前中の授業を見て下さった先生方には俺から伝えておいたから後で会ったらお前からも一言言っておけ?」
「ほーい。玉ちゃん、迷惑かけてごめんなさい。自己管理不足?ってやつでした。テスト前だって言うのに、本当にごめんなさい」
「まぁ元気ならそれでいいよ。お前が頑張ってるのは良く分かってるから。午後は頑張れそうか?」
「おう!熱も無かったぜ♪」
「そうか。じゃあ俺は行くけど、何かあったらすぐに言えよー。桐原、後は頼んだぞ」
「はーい♪任せて下さい♪」
玉山はチラッと伊織を見てそう言い残して保健室から出て行った。
「あはは、貴哉は玉ちゃんにすげぇ懐いてるんだな」
「ああ、初めは説教ばっかしてくるし敵だと思ってたけど、案外良い奴だよ」
「めっちゃ上から!」
「なぁ、伊織、話聞いてくれるか?」
玉ちゃんと話して大分気持ちが楽になった気がするんだ。今ならちゃんと話せると思う。
伊織は変わらず優しい笑顔のまま「聞くよ」って頷いてくれた。
俺は何も隠さずに全部本当の事を言おうと思った。
空の事、楓に急遽協力してもらった事、そして神社での出来事を……
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