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1章 二学期中間テスト
それを言うなら貴哉だろ。前科あるし
しおりを挟む放課後、部活へ行こうと何も入っていない鞄を持って教室を出ようとしたら、ドアの所で赤い髪の派手な奴が現れた。伊織だ。
部活の時は迎えに来ないのに、今日はどうしたんだ?
「貴哉~♪帰ろうぜ~♡」
「はぁ?部活は?」
「今日から中間終わるまではねぇだろ」
「……えー!そうなのかー!?」
「普通じゃね?え、貴哉、マジで言ってんの?」
そんなの知らなかった!てか俺が部活入ったのって一学期の期末の後だったから知らねーよ!俺が驚いてると、伊織も驚いた顔してた。
俺達がそんなやり取りをしてると、後ろから声を掛けられた。どうやら俺達が邪魔で通れなかったらしい。そして振り向くと、空だったのにまた驚いた。
「悪い、そこ通してくんね?」
「あ、いや、こっちこそ悪ぃな。どうぞ」
「ん」
それだけ。空は耳にイヤホンを付けていて、俺達の横を何も無かったかのように通って帰って行った。
「早川どうした?何か冷たくね?」
「知らね。球技大会の後からずっとああだぞ。てか俺達も帰ろ」
伊織がそんな風に言うぐらい空の態度はおかしかった。俺を避けてる訳でもなく、親しくする訳でもない。本当にただのクラスメイトのような関係。
気にしないように伊織に言って俺達も歩き出す。
にしても一週間も部活ねぇのか。いいのやら悪いのやら。
「なぁ、何でテスト前は部活やらないんだ?」
「勉強するからに決まってんだろ。部活あったら集中出来ないじゃん。俺達学生のメインは勉強だからな」
「なるほどな~。俺テスト前でも勉強なんかしねぇから分からなかったわ」
「これからは俺が教えるから一緒にやろうぜ。せめて赤取らないようにさ」
「んー、やりたくねぇ」
「コラ。お前やれば出来るんだからやる気出せって」
「いや、勉強だけは無理だ!命が掛かってるとかじゃない限り無理」
「なぁ、この高校どうやって入ったんだよ?城山って結構難しいんだぞ」
「それみんなに聞かれるけどさ、覚えてねぇんだよ。何が何でも近い高校が良いと思って、家に引き篭もってた覚えがあるんだけどよ~」
理由ははっきり覚えてるけどな。
元々受けようと思ってた俺でも行ける光陽高校から同じく近い距離にあるこの城山高校に変えた理由。
これを話すと伊織がうるさくなりそうだから誤魔化しておいた。
「まぁ距離も高校選ぶ理由の一つだよな。でもさ、城山受かる頭してんだからやるだけやってみようぜ?俺も貴哉をちゃんと進級させてぇし」
「分かったよ。少しだけならやるよ。なぁ、テストに出そうなとこだけ教えてよ。なんとかそこだけは覚えるようにするから」
「いいぜ♪今日から少しずつやろう」
帰っても勉強とか凄ぇ面倒くさかった。学校でも勉強なんかしねぇけどな。でも伊織の言う通り、進級出来なかったら母ちゃんにボコボコにされそうだし、少しだけやってみようかなとか思うんだ。
幸い彼氏は二年でテストの順位も良いみたいだしな。
俺んちに向かって歩きながら伊織と話をしていた。そう言えば新しい生徒会長になりそうな奴って二年だから伊織なら知ってそうだよな。
「なぁ、前田侑士ってどんな奴ー?今日直登がそいつが次の生徒会長になるって聞いたんだけどよ」
「侑士?ああ、生徒会長になるとしたら侑士だろうなー。どんなって聞かれても普通?」
「普通ぅ?直登はヤバいって言ってたぞ」
「ヤバいって何だよ。一年から見たらそう見えるのかもな。でも俺は一年から知ってるからなぁ。でも葵くんみたいに行動力はあるぜ。普通に話すけど、俺は侑士の事好きだぜ」
「ふーん。伊織は誰とでも仲良いもんな~」
「今度紹介しよっか?侑士は良い奴だから」
「お前が俺に誰かを紹介とか珍しいな!俺がその侑士って奴を好きになってもいいのかー?」
これは冗談だった。だけど、伊織は冗談に捉えてくれなかったらしく、真顔になり、低い声で言った。
「そしたら侑士も貴哉も許さねぇよ」
「じょ、冗談だよ……」
「貴哉モテるからな~。侑士なら大丈夫だとは思うけど、もう誰が誰を好きになるかなんて分からねぇもんな~」
声のトーンが戻った!俺はホッとして話をすり替えようとした。
「だよな!紘夢と雉岡も意外だよな!初めは茜と桃山だって驚いたし!」
「確かにー。二之宮達はもう当たり前になってるけど、一条達は今でも不思議だわ~。てか雉岡って恋愛とか興味ないのかと思ってたし」
「そうなんだよ!目立たない癖にちゃっかりスーパー金持ちとくっ付いてやがって!」
「貴哉は金持ちが好きなのか?」
伊織はふふっと笑って言った。
あ、こいつも家が金持ちだった。
大手会社を経営している親を持つ紘夢とは違う家柄だけど、芸能界に住む両親を持つ伊織も俺達庶民からしたら羨ましい家系だ。
そんな男と俺は付き合っている。
「いや、俺は伊織が好きなんだ」
伊織とはボラ部に入る時に出会った。
学校では超有名人だった伊織の存在を知らなかった俺はボラ部部室を目指してる途中の階段でいきなり抱き締められたんだ。
あの時は変態、変人野郎としか思ってなくて相手にしてなかったのに、まさかこうして恋人同士になっちまうなんてな。
誰が誰を好きになるか分からないってのは、俺達も当てはまってるな。
「貴哉だーいすき♡俺すげぇ幸せだよ」
そう言う伊織の横顔は嬉しそうに笑っていた。
俺は伊織の笑顔が好きだった。伊織の笑顔を見ていると心が暖かくなるんだ。
伊織に「幸せ」と言われて俺も自然と笑顔になれた。
「俺もだよ。伊織、浮気すんなよ」
「しねぇし!それを言うなら貴哉だろ。前科あるし」
「バーカ。その相手はお前だったろ」
「俺は本気だったもん♡」
「それを言うなら俺だって……」
俺と空は付き合っていた。
空と付き合っている時に伊織と何度も浮気をした。前科ってのはその事だ。
そして空とは別れて今は伊織と付き合ってる。
何度も別れたり付き合ったりを繰り返して来た俺と空だけど、今回ばかりは寄りを戻す事はなさそうだ。空の奴があんなんだからな。
俺ももう空を傷付けたくないって理由で別れを選んだから、出来ればこのまま空とは離れて伊織の側にいたい。
そうすれば空を傷付けずに済むから。
「俺だって伊織の事本気だったし。ダメだって分かってたけど、手放せなかったぐらいにな」
「うん♡知ってる♡」
伊織は嬉しそうに笑って体をくっ付けて来た。
こいつの愛情表現はとても分かりやすい。こうやって人前で堂々とイチャついてくるし、俺にちょっかい出そうとしてる奴いたら隠さずにキレるし。
初めは面倒くせぇとか思ってたけど、今ではそんなとこも好きだったりする。
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