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4章 空のバースデーパーティー

少しでもいいから側にいてくれ

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 紘夢んちで細かい作業をして、夕飯食った後、空と帰っていた。
 二人乗りはせずに自転車は転がして歩いた。


「明日すげぇ事になりそうだな」

「うん。もう自分の誕生日とかじゃなくて、一条さんの趣味のパーティーだと思う事にするよ。ただ俺の写真を勝手に使われただけ……」

「まぁそう言うなって♪上手い飯食えりゃいいじゃねぇか♪ドッヂボールとかガキの頃以来で楽しみじゃん」

「俺ドッヂボールとか嫌いなんだよね。何でボールぶつけ合わなきゃいけないんだ?力の差だってあるし、運動神経無い奴が圧倒的に不利じゃん」

「そんなのどんなスポーツにも言える事だろ。弱い奴の言い訳だな」

「貴哉って何気に運動神経良いよな。足とか速いし」

「普通だ普通。あの母ちゃんに育てられたら嫌でも良くなるっつーの」

「はは、凛子さん子供相手でも容赦しなそうだもんな~」


 母ちゃんだけじゃない。父ちゃんにも水泳とか他にも教わったりした。二人共運動神経良かったから出来ないとすげぇ馬鹿にされるからそれが嫌で運動は頑張ったもんだ。


「お前もバスケ上手いじゃん。かっこよかったぜ~」

「桐原さんには負けたけどなっ」

「あ、まだ気にしてんのかぁ?」

「気にするよ。あの時は悔しかったなぁ」

「なぁ、空~。ちょっと家寄ってかね?」

「あれ、貴哉から誘ってくれるなんて珍しいな。ちょっとでいいのか?」


 何だか今はもう少し空といたい気分だった。
 俺がそう言うと、空は嬉しそうに笑った。


「ちょっとでいい。少しでもいいから側にいてくれ」

「……了解♡」


 今隣に空がいるから何とも思わないけど、もしも空がいなかったら俺は一人で何を考えてただろう?
 伊織がいない今、空までいなくなったら俺は一人になる。
 それを望んだのは俺だけど、いざいなくなると寂しいもんだな。

 なんなら泊まっていけって言いたいけど、空は制服しか持ってねぇし、一回帰りてぇだろうしな。
 俺の服貸してもいいけど、似合わなそうだし。


「貴哉、手繋ぎたい」

「えー、何で?」

「何でって!ダメなの!?今ちょー良い雰囲気だったじゃんっ」

「いいけどさ」

「やったー♡」


 俺が手を出すと、ギュッと握られた。
 空はこういう恋人同士がやる事が好きだ。
 俺は普通。嫌いじゃないけど、敢えてやらなくても良くね?って思っちゃう。

 無性にイチャイチャしたくなったり、そう言う時は別だけどな。


「あのさ、桐原さんに貴哉の事任せられてるけど、俺は今まで通りでいいんだよな?」

「その任せられたって何なの?伊織に何言われたんだよ?」

「普通に、しばらく頼むわーみたいに言われただけだよ。理由は聞いてない」

「ふーん。良いんじゃね?お前はお前のやりたいようにやりゃ。朝は迎えに来てくれよな」

「それはやるけど、俺、桐原さんに任せられたから側にいるんじゃないからな?俺が貴哉といたいんだからなっ」

「分かってるって。俺だって人に言われて嫌々いるような奴といたくねぇわ」

「あとさー、いつまでフリーでいるつもり~?早く付き合いたいんだけど!」

「さぁな。好きな奴が出来るまでじゃん?」

「何それ!?俺は!?」

「空は空じゃん」

「いやいや、俺の事好きなんじゃないのかよ!?」

「好きだよ」

「そう……か……♡」


 俺がめちゃくちゃな事を言ってるのは分かってる。空が言いたい事も分かる。
 俺は空の事は好きだ。その好きは友達としてもあるけど、一人の男として好きだ。キスしたいと思うし、抱き合いたいと思うし、愛おしく思う好き。
 だけどまた付き合おうと思わない。
 一度付き合って別れたからか今の関係がちょうどいいなとか思うんだ。
 俺と付き合いたがってる空には悪いけど、もう少しだけこのままでいさせてほしい。
 
 もしその間に空が他の奴を好きになったらとかも考えたけど、そしたらそん時考えりゃいいかなって。てか空はずっと俺の事を好きだと言ってるから他を好きになるとか想像つかねぇだけなんだけど。

 空は俺がそんな風に考えてるなんて知らないだろう。
 隣にいる空を見ると楽しそうに笑っていた。


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