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3章 年下の友達

※ 貸すような相手はいません

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 ※双葉side

 類と話さなくなって俺はまた一人になった。
 学校では誰とも会話をする事なくただ勉強だけをして過ごす日々が続いた。
 そして金曜日、そんな日々に少し異変が起こった。


「……?」


 次の授業で使う教科書が無くなっていたんだ。
 机の中、鞄の中、ロッカーの中。全て探したけど見つからない。
 家に忘れた?そんな筈はないのにと不思議に思いながら席に着く。
 こんな時は違うクラスに借りに行くもんだけど、俺には借りに行くような友達なんていなかった。
 だから仕方なく次の授業は教科書無しで受ける事になった。


「それじゃあ。次の文を前から順番に読んでもらおうか。浅野からな~」

「…………」


 こう言う時に限って指されるんだよな。
 教科書の無い俺は勿論どこを読めば良いのかなんて分からなかった。じーっと先生を見てると、先生は気付いて顔を強張らせた。


「どうしたんだ浅野。教科書は?」

「無くなりました」


 ここで教室がザワザワし始める。
 俺の席は一番前だから顔は見えないけど、ヒソヒソと話す声があちこちで聞こえてくる。
 

「無くなっただぁ?どういう事だ?」

「知りません。持って来た筈なのに机の中にも鞄の中にもロッカーの中にもありません」

「誰かに貸したとかは?」

「貸すような相手はいません」

「ってもなぁ、無くなるなんておかしな事……」

「先生~!俺の貸しまーす。ほい!ここ読むんだよ~」


 俺と担任のやりとりを中断させるかのように後ろの席に座る類が教科書を開いて渡して来た。
 受け取るか迷ったけど、これ以上授業を遅らせたら良くないと思って借りる事にした。


「よし、石原ありがとうな。浅野は次の授業までに教科書を用意しておきなさい」

「……はい」


 次の授業までにって、無くなったのにどうやって?新しく買えって言うのか?
 第一教科書が無くなるなんてあり得ないだろ。
 誰かが故意に俺の机から盗ったとしか……


「双葉、早く読んで~。次俺の番だから~」

「……ああ」


 類に急かされて俺は不貞腐れながら教科書を手に取り、指定された文を読み上げた。

 仕方ない。帰りに本屋へ寄って買って帰るか。使ってる物と同じ教科書があればいいけど。

 
 次に起こったのは少しレベルが高い異変だった。
 帰ろうと階段を降りていると、突然誰かが俺の背後に駆け寄って来てドンッとぶつかって来た。
 そしてバランスを崩した俺は足を踏み外して階段から転げ落ちた。幸い段数の少ない所で押されたから大きな怪我はしなくて済んだ。
 けど、痛いものは痛い。足首捻ったかも……
 
 しかもぶつかって来た相手は落ちた俺に何も言わずにそのまま立ち去って行ったんだ。
 絶対落ちたの分かった癖に。
 
 俺は痛む右足を引きずるように、学校を後にした。

 多分、いや絶対わざとだろ。教科書も階段での出来事も、全部誰かがわざとやったに違いない。
 
 今までの俺は、周りから空気のような扱いを受けて来た。でも、空気でいられたのは類のお陰だ。類といたから美化されて綺麗な空気のように扱われていたんだ。

 類といる前の俺は腫れ物扱いをされていた。
 小学校では無口で大人しいのは変わらないけど、今より素行が悪かった。気に入らなければすぐに手が出る問題児だった。
 学校に親が呼び出される事もあった。
 それを知っている者達は俺を嫌煙していた。

 中学に上がってからは初めから類と言う人気者の側にいたから、段々と問題児の印象も薄れて、類を通して声を掛けてくれる人達もいた。
 それでも俺は誰とも話さなかった。
 類だけいてくれればいいと思っていたからだ。

 俺には類がいる。類が笑ってくれればそれでいい。

 でももう類は俺の側にはいない。
 俺から突き離した結果がこれだ。

 結局は類がいなければ俺は空気以下の存在だって事だ。
 卒業まで後少しだし気にしないように過ごすつもりだ。何より今の俺には後がない。学校を休んでる暇もないんだ。

 塾まで少し時間があるから、帰らずにどこかで夕飯を済ませようかと悩んでいると、ふと貴哉が思い浮かんだ。

 ああそうか、俺の太陽だった類がいなくなって、次は貴哉が太陽なんだ。
 暖かい場所を知ってしまった俺には冷え切った場所はどうやら耐えられないらしい。
 今日の出来事を気にしないなんて無理だ。
 きっといつかまた手を出してしまうかもしれない。

 俺は震える手でスマホを取って貴哉に電話を掛けていた。



 
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