25 / 100
2章 兄と弟
※ 朝は食べないから
しおりを挟む※伊織side
次の日の朝、床に敷いた布団で目が覚めると、俺のベッドを使っていた兄貴はいなくなっていた。
ふと寂しさが込み上げてくる。
兄貴がいなくなるのは慣れてる筈なのに……
昨日寝付くまでずっと話していたからか。
兄貴に嫌われた時からの空白を埋めるかのように俺は兄貴にたくさん話しかけた。
途中で兄貴はウトウトしてたけど、それでも俺は楽しくてずっと話し掛けていた。
まるでそんな出来事が夢だったような朝だった。
「はぁ……」
一人でため息をついて部屋を出ると、一階の方から物音がした。
兄貴だ!
俺は急いで階段を降りてリビングに行くと、兄貴がコーヒーを淹れている所だった。
俺に気付いて表情を変えずに俺の分のコーヒーをテーブルに置いた。
「はよ。どうしたよそんな慌てて」
「いや、兄貴がいなくなっちゃったと思って……」
「なんだそりゃ。一緒に父さんのとこに行くって言っただろうが」
兄貴は冷蔵庫を開けて「チッ」と舌打ちをした。
「何だよこの家は食いもんがなんもねぇじゃねぇか。お前普段何食ってんだよ」
「朝は食べないから……夕飯とかも外で食べたり買って来たりしてる」
「はい無駄遣い~。自炊しろ自炊」
乱暴に冷蔵庫を閉めながら軽く怒られた。
自炊する時もあるけど、一人で食べる飯は美味しくないんだ。だから食えれば何でもいいって思って外食とかが多いだけだ。
「兄貴は自炊してるのか?」
「当たり前だろ。言っとくが俺はカードなんか渡されてねぇぞ。てかんなもん断ったわ」
「え、そうなのか?でも遊ぶ金は?」
「全部バイト代でやり繰りしてるってーの。学生なら普通だろそんなの。家賃と学校で掛かる費用は出して貰ってるけど、その他は全部自腹だ」
「知らなかった……兄貴すげぇ」
「凄くねぇんだよ。普通だ普通!お前が世間知らずなだけ!まったくっ」
今の俺の生活は親から渡されたクレジットカードで成り立っているようなもんだ。それがなかったら何も出来ない気がする。
でも兄貴は自分で稼いでその金で遊んだり生活したりしてるんだ……
俺が思ってた兄貴と違って素直に感心した。
グレてしまった兄貴は絶対親から金を貰ってると思っていた。
「幸い光陽がバイトOKだったから、そん時から貯めてたんだよ。お前みたいに誰とでも仲良くして誰とでも遊んでねぇからすこぶる貯まったわ」
「城山はダメだからなぁ」
「……腹減ったし、身支度したら出るぞ」
確かに交友関係は広そうには見えなかったけど、少なからず連んでた友達はいたように見えた。それでも自分のバイト代だけで遊べてたって言うのか?そんなの可能なのか?
兄貴は顔をふいっとしてリビングから出て行った。
俺はコーヒーが置かれたテーブルに座って、しばらくそのままでいた。
兄貴が朝までいてくれて、俺にコーヒーまで淹れてくれた。
こんな事は初めてで、とにかく嬉しくて仕方なかった。
この後二人で出掛けるのも楽しみだ。
兄貴とは一緒に出掛けた事がないからどんな感じなんだろう。貴哉に似てるなら絶対楽しいだろ。
兄貴はどんな風に歩いてどんな物を食うのかな?今日いろいろ知れたらいいな♪
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。



そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる