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2章 兄と弟
※ 悪かったよ。俺のせいで
しおりを挟む※伊織side
風呂から出て兄貴の部屋に行くと、ベッドに寝転がってスマホをいじっていた。良かった。まだ起きててくれた。
「兄貴~♪布団持って来ていいー?」
「てか明日父さんのとこ行く事になったわ」
「えっ!?」
俺が許可を取ろうと聞くと表情を変えずに違う答えを言った。
父さんの所にって、俺達が?
今までもどこかで待ち合わせてランチしたりディナーしたりした事はあったけど、それは年に数回とかで、何かの節目だったり特別な時だけだ。
今回は俺の件でって事か……
「お前が風呂行ってる時に電話したんだけど、本当はこっちに来る予定だったのに来れなくなったって。だから父さんちに行く事になった。今から来てくれとかクソみてぇな事言い出したから二人共もう風呂入ってるし湯冷めするからって断った」
「父さんちって、どこなんだ?」
「さぁ?俺も知らねぇ。場所はメッセージくれるって」
ここにも家があるのに父さんちに行くってのは変な事だけど、父さんや母さんなら仕事柄便利な場所にも家を持つのは不思議じゃない。
実際滅多に帰って来ないんだからそっちがメインである事は間違いないだろう。
「はぁ、まじ面倒な事になったぜ」
「悪かったよ。俺のせいで」
「本当だ。明日は予定あったのによ」
「そうなのか?それなら父さんのとこには俺一人で行くよ」
「いや、二人で来いって。仕方ねぇから朝イチで行ってさっさと済ませるぞ~」
「うん……ごめん」
俺が起こした問題で兄貴にも迷惑を掛けた事に罪悪感が湧いた。
俺も貴哉に会わせようとか浮かれていたけど、そんな事を言ってる場合じゃなくなったな。
まずは俺自身の問題を片付けないと。
俺が部屋から出て行こうとすると、兄貴が「待て」と言って、体を起こして俺の所まで歩いて来た。
顔は……怒ってる?
「今日はお前の部屋で寝るぞ。俺の部屋何もなさ過ぎてつまんねぇ」
「……うんっ♪」
無表情だったけど、兄貴の言葉に俺は嬉しくなった。
兄貴の部屋に物が何もないのは、もうここには戻らないって意思表示だと思っていた。細かい物など必要の無い物はクローゼットにしまって、本当に生活する空間にはベッドだけが残っていた。
何もなさ過ぎてってのは兄貴なりの励ましだと俺都合で捉えてくすぐったい気持ちになった。
まるで今のこの時間が子供の頃に戻ったようで俺はいつものキャラを忘れて兄に甘える弟になっていた。
兄貴は俺の部屋に入るなりベッドを陣取った。予想はしていたけど、俺は物置になってる部屋から客用の布団を持って来て床に敷いた。
客用の布団なんて滅多に使わないけど、お手伝いさんが月に一度は天日干ししてくれていたから気持ち良く使えそうだった。
「なぁ、お前の彼氏って良くここ来るのか?」
「いや、たまにだよ。俺が貴哉んちに行く事の方が多い」
「ふーん。うちの話はしてあるのか?」
「親の事は話してある」
「おー、お前が言うなんてよっぽどだな。その指輪も伊達じゃねぇって訳か」
「うん。とても大切な人だ。だから兄貴にも会わせたい」
「いらねぇよ。お前が誰と付き合おうが俺には関係ねぇ。好きにしろよ」
「兄貴は?付き合ってる人いないのか?」
兄貴の性格はこんなだけど、桐原家なだけあって外見は良い。顔もスタイルも俺と同じで誰がどう見ても文句無い見た目をしている。
中学時代、同級生の女に兄貴の事を紹介してくれとか言われた事もあった。ただあまり浮いた話は聞いた事がなかった。
でも、部屋にローションがあったぐらいだから全く無いって訳じゃないだろう。
「いねぇよ。今は忙しいから作らねぇ」
「忙しいって学校?大学も大変なんだな」
「おうよ。自立する為に頑張ってるのよ。でも結構楽しい」
「そっか。ちゃんと考えてるんだな」
「ああ。俺は父さんや母さんみてぇになりたい訳じゃねぇ。普通でいいんだ。普通に暮らせて普通に飯食えたらそれでいい」
「それ、今なら俺も分かるよ」
「派手好きのお前が普通の暮らしなんか出来るのかよ?高校生の内から親のカード使って散財してる癖に」
「それは反省してるって。ただ、貴哉の事がどうしても欲しかったから」
「貴哉ね~。なぁ、貴哉はその指輪貰ってどんな反応したんだ?」
「喜んでたよ。でもアクセサリーとかするタイプじゃないから、貴哉が指輪が欲しいって言ったんだけど、それは嘘だって分かってた。嘘も本当にしてやれって思って買ってやったんだ」
「はぁ?訳分かんねぇ。その貴哉ってのはワガママなのか?欲しいって言ったり嘘ついたり喜んだり、聞いてるだけだと良い奴には聞こえねぇな」
「良い奴だよ。人によって態度変えないし、口が悪いけど、周りから好かれてる。これ言っていいのか分からないけど、兄貴と似てるんだ」
怒られる覚悟で似てるって事を言うと、ずっと無表情で話してた兄貴の顔驚いた顔をした。
そしてすぐにニッと笑ってこう言った。
「そりゃめちゃくちゃ良い奴じゃねぇか♪」
どうやら言って良かったらしい。
何故か兄貴は機嫌良くなった。
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