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2章 兄と弟
※ 俺が親に媚を売っただと?
しおりを挟む※伊織side
兄貴から聞いた俺を嫌う理由に怒りが湧いた。
俺が親に媚を売っただと?
そんな事した事もなければしようとも思ってねぇよ。
むしろ俺は自分の両親にコンプレックスを抱いていた。父さんは美形大物俳優、母さんは世界的に活躍するファッションデザイナー。そんな親がいたら周りは子供に期待の眼差しを向けるだろ。
そして比較し評価する。
「さすが◯◯の子供だ」「やっぱり◯◯の子供は優秀だ」「七光りってやつだな」
俺はそんな風に言われたり思われるのが嫌で、自分の両親の事は周りに隠して生きて来た。
この事を知ってるのは幼馴染の怜ちんと那智だけだ。
だから俺は自分の力で何でも出来るようになりたくて、何でも挑戦して出来るようにして来た。
それだけだ。
親に負けたく無くて、頑張っていただけなのに、兄貴にそんな風に思われていたなんて、俺は怒りで殴りかかりそうになるのを必死で堪えた。
俺の気持ちも知らないで勝手な事思って勘違いしやがって。
両親の仕事柄、兄貴と俺はいつも二人きりだった。夕飯まではお手伝いさんや親戚の人が来てくれていたけど、その後は二人きり。
でも俺は全然平気だった。
兄貴がいたからだ。
兄貴が一緒に風呂に入ってくれて、一緒に勉強してくれて、一緒に寝てくれて、そして一緒に朝ごはんを食べてくれたから、俺は全然寂しくなかったんだ。
それが急になくなった時、寂しさよりも疑問の方が大きくて、毎日のように兄貴の部屋のドアをノックしていたんだ。
悔しい。兄貴に誤解さえされなければもっと違っていたかも知れないのに……
「父さんと母さんの事は凄い人だって尊敬してる。でも、憧れたりなんかしてねぇ。大きくなってからは滅多に会えなかったし、ただ不自由なく生活させてくれてる事に感謝してるぐらいだよ。俺は兄貴とこんな風になった事の方が……悲しかった……」
「…………」
兄貴は無表情のまま俺を見ているだけだった。
今更仲良く何て出来ないのは仕方ないとして、普通に話すぐらいはして欲しかった。
「兄貴、誤解させるような行動してたのは謝るよ。俺が悪かった……」
「はぁ、やっぱりお前の事嫌いだわ」
「…………」
「そうやって簡単に話をまとめて終わらせようとしやがって。自分から折れて大人気取りか?まるで俺がガキ扱いされてるみてぇで気分悪ぃ」
「人が謝ってんのにっ……」
「捻くれてると思ったろ?」
「!」
図星を突かれて何も返せなかった。
今仲直り出来そうな雰囲気だから余計な事を言って怒らせたくない。
俺のギクッとした反応を見逃さなかった兄貴はベッドから立ち上がって部屋のドアまで歩いて行った。
「自分でも分かってるよ。それと、俺にも謝らせろって事。ガキの頃、変なプライドでお前の事避けて悪かった。寂しい思いさせて悪かったよ」
「え……兄貴っ?」
俺に背を向けてドアノブに手を掛けてる兄貴の顔は見えなかったけど、確かに今兄貴が俺に謝った。
信じられない事が起きて俺は状況を飲み込もうと一生懸命に頭を働かせていた。
「ほら、お前の部屋行くぞ。他に変な物買ってねぇかも確認してくれって言われてんだ」
「あ、うん」
俺の思考が出した答えは兄貴に従う事だった。
今はたくさん話してくれた兄貴の言う事を聞こう。
そうすればもう少し長くこうしていられる気がするから。
俺は部屋から出て行く兄貴の背中を追った。
子供の頃とは違って背は追い付いちゃったけど、とても広くて頼もしく見えたあの背中は変わらなかった。
そして話して分かった事。
俺が兄貴に嫌われてても、俺から嫌いになれなかった理由が分かった。
兄貴は貴哉に似てるんだ。
そして俺が貴哉を好きになって執着する理由も、貴哉は兄貴に似てるから。
二人共分かりにくいようで結構単純な事で怒ったりする。え、そこって所で驚かせてくれる所とかそっくりだ。
たとえ兄貴に嫌われてても、貴哉に別れると言われてても、やっぱり俺は二人の事が大好きだ。
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