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一章
44.記憶にない母親
しおりを挟む夜。明日の旅行で持って行く物をアースと一緒に確認していたら、アキトが上機嫌で部屋に入って来た。もう日付が変わると言うのに、大人達は随分盛り上がったみたいだな。
「ウル~♡遅くなってごめんね~♡寂しくて泣いてたかにゃ~?」
「酒臭っ!明日起きられるのかよっ」
「大丈夫だよ~。私は天才科学者だからね~♪それよりもウルに会いたくて会いたくて……」
フラフラと近寄って来て俺にいつものように抱き付いて来た。二日酔いで旅行が中止とかになったりしねぇよな?
「アース、水を持って来てくれ」
「了解」
「ウルは優しい子だね~♡」
「アキト、すぐに寝ろ。着替えさせてやるから。そして明日はちゃんと起きるんだぞ」
「ふふふ♡大丈夫だってぇ♡私は天才科学者なんだから~」
ダメだ。自分の事を天才科学者だと名乗るアキトは重症だ。とりあえず早く寝かせないと、明日に支障が出るぞ。
アースが持って来てくれたミネラルウォーターを飲ませてそのままアースに着替えを手伝って貰った。くそ、アキトの奴無駄に手足が長くて脱がせ難いな。
「ウル、こっちは任せてドア開けてくれ。俺がアキトの部屋まで運ぶから」
「分かった」
「やー!ウルに抱っこしてもらうのー!」
「アキト暴れるな!」
アースを嫌がるアキト。だから程々にしとけって言ったのに!
俺がドアを開けて、嫌がるアキトを無理矢理押さえ付けて連れて来るアースを誘導する。
そして無事アキトの部屋に連れて来る事に成功する。はぁ、疲れた。俺も早く寝ないとマズイな。
「アース、アキトを寝かせてさっさとずらかろう」
「ずらかる……そんな言葉どこで覚えて来たんだよ」
「んな事はどうでもいい!早くベッドに寝かせろ!」
「私のウル~♡一緒に寝よう~♡」
「ほらアース!早くしろ!」
「いや、正直俺はアキトには手荒な真似は出来ねぇんだって。ウルも分かってるだろ」
「その通り!私の特権でいつでもアースを眠らせる事が出来るからね~♪なんてったって私は天才科学者だから!」
「卑怯な奴だぜ」
確かにアースの主人は俺だけど、アースを造った大元はアキトだ。アースの動きを止める事なんか俺よりも簡単に出来るだろう。
あまりアースにも無理はさせたくないしな。
俺はアキトを寝かせるのを諦めて、アースの代わりに俺がアキトを支えてやった。
「アース、もういい。俺がやる」
「悪いな」
アースには離れてもらって自分でアキトをベッドまで連れて行く。すると、アキトはクスクス笑っていた。
「本当に大きくなったねウル」
「あ?何だよいきなり」
さっきまで暴れていたのが嘘の様に大人しくなったアキトはボソリと言った。
そのままベッドに寝かせてやると、薄っすら目を開けて俺を見て笑った。
「ウル、君の成長を見届けるのが私の役目なんだ。私の姉である君の母さんの最後の願いだからね」
「……母さんの?」
これには驚いた。今までアキトが俺に俺の本当の親の話はした事が無かった。俺も記憶が無いから触れてはいけないものだと思い込み敢えて聞いて来なかった。
俺は記憶のある5歳からこの研究所にいて、アキトに育てられて来た。野々山とトキもいて三人が俺の親代わりだった。本などで家族という物がどんな物なのかは分かっているつもりだが、正確な物は知らない。
きっと俺がアキトに対して抱く感情こそが親に対する物だと思っているけど、実際はどうなんだろう。本で知った親子というのは基本的に男性である父と女性である母の間に子供が出来て、それを親子と言うらしい。それは動物などの生き物にも言える事だ。
アキトは男。なので当てはまるならば父親になるだろう。俺は女である母をどんな物なのか知らないんだ。
だから今アキトが話してくれた母さんについて、興味があった。
「君ももう18歳で大人だ。いつまでも隠している訳にはいかないなと思ったのだよ。もちろん隠していたのには訳があるのだが、それは今は話せない。分かってくれるよね?ウル」
「ああ」
「君の母さんの名はヒカリ。姉さんはいつも元気で男勝りな性格だった。私と同じく科学者の道を歩んでいて、とても立派な人だったんだ」
アキトが話す俺の母親「ヒカリ」の事を俺は大人しく、しっかりと聞いていた。
"だった"と話すのはもうこの世にはいないからだ。俺はアキトから両親は俺が1歳の時に事故で亡くなったとだけ聞かされていた。
「そんな姉さんが亡くなったのには私もとても悲しんだよ。最後に姉さんが私に残した言葉は今でも鮮明に覚えている。"私もウルの成長を見たかった"そう言って最後まで君の事を話していたよ。だからね、私は君の事を実の子だと思って育てて来たんだ。私にとって大切な姉さんの子だから、姉さんの分までウルの成長を見届けるんだ」
「アキト……」
「母親の代わりは出来ないけれど、父親の代わりなら出来るからね。ウルが私の事を父親とは思えなくても、私の目の届く所にさえいてくれればそれでいいんだ。私のウル、お願いだから私の元からいなくならないでおくれ」
姉さんの話をしている時のアキトは笑顔だったけど、次第に悲しそうな表情になるのが分かった。
それは今までに散々言われて来たセリフだった。ただの親バカだと思っていたけど、この話の流れからするとどうやら何かあるみたいだな。
俺はアキトが自分の元に置いておきたい訳を知りたかったけど、今はそっとしておこうと思った。
「いなくならねぇよ。俺に本当の親が過去に存在していたとしても俺の親はアキト、お前だ。だから人前で抱き付かれるのは嫌じゃないんだ。恥ずかしいけどな」
「ウルッ♡お願いだ。今日は抱き締めながら寝させておくれ?ああ君がいてくれて私はとても幸せ者だよ」
「はいはい分かった。アース、部屋に戻って休んでくれ。あ、それと朝起こしてくれ。頼んだぞ」
「了解」
俺とアキトのやり取りをずっと見ていたアースを見ると微笑んでいた。
俺はアースを自動スリープモードに入るように設定してアキトの腕の中で眠りについた。
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