カラフルパレード

pino

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一章

43.蒼司の不安

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 スズと少し話してからそれぞれ別れて部屋へ向かう。俺はアースとエレベーターまでの廊下を歩きながら話をしていた。


「なぁアース、今度から地上で暮らすんだって」

「みたいだな。良かったなウル」

「ああ。でもさ、アキトは心配してるんだ。だから複雑な気持ちだ」

「俺も地上がどういう所かは直接は知らない。けど、ウルがいるならどこでも良い所に変わりはねぇよ」


 アースはいつものようにそう言った。
 アースはいつも欲しい言葉をくれる。
 それはアースに限らず他の人造人間もそうだろう。主人に忠実に寄り添うパートナーだから。
 きっと俺達超人はこの人造人間の存在が無かったらここまで成長できなかったし、強くもなれなかっただろう。

 実際地上への憧れは強い。
 その分不安もある。今更地上へ出てやっていけるのか。アキトや他の超人達もいるけど、俺以外は元々地上で暮らしていたんだ。
 まず、ちゃんと息出来るかなぁ?


「はは、俺も同じだよ。アースがいないなら地上には行かない」

「それはどうかな?ウルはすげぇ地上に行きたがってたし」
 
「本当だって。アースは地上へ出たら何がしたい?」

「そうだなぁ、ウルが見たい物を見たいかな」

「俺が見たい物か。俺は……」

「何が見たい?」

「空が見たい」

「空か。いいじゃねぇか。一緒に見よう」

「おう!」


 数回行ったことがある地上で最も興味を惹かれたのが空だった。どこまでも続く果てしない天井に俺の心は奪われた。
 ここでもモニターでいろんな空を見る事が出来るけど、本物は比じゃないだろう。

 俺はアースと笑いながらそんな話をしていた。

 
「兄さん」

「あ、蒼司」


 名前を呼ばれて振り向くと、蒼司が一人立っていた。スーツのジャケットは脱いで手に持っていた。愛刀も返してもらえたみたいでいつものように腰に下げている。


「少し話せるかな?兄さんさえ良ければ」

「ああいいぜ。サクラは?」

「先に部屋に帰したよ」


 当たり前かのように言って蒼司は俺の隣に並んだ。今日の蒼司はより男前に見えるな。綺麗なサクラが並んでいたらお似合いなのになと思う。

 俺と蒼司は近くの雑談室へ入って少し話す事にした。


「蒼司、話って?」

「ライアン代表の話だよ。兄さんは賛成だよね」

「ああ。今のところはな」


 そうか。蒼司は地上では嫌な思いをして来たもんな。俺も蒼司から聞いた話しか知らないけど、あんな事があったら俺でも生きるのが嫌になるかもしれない。
 
 だけど、蒼司は俺が思っていた反応と違って笑顔で話していた。


「俺も賛成だよ。地上の人間達の事は今でも嫌いだけど、兄さんがいるからね」

「お、そうか」


 さっきアースに言われたようなセリフを言われてアースと笑い合う。俺も蒼司達がいるからってのもあるから気持ちは分かる。


「ただ怖いのは兄さん、貴方が壊れてしまうかも知れないと言う事だよ」

「俺が壊れる?そう言えばアキトにも同じような事言われたな」


 俺は破壊神だの何だの言われ続けて来たけど、「壊す」じゃなくて「壊れる」は聞き慣れなかった。
 一体何の事なんだか分からない。


「兄さんは地上での生活は全く経験がないだろ?地上で多くの物に触れた時、それが悪い物だった場合、兄さんが耐えられるのか不安なんだ」

「んー、良く分からねぇけど、心配してくれてるのは分かる。もしそうなりそうな時は蒼司、お前が何とかしてくれよ。超人の中では付き合いが一番長いし、なんならアースよりも長いよな」

「兄さん……」

「妬いちゃうね~」


 俺の隣に座るアースは笑いながら言った。
 そうだ。蒼司と初めて会ったのは地上だった。
 俺が10歳の時に、アキトと地上へ行った事がある。それが俺にとっての初めての地上だった。
 その時の俺は初めて見る物達に目を奪われて一番目を惹かれた空を見ていたんだ。そしてその空から降って来た何か。大きな建物の一番上から黒い塊が落ちて来たんだ。
 アキトに言うと、慌てて「人だ!助けられるかい!?」と言われて俺はいつも通りに猛スピードでその落ちて来る何かに向かって走った。
 地上で能力を使うのはいけないと言われていたけど、この時のアキトを見て自然と使っていた。
 俺はただ夢中でその黒い塊に向かってビルの側面を走った。その黒いのに到達するのは簡単で、あっという間に俺は黒い塊を捕まえた。

 それはアキトの言う通り人だった。
 そう、落ちて来た黒い人は当時12歳の蒼司だったんだ。
 俺は蒼司をギュッと守るように抱き締めてそのまま地面に向かって落ちて、両脚でしっかり着地した。日頃の訓練に比べれば容易かった。
 俺の腕の中の蒼司は気を失ってたけど、息はしていた。だけど、蒼司は涙を流していた。そして両手首が無かった。アキトがすぐに駆け寄って来てそのまま研究所に連れ帰ったんだ。
「アキト、こいつ手首が無い。なんで?」
「ウル、急いで研究所に戻ろう!この子が危ない!」
 その時の俺は蒼司の状態がどれだけ酷いのかとか良く分からなかったけど、アキトの焦りようを見てヤバいんだって理解した。
 それからいろいろあったが、蒼司はこのアキトの研究所で暮らす事になり、超人としてアキトに強化されるという道を選んで今に至るんだが。

 ふと昔話を思い出して改めて目の前にいる蒼司を見ると、あの時とは別人のように立派な男に育ったなと思った。俺のが年下だけどな。

 まぁそんな訳で俺と蒼司は他の誰よりも長い時間を共にして来た仲なんだ。俺は蒼司を信頼してるし、蒼司も俺の事を「兄さん」と呼ぶぐらいだから信頼してくれてるだろう。


「うん。俺が兄さんを守るよ」

「うし!そんじゃまずは明日からの旅行を楽しもうぜ!」

「……あのさ兄さん」

「何だ?」

「何だか兄さん変わったな」

「俺が?どんな風に?」

「なんて言うか、前より笑うようになった?明るくなったなぁって思う」

「そうか?アースも言ってたな」

「俺もそれは感じるぜ。ウルはいつもボーッとしてて何に対しても動じない男だったけど、最近は良く笑うよな」

「んー、自分では分からねぇけど、憧れてた地上に行ける事になったからじゃん?」


 二人に自分の事を言われて少し照れて来たから誤魔化して話を終わらせようとした。
 本当に自分では変化が分からない。
 確かに最近は旅行の準備やスズの世話など今までに無い事をして来たし、体験もした。でも悪い方に変わった訳じゃねぇみてぇだし、あんま気にしなくてもいいだろ。

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