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一章
40.金と白のおじさん
しおりを挟む18時より10分ぐらい前に、俺とスズはアースと黒豆を連れて会食が行われる大広間の前の廊下へ来ていた。
この大広間は何かあった時や集会などに使われる事が多いが、俺達超人や人造人間が来る事は少なかった。
大広間を使うのは主にアキト、野々山、そしてその周りの研究員や社員達。ライアンや他の客が来た時に使ったりもするから極秘である俺達がいたらまずいんだ。
「あ、待ってウル。ネクタイがズレてる」
「ん」
そう言って俺の締めてる紺色のネクタイを締め直してくれるアース。何でもライアンが来るから正装を着て来いとの事。ネクタイとか締め慣れないから早く外したくて仕方なかった。
「ウルってばグレーのスーツが似合うな~!そのシルバーの髪と合ってるよな」
「アース殿も背丈があるから黒いスーツでモデルのような見た目にゃー」
「そりゃどうも♪スズもいつもと違った雰囲気でかっこいいし、黒豆もオレンジの蝶ネクタイがイケてるぜ」
アースは背が高いからスーツが似合う。今日は赤い髪の両サイドを全部後ろに持っていってワックスとヘアスプレーで固めているから、何だかアースじゃないみたいでソワソワした。
スズはストライプ柄のダークグレーのスーツに、オレンジ色のネクタイを締めていた。オレンジ色は黒豆と合わせたのか、オレンジ色の蝶ネクタイを付けて、上半身のみ青色のベストを着た黒豆と楽しそうに戯れていた。
「そろそろ行くぞ。あまり遅いとうるせぇからな」
「この扉の向こうにはここの中心達が集まってるんだよな!楽しみだぜ♪」
「…………」
ここの中心か。確かに、スズには超人全員に会わせたけど、こうして一斉に集まるのは初めてだな。それにこの会食はライアン参加で、人造人間も同席必須。つまり蒼司もサクラを連れて来てる筈だ。そうなると、本当に主要メンバーが揃っている事になるな。
こういう集まりは滅多に無いが、大体こういうのは来る順番が決まっているんだ。
まず一番最初に来るのは蒼司だ。そしてルカ。その後すぐにアキト。大体この三人は早めに来る。その三人の後にトキ、野々山。それからしばらくして俺。その後更に遅れてレオ。ゼロはまだこういう集まりは参加した事がないけど、俺の予想ではレオと同時ぐらいに登場する筈だ。
俺が大広間の扉を開くと、中は一際明るい照明でキラキラして見えた。そして、クラシックの音楽が流れていて、とても優雅な雰囲気だった。
会場となる大広間の真ん中には人が何十人も座れそうな大きな円卓のテーブルがあって、上にはご馳走が用意されていた。
そして俺の予想通り、俺より先に来てると思っていたメンバーが揃っていた。
「私のウル~♡こっちへおいで~♡」
部屋の奥、入り口から見て円卓の奥の方に座っていたアキトが立ち上がり俺に向かって手を振った。今日は長い黒髪をトップにまとめてキラキラした髪飾りを付けていた。前髪と顔の横の髪だけ垂らしていて、いつもより大人っぽく見える。服装はいつもより綺麗な白のワイシャツにネクタイ、体のシルエットがハッキリ分かる細身のスーツを着ている。さすがにジャケットは肩に掛けずにちゃんと腕を通していた。
アキトの隣には噂のライアンがいた。ライアンはとても綺麗な金色の髪をしている。瞳の色も金色で、見るだけで大物だって言うのが分かるオーラが漂っていた。白を基調とした制服を着ていて、左肩にはグレビリア国政府の関係者みんなが付けてる小さいマントが付いていた。そのマントの色は黒に近い濃い青色。青色はグレビリア国の色とされていて、この青色のマントの色の濃さで階級が決まっている。つまりトップであるライアンが付けてるマントの色が一番濃い青だ。それから順に薄くなっていく。一番下だと白に近い青になる。
アキトに呼ばれたからため息を吐きながら近付く。アースも後ろを付いて来た。
そして近付いて行くと、ライアンと目が合ってニコッと笑顔を向けられた。
金色と白の派手な見た目のおじさん。アキトより年上だけど、そう感じさせないぐらい若々しい見た目をしていた。キリッとした金色の眉毛に、真っ直ぐこちらを見る二重の目。スッと通った鼻筋に、笑うと大きい口。随分しっかりとした顔付きをしているおじさんだ。
「ウルー!大きくなったなぁ!俺の事覚えているかぁ?」
そして声もデカい。レオといい勝負だ。
「こんばんはライアン代表」
「おおー!いっちょ前に挨拶出来るようになったかぁ~!ほら俺の横座れよ♪」
「ウルは私の隣って決まってるんだ!ライアン、君はすぐウルにちょっかいを出そうとする癖直したらどうだい!?」
俺からしたらどっちもどっちだけどな。
言われた通りアキトの右隣の空いている席に座る。こういう時の順番は大体決まっている。アキトを中心とするならば、アキトの右隣に俺。そして俺の右に蒼司、レオ、ゼロって感じになる。そしてアキトの左隣には野々山とトキが並んで、その後にルカ。そしてスズだけど、その順番通り行くなら、ルカの隣になる筈だ。今回の場合、円卓だからゼロの隣にもなるな。
「スズさんの席はこちらですよ♪僕の隣です」
「はいはーい♪ルカよろしくな~」
「ルカ殿♪よろしく頼むにゃー」
「黒豆くんだ~♡蝶ネクタイ可愛い~♡」
今日もキッチリ正装を着込んだルカは、サスペンダーを付けていて、エメラルドグリーンの宝石が付いている神秘的なピアスを身に付けていた。これはルカの国の王族が身に付けている物らしく、昔ライアンがプレゼントしたのだ。それからルカは大事な席では必ずそのピアスを身に付けていた。
そんなルカに呼ばれて喜んで歩いて行くスズ。ルカは常識のある奴だから隣で良かったかもな。その隣も腕を治してくれたゼロだし、俺が離れても大丈夫そうだな。ルカの後ろに立っているリリーも黄色いドレス姿でニコッと笑いお辞儀をしていた。
そしてやっぱりまだ空席のままのゼロとレオの席。予想通りだな。
「そろそろ時間だね。時間厳守だって連絡したのに、二人はまだみたいだね」
口調こそは落ち着いてるけど、アキトが怒ってるのが分かった。特に今日はライアンが来てるから余計だろう。
「アキトさん、二人には厳しい罰を与えるべきかと」
「おー、相変わらず怖い先輩だね~蒼司は」
「時間を守れないのも輪を乱すのも許せません。あの二人の奔放さは目に余る物があります」
ここで蒼司がライアン相手にハッキリと言った。さすが誰に対しても冷徹な男だ。
今日は黒のスーツ姿だからよりキツい感じに聞こえるなぁ。髪型はアースみたいにアレンジしていて少しお洒落に見えた。蒼司の後ろに立つサクラは薄いピンク色のドレスを着て黙っていた。
「よう蒼司ー。今日の髪型バッチリじゃん」
「兄さん……ありがとう」
「はは!ウルだけに甘いのも相変わらずなんだなぁ!」
「蒼司は私にも優しいよ~」
「お前はトップだから逆らえないだけだろ」
「人を肩書きで下を押さえ付けてるみたいな言い方しないでもらえるかな?」
「してないぞー。それよりどうするんだ?レオとゼロを待つのか?」
アキトはライアンに言われて小さいリモコンで時計のディスプレイを表示させて確認すると、ため息を吐いて両手をパンと叩いた。
どうやら予定の時間になったらしいな。
「時間だから先に始めよう。遅れて来た二人には私から叱ります。君たち乾杯の準備お願いね~」
立ち上がってアキトが言うと、周りにいたフューボット達が規則正しく動き出して、席に着く者達のグラスに飲み物を注ぎ出した。
そしてアキトは立ったままシャンパンの入ったグラスを持ち、部屋の中のみんなに向かって話しら始めた。
「えー、皆さん今日はお集まり頂きありがとう!本日は我らがグレビリア国の長であるライアン様も出席されてます。明日から行われる旅行の話を主にいろいろ発表する事あるから食事を楽しみながら聞いていただけたらと思ってます。ダラダラと話してても退屈しちゃうだろうから、私の挨拶はこの辺で。まだ来てない子達いるけど皆さん、お手元のグラスを……」
バンッ!
ここで大広間の扉が大きな音を立てて開けられた。
「だーっから!テメェは何でいつも俺の邪魔するんだっつの!!」
「うっさいよデブ猫!お前が邪魔な所にいるだけだ!」
アキトが始まりの挨拶をしてみんなもグラスを手にした時、俺達が入って来た大広間の扉が騒がしくバンッと開かれて、問題児の二人がこれまた騒がしく入って来た。アキトの言葉を遮るように……
こりゃヤバいなぁ。
隣にあるアキトを見ると、怒りを隠しきれてないのが分かった。
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