カラフルパレード

pino

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一章

39.受け入れられない者

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 医務室に入ると、比較的元気そうなトキが出迎えてくれた。俺を見て笑顔で声を掛けて来た。


「やあ破壊神♪体の調子はどうかな?」

「それを診てもらいに来たんだろうが」

「相変わらず生意気だな~。はいじゃあさっさと始めるよ!名前教えてもらえるー?」

「だから知ってんだろうが」

「この子は!」

「分かってるって。義務なんだろ。ウル・ラミレスだよ」

「君はどうして素直に一回で答えないかな~!?」


 トキはブツブツ言いながら助手の人造人間リヴィと一緒に機材を動かし始めた。
 俺は慣れたように診察台に寝転がって目を閉じる。

 身体検査はこうしてるだけで終わるから楽でいい。ただここまで足を運ぶのが面倒なだけ。
 トキも今日はマシだけど、野々山同様アキトにこき使われて徹夜の時なんかは酷い顔してブツブツ喋りながら八つ当たりしてくるから出来れば会いたくない。

 しばらくしてトキの声がして目を開ける。
 こうして考え事をしてるとあっという間に終わるんだ。


「はいお疲れ様~。ウルくんは体も心も健康だね。何か質問とかあるかい?」

「ない」

「そう。それからみんなに言ってるんだけど、今日の18時から大広間で会食するから時間厳守で頼むよ~。ライアン様も参加されるそうだから正装でバッチリ決めて来る事」


 トキはウインクしながら人差し指を立ててさっきアースに聞いた事を言っていた。
 俺は頷いて反応して診察台から降りて医務室を出ようとしたら、トキに呼び止められた。


「ウルくん、ちょっといいかな?」

「ん?何?」

「スズくんの事だけど」

「スズがどうした?」

「今世話をしてやってるって聞いたけど、彼の日常生活はどうかなと思ってね」

「気になるなら本人に聞けばいいじゃん。外で待機してると思うけど」

「本人が言う事と周りが言う事は違うだろ?一番近くにいる君に聞きたいんだ」

「別に普通じゃね?一応超人みんなには顔合わせしたけど、蒼司だけはいい反応してねぇな」

「他のみんなは受け入れたの?」

「まぁそんな感じ。蒼司は誰にでもああだから今後も変わらないと思うけどな」

「彼は僕にも冷たいからね。他には一緒にいて気になる事とかあるかな?」

「まだ聞くのかよ。あいつは良く食う。そんで寝る。レオみてぇだよ。他はみんなと一緒だ。俺が感じたのはそれぐれぇだよ」

「……例えば、外部と連絡取ってるとかない?」

「は?そんなのどうやってやるんだよ。あいつが初めに持ってた通信機みてぇなのはアキトが取り上げただろうが」

「ほら、一応奴らの仲間だったからさ」

「……俺が一緒にいる限りはねぇよ。これ以上は本人に聞け」

「そうか。引き止めて悪かったね~。それじゃあ会食の時間忘れないようにね~」


 何でトキがスズの事気にしてんだ?あいつの事を勘繰るのはアキトの役目だろうに。アキトに頼まれたとか?
 まぁ一緒に過ごしていて変だなと感じる所は無かったし、俺は何も隠さずに話しておいた。

 医務室を出ると、スズと黒豆が元いた場所で話をしていた。
 黒豆といて楽しそうに笑うスズ。

 この一週間ずっと一緒にいたけど、俺が思う不審な点は無かったと思う。
 確かに元敵ではあるけど、スズが俺達を騙してるなんて思えないぐらい馴染んできてると思うんだ。
 
 そう言えば、黒豆はルカの事を知らないみたいだったな。人造人間は俺達超人のサポートをこなして行く為に基本的な情報や知識をメンテナンスとかをした時に更新していく筈だ。
 だからアース同様、ここの超人達の情報なら知っていてもおかしくないんだ。
 アキトがわざと情報を入れなかったか……
 そうだとしたらまだ信用されていないと言う事か。仕方ないっちゃ仕方ない事だけどな。

 俺に気付いたスズが笑顔で手を振った。


「ウル~♪もう終わったのー?次僕の番だね~」

「ああ。異常は無かった。スズが終わるまでここで待ってるからな」

「ほんと?じゃあ僕もちゃちゃっと終わらせて来るな!そんでショッピング行こう♪」


 スズは笑顔のまま医務室に入って行った。
 俺は残った黒豆を見る。
 ここに猫がいるのは本当に不思議なものだ。
 猫に限らず動物と言う生き物は見た事がない。
 黒豆の場合は人造猫だけどな。

 俺はそっと黒豆に手を伸ばして背中に触れてみる。ヒーターが内蔵されているとか言ってたけど、本当にほんのり暖かくて気持ちいい♪


「ウル殿、俺様を抱き締めてもいいにゃー」

「!!」

「どうやら俺様は癒し系というやつらしいからな。スズが認めるウル殿なら大歓迎だにゃん♪」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」


 目の前の小さな黒猫の黒豆に言われて抱き上げる。そして優しく抱き締める……
 これはヤバいな!小ささや、やや釣り上がった大きな目、そしてこの温もり……何とも言えぬ安心感!可愛い過ぎる!
 猫っていいなぁ。


「ウル?」

「ひぃ!?あ!アース!!」


 俺は黒豆に夢中になるあまり、近付く気配に気付けなかった。
 なんたる不覚!アースが敵だったら間違いなくやられていたぞ!
 恐るべし黒豆!

 そして俺は黒豆を隣の椅子に置いて何も無かったかのようにアースを見た。


「ああ、終わったのか?」

「おう。特に問題は無かったけど……ウルはメンタルに異常でもあったか?」

「アース!今馬鹿にしただろ!」

「してないしてない。あ、次黒豆の番だぜ~」

「うむ!俺様も行ってくるにゃ!」


 アースに言われて黒豆はシュタッと椅子から飛び降りて堂々と歩いて行った。
 残された俺はアースにクスクス笑われた。

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